※『Storytelling with Data』は、Cole Nussbaumer Knaflic が2015年に著したデータ可視化の実務書です。邦訳は『Google流 資料作成術』(日本実業出版社・村井 瑞枝 (訳) )。グラフを飾るのではなく伝える道具として扱い、1) 文脈と聞き手を定める 2) 適切なグラフ型を選ぶ 3) 不要な要素を削る(declutter)4)色で視線を導く 5)設計者として考える 6) 物語の順に並べる、の6章で構成されます。統計手法ではなく、意思決定を動かす設計を扱う点が特徴です。

優れた物語には、ひとつの共通点があります ── 読み手の注意をつかみ、離さないことです。引き込まれる小説でも、見ごたえのある映画でも、聞き手の関心をとらえて導けるかどうかが、語りの効き目を決めます。データの可視化がもつ物語も、まったく同じです。
グラフやチャートは、単なる静止画ではありません。語ろうとしている物語を運ぶ、主たる乗り物です。関係者を引き込み、最も重要な洞察へ視線を向けさせ、よどみなく語りの流れをたどらせる ── そこまでやって役目を果たします。では、注意をつかみ、つかみ続けるには、どうすればよいのでしょうか。シリーズ第4回にあたる本記事では、関係者の関心を引きつけ、見てほしいところへ正確に視線を導くグラフ・チャートの作り方をご紹介します。
なぜ関係者を引き込む必要があるのでしょうか。理由は単純で、人間の集中力が続く時間は短いからです。発表の場で多くの人が経験しているとおり ── 聞き手は、思っているよりも早く集中力を失います。
たとえば、オンライン会議中の注意の持続を観察したフィンランドの研究があります。心拍計で関与の度合いを測ったところ、わずか10分ほどで眠気を覚える参加者が多く、居眠りしかけた人もいたといいます。自己申告だけでなく、計測値と参加者の回答を突き合わせた結果だとされています。
同様の報告は他にもあります。ワシントン大学の生物学教授 John Medina 氏は、学生を対象に毎年同じ実験を行い、注意力は10分を境にほぼゼロまで落ち込むという結果を一貫して得ている、といいます。教室でも、会議でも、関係者への説明の場でも、聞き手は、関心をつかんで離さない何かがないかぎり、話を聞き流すようになります。 だからこそ、データの可視化がもつ物語には、情報を伝える以上のはたらきが求められます。まず関係者を引き込むこと。そして、洞察を伝えるあいだ、注意を持続させることです。
気を散らすものがクリックひとつ先にある世界で、聞き手の注意をつかみ、保つにはどうすればよいのでしょうか。ここで登場するのが 前注意的属性(pre-attentive attributes) ── 色・サイズ・形といった、どんなグラフやチャートにも取り入れるべき視覚的な特徴です。
前注意的属性とは、「注意を向けて探す前に、もう目に入っている」視覚的な特徴を指します。 見落としているのではなく、探さなくても分かるという点が要です。
これらの性質は、見たものを意識的に分析しはじめる前に、ほぼ瞬時に ── 多くはミリ秒の単位で ── 脳が処理します。なぜでしょうか。人の脳が、対比に気づくようにできているからです。色・サイズ・位置の違いは、同じものが並ぶ背景のなかで際立ち、物語が展開するあいだ、聞き手の視線を引き寄せて導く標識として働きます。
これらの属性をうまく使えば、グラフやチャートがもつ物語の最も重要な部分を際立たせ、関係者の関心を、意図した場所へ正確に向けられます。たとえば、数百のデータ点を含む散布図を思い浮かべてください。特定の傾向に意思決定者の注意を向けたいなら、その点の色を明るくする、あるいは大きくするだけで、一言も発する前に注意が集まります。前注意的属性を使えば、注意をつかむだけでなく、可視化がもつ語りの流れに沿って関係者を導き、その注意を持続させることができます。
実例を見てみましょう。左が「ビフォー」、右が「アフター」で、いずれもコロラド州アダムス郡のウラン濃度を示したものです。同じデータでありながら、前注意的属性を使うかどうかで、注意のつかみ方と導き方が大きく変わります。



元のグラフでは、関係者は物語の最も重要な洞察に集中しづらく、関心が離れてしまいます。理由は次のとおりです。
結果どうなるか。注意をつかむことも導くこともできない図が残り、関係者の手元には、伝えたかった物語についての答えよりも疑問のほうが多く残ります。

では「アフター」を見てみましょう。前注意的属性を使い、関係者の注意をつかんで導きながら、物語を明快に伝えています。
もうひとつ、重要な点があります。「アフター」は格段に明快になりましたが、本当の物語は Sand Creek にあります。EPA の最大汚染レベルを超えているのは、この地点だけだからです。他の地点のデータも妥当ではあるものの、伝えたい物語に欠かせないわけではありません。この図をさらに磨くなら、メッセージを薄めかねないデータは載せず、最も大事なことに集中させることになるでしょう。
この作り変えは、色・形・かたちといった前注意的属性が、分かりにくい図を、物語の展開に沿って関係者の注意をつかみ、導く図へと変えられることを示しています。
関係者の注意を引きつけ、視線を導くことは、データによるストーリーテリングの土台であり、その重要性はかつてなく高まっています。聞き手が数分で集中力を失う以上、データの可視化には、情報を表示する以上のことが求められます。明快な語りの流れに沿って、関係者を引き込み、導くことです。色・サイズ・形といった前注意的属性を使えば、可視化がもつ物語は、意思決定者の注意を持続させるだけでなく、最も重要な洞察へと導けるようになるでしょう。