※『Storytelling with Data』は、Cole Nussbaumer Knaflic が2015年に著したデータ可視化の実務書です。邦訳は『Google流 資料作成術』(日本実業出版社・村井 瑞枝 (訳) )。グラフを飾るのではなく伝える道具として扱い、1) 文脈と聞き手を定める 2) 適切なグラフ型を選ぶ 3) 不要な要素を削る(declutter)4)色で視線を導く 5)設計者として考える 6) 物語の順に並べる、の6章で構成されます。統計手法ではなく、意思決定を動かす設計を扱う点が特徴です。

データの可視化に際しては、いくつもの選択肢が待ち構えています ── 棒グラフ、散布図、折れ線グラフ、スロープグラフなど。しかし、どの図表も同じではありません。それぞれに固有の目的があり、適切なものを選べるかどうかが、関係者に伝わるかどうかを左右します。選び方を誤れば物語は不明瞭なものとなり、誤解を招きかねません。適切に選べば、洞察は際立ち、強い印象を残します。
では、どう選べばよいのでしょうか。自分の選んだ図表は、伝えたい洞察に本当に見合っているのか。それをどう見極めるかです。シリーズ第2回にあたる本記事では、自信をもって図表を選べるようになるための判断の道筋をご案内します。
データの可視化には多くの種類があり、それぞれが果たす固有の役割を理解しておくことが大切です。適切なグラフを選ぶことは、見た目を整えることではありません。データのもつ物語を、最も明快で説得力のある形で示すことです。ここでは『Storytelling with Data』で取り上げられている主要な図表について、それが何か、どんなときに使うか、効果的に使うにはどうするかを順に見ていきます。
何か:横軸(x 軸)と縦軸(y 軸)の2つの軸上にデータ点を配置し、2変数の関係を示す図です。
いつ使うか:2つの事柄のあいだのパターンや相関 ── 一方の変数がもう一方とどう連動して変化するか ── を示すのに適しています。科学分野で広く使われる形式です。
うまく使うには:
何か:データ点を線で結んだ図で、多くは時間に沿った傾向を示すために使います。必要に応じて、単一の系列も複数の系列も表せます。
いつ使うか:一定の時間間隔(月・年など)にわたるデータを可視化し、傾向や変化を示す場合の第一候補です。
うまく使うには:
何か:2つのカテゴリ、または2つの時点のあいだでデータ点がどう変化したかを示す図です。値を線で結び、増加・減少・差を視覚的に強調します。
いつ使うか:前後の比較や、2時点にわたる調査結果の分析に特に有効です。
うまく使うには:
何か:棒でデータを表す図(カラムチャート)で、カテゴリ間の値の比較が容易になります。
いつ使うか:カテゴリ間を比較する場合に使います。特にカテゴリ数と値が限られているときに向きます。
うまく使うには:
何か:複数のデータ系列を1本の棒にまとめた図で、合計と内訳の両方を見られます。
いつ使うか:カテゴリごとの合計を示しつつ、その内訳も分解して見せたいときに有効です。
うまく使うには:
何か:縦棒グラフを横倒しにした図で、より読みやすくなります。
いつ使うか:カテゴリ型のデータ、特にカテゴリ名が長い場合に最適です。読みやすさと流れの自然さを確保したいときにも向きます。
うまく使うには:
何か:縦型と同じく合計と内訳を示しますが、横型のため長いカテゴリ名が読みやすくなります。
いつ使うか:全体に占める割合や、尺度に沿った調査結果(「強く同意する」〜「強く反対する」など)を示すのに適しています。
うまく使うには:
それぞれの図表が何に向いているかを理解すれば、データのもつ物語に合ったグラフを選び、できるかぎり明快で印象に残る形にできます。何かを選ぶ前に、聞き手・伝えたいこと・際立たせたい洞察の3つを考えてください。この3つが、適切な図表へ導いてくれます。
『Storytelling with Data』で扱われている一般的な図表に加えて、地球科学の分野では、専門的な図のなかから選んで関係者に洞察を伝える場面が多くあります。これらは同書には出てきませんが、専門家であれば、自分のデータに最も適した図を選べることが求められます。ここからは、そうした専門的な図をいくつか取り上げ、どう選び分けるかを見ていきます。

何か:トリリニアダイアグラムとも呼ばれ、特定の帯水層や地点から採取した水試料の化学組成を示す、水文地質学の専門的な図です。陽イオン(カルシウム・マグネシウム・ナトリウムなど)用と陰イオン(重炭酸・硫酸・塩化物など)用の2つの三角図に、中央のひし形の図を組み合わせた構成をとります。各試料は陽イオン・陰イオンそれぞれで 100% に規格化されるため、直接の比較ができます。
いつ使うか:鉱物の溶解、イオン交換、異なる水質の混合といった地球化学的プロセスを推定するのに使います。地下水の汚染源の特定や、飲用に適するかの評価にも役立ちます。
うまく使うには:

何か:陽イオン・陰イオンの2つの三角図に、中央の正方形の投影図を組み合わせた複合図で、複数の水試料の化学組成を比較できます。拡張版では pH と全溶存固形分(TDS)の図を加え、さらに詳しく読み取れます。
いつ使うか:水試料を化学組成でグループ分けし、帯水層内のパターンや関係を明らかにするのに適しています。経時変化の追跡、汚染の評価、浄化対策の効果の検証にも使えます。
うまく使うには:

何か:水試料のイオン組成を比較するための図です。陽イオンを左側、陰イオンを右側に配置し、中心からの距離が濃度(ミリ当量毎リットル)を表します。複数のスティッフダイアグラムを並べて比較するのが一般的です。
いつ使うか:地点・深度・時期をまたいで水質を比較するのに使います。帯水層の変化(主要イオンの入れ替わりや汚染の程度)を追うのに特に有効です。
うまく使うには:

何か:系を構成する3成分の相対的な割合を 100% に規格化して示す、三角形の図です。岩石・土壌・鉱物といった地球物質の分類や、堆積物の粒度・組成の分析に広く使われます。
いつ使うか:土壌組成や岩相など、地球科学の分類体系を理解するのに有効です。
うまく使うには:

何か:方位ごとの風向の頻度と風速を示す円形の図です(ウィンドローズ)。各「スポーク」が特定の方位からの風を表し、その長さがその方位から吹いた頻度を示します。スポークの色の違いが風速を表します。
いつ使うか:立地計画、環境調査、汚染の拡散モデルなどに向けて、風のパターンを分析するのに使います。
うまく使うには:
パイパーダイアグラムやデューロフダイアグラムで地下水の化学的性質を分析するにせよ、スティッフダイアグラムでイオン組成を比較するにせよ、三角ダイアグラムで物質を分類するにせよ、それぞれの図には固有の役割があります。伝えたい物語に図の選択を合わせることで、重要なパターンを際立たせ、経時変化を追い、関係者を適切な判断へ導くことができます。
データのもつ物語を伝えるうえで、図表の選択は決定的です。洞察が明快に、説得力をもって届くかどうかは、そこで決まります。関係を示す散布図、変化を際立たせるスロープグラフ、地下水の化学的性質を分析するパイパーダイアグラム ── いずれも、伝えたいメッセージに対応した固有の役割があるのです。
一般的なグラフと、地球科学で使われる専門的な図、その双方の強みを理解すれば、データのもつ物語を最も効果的な図表に結びつけられます。適切な図表は、関係者に洞察を正しくつかんでもらえるだけでなく、関心を引きつけ、次の一歩を促します。図表は、複雑なデータと実行可能な判断とを結びつける橋渡しの役割を担います。賢く選ぶことで、物語は画面や紙面の枠を越えて、読み手の心に長く響くものになります。