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『Storytelling with Data』の要点(第1回)── シリーズのはじめに:なぜデータに物語が必要なのか

※『Storytelling with Data』は、Cole Nussbaumer Knaflic が2015年に著したデータ可視化の実務書です。邦訳は『Google流 資料作成術』(日本実業出版社・村井 瑞枝 (訳) )。グラフを飾るのではなく伝える道具として扱い、1) 文脈と聞き手を定める 2) 適切なグラフ型を選ぶ 3) 不要な要素を削る(declutter)4)色で視線を導く 5)設計者として考える 6) 物語の順に並べる、の6章で構成されます。統計手法ではなく、意思決定を動かす設計を扱う点が特徴です。

グラフ作成ソフト Grapher の開発元 Golden Software 社は、2024 年の社内研修でデータの可視化を題材に取り上げ、その教材として『Storytelling with Data』(Cole Nussbaumer Knaflic 著/邦訳『Google流 資料作成術』)を採用しました。同書は、複雑なデータを明快に伝えるための定番書です。

同社はそこで得た要点を全5回のブログシリーズとして公開しました。当社では、この内容が Grapher をお使いの皆様にも役立つと考え、シリーズを順次和訳してご紹介します。

第1回にあたる本記事では、個々の手法に入る前に、そもそもなぜデータに物語が必要なのかという土台を整理します。

Storytelling with Data とは何か

まずは基本を押さえておきましょう。『Storytelling with Data』とは具体的に何を指すのでしょうか。Cole Nussbaumer Knaflic の著書によって広く知られるようになった概念ですが、この言葉それ自体は何ら目新しいものではありません。「データストーリーテリング」「データドリブン・ストーリーテリング」とも呼ばれ、世界中の記事、動画、ディスカッションでさかんに取り上げられるテーマになっています。

これほど注目されるようになった理由は単純です。手元に集まるデータが増え続けるなか、それらの分析結果を一つ一つ示すだけでは不十分だからです。相手に届く変化を生むには、探索的分析(物語の発見) と 説明的分析(聞き手への伝達) との間に橋渡しをする必要があります。それを実現するものこそ、Storytelling with Data の本質なのです。すなわち、読み手を引き込むような物語を図表に織り込み、データに基づく洞察を効果的に伝達する力のことです。図表に物語を組み込むことで、生の数値が、関係者の心に届く明快で説得力のあるものへと変わり、意思決定の質を結果として高めるのです。

定義: Storytelling with Data とは、生のデータの中にある物語を見つけ出し、目で追える形に組み立てる手法です。データの可視化と物語がもつ心理的な効果を組み合わせることで、聞き手を、単に数値を眺めているだけの状態から、洞察を理解して行動に移せる状態へと導きます。

図表に物語を取り入れる ── その利点は?

図表に物語を取り入れる利点として、研究による裏づけはあるのでしょうか?答えは「複数あります」。各種の調査は、データと物語を組み合わせたときの効果が、従来型のデータ報告と比べていかに大きいかを示しています。

まず、55% の人が「プレゼンテーションで聞き手の注意を引きつけるのは、説得力のある物語である」と答えたという調査があります。つまり、図表が優れた物語に織り込まれていれば、聞き手の半数以上が気を散らさずに集中してくれる可能性が高いということです。さらに、90% の人が「力のある物語こそ、聞き手を主体的に関与させる」と考えているという調査結果もあります。共有した洞察について関係者に議論してもらい、良い意思決定につなげたいのであれば、図表に物語を含めるのが最善の方法です。

データによるストーリーテリングが何をどう変えるのか、従来型のデータ報告との違いを簡単に示します。

項目従来型のデータ報告Storytelling with Data
目的情報を提示すること特定の行動を促すこと
デザイン既定の設定のまま色・フォントなどのデザイン要素を意図的に使う
物語なし(データ自身に語らせる)誘導あり(図表が物語を語る)
ごちゃつきグリッド線・凡例・枠線最小限に抑え、重要なデータに絞る

なぜデータに物語が重要なのか ── その心理学を読み解く

データによるストーリーテリングがこれほど強力な理由をより深く理解するには、人間の脳が情報をどう処理するかを見る必要があります。押さえておきたい点がいくつかあります。

記憶の要因 ── Jerome Bruner の「22倍の法則」

物語を取り入れるべき最も説得力のある理由は、認知心理学者 Jerome Bruner の研究にあります。彼の研究によれば、人はある事実が物語の一部として提示されたとき、それを記憶する確率が 22 倍高くなるといいます。生のデータを提示したときに活性化するのは脳の言語処理領域だけですが、物語は複数の感覚領域を働かせるため、メッセージが忘れがたいものになるのです。

集中の要因 ── 物語は注意の散漫を防ぐ

グラフやチャートに物語を含めることは、認知負荷を管理する上でも最良の手段です。物語で視線を導くことで、どこを見ればよいかを正確に伝えられます。これにより「情報過多」を防ぎ、関係者は実行につながる洞察に集中できるようになります。複雑なデータセットの「ノイズ」に埋もれてしまうことはないのです。

データの中の物語を伝えるための重要ポイント

さて、ここからが本題です。『Storytelling with Data』から私たちが得て、このシリーズで共有しようとしている重要ポイントとは何でしょうか。優れた物語を備えた図表を作るために取り上げる予定の内容を、先取りでご紹介します。

  1. 適切な可視化の方法を選ぶ ── すべての視覚的表現が同等なわけではありません。適切なグラフ・チャートを選ぶことが、洞察をどれだけ効果的に伝えられるかを大きく左右します。
  2. ゲシュタルト原則による整理(ごちゃつきの除去) ── 雑然とした図表は、理解を助けるどころか混乱させます。ゲシュタルト原則を使えば、不要な要素を取り除き、より清潔で焦点の定まったグラフ・チャートを作れます。
  3. 前注意的デザインで注意を引く ── 図表を際立たせ、注目を集めるには、瞬時の理解と関与を前提に設計する必要があります。色・サイズ・位置といった前注意的属性によって、データの物語の最も重要な部分へ視線を誘導できます。
  4. 設計の工夫でデータを伝える ── 自分の作った図表をもとに関係者が意思決定する ── そのことを理解していることと、実際に関係者が的確に判断できるような図表を設計することとは、まったく別の話です。そのためには、基本を押さえるだけでは足りません。読み手が次の一歩を踏み出すのに必要なものを確実に受け取れるよう、一歩踏み込んだ設計の工夫が必要です。

これらの技術はいずれも、データを説得力のある実行可能な物語へと変え、関係者が快く受け取り、優れた意思決定に活かせるものにしてくれます。ただし、それぞれを実際に使いこなすには掘り下げるべき点が多いため、各ポイントに1本ずつ記事を割き、意思決定者を唸らせるグラフとチャートを設計するために必要な内容をすべてお届けします。

物語を取り入れた図表を作る

データストーリーテリングが注目されているのには十分な理由があり、皆様とさらに深く掘り下げていくことを楽しみにしています。グラフやチャートの作り方そのものを変えるような気づきを共有することが目的です。以下のシリーズ一覧をたどって、各ステップを習得してください。

Storytelling with Data:シリーズ全体

この旅をご一緒できることを楽しみにしています。

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