
気候変動データは、ひとつの場所、ひとつの時点だけを見たとしても、その全体像はほとんど見えてきません。取り扱うデータには、気温や降水量、極端な気象現象(猛暑日や大雨など)の指標といったさまざまな変数があり、それらが数十年にもわたって記録されているからです。そこで課題となるのは、変化が「どこで」起きているのか、そして測定値が時間とともに「どう」変わっているのかを読み解くことです。
そこで役立つのが、地図とグラフの併用です。1種類の図表に頼らず、同じデータを空間と時間の2つの側面から捉えるわけです。
「技術データの可視化」シリーズの第4回となる本稿では、地図とグラフを使って、気候変動データを場所と時間の両面から調べる方法を紹介します。あわせて、これら2つを組み合わせると、地図だけ、あるいはグラフだけを見ていたのでは気づきにくいパターンが見えてくることもお伝えします。
まず、気候変動データの可視化がなぜ難しいのかを押さえておきましょう。気候データの多くは、複数の変数(気温や降水量など)に、測定した「場所」と「時期」が加わった多次元のデータです。これら3つを同時に考える必要があります。
調べる内容によっては、標高も地理的条件もそれぞれ異なる観測所のデータを多数取り扱うことになります。測定値には季節変動や年変動、長期的な傾向のほか、平年とは大きくかけ離れた観測値が含まれることもあります。同じ気温や降水量でも、場所と時期によってまったく異なるパターンになるのです。
そのため、分析では次のような問いに答える必要があります。
これらすべてに1種類の図表で答えようとすると、データを読み解くための大切な背景情報が抜け落ちてしまいます。地図とグラフは同じ気候データを補い合う形で示すため、まず空間と時間の側面を別々に調べ、そのうえで両方から分かったことを突き合わせて考えることができます。
地図が分析にもたらすのは、地理的な状況です。測定値の経年変化を比べる前に、その測定値がどこで得られ、周囲に何があるのかを把握しておくと役立ちます。
測定値を地図上に示せば、それぞれの値を測った場所が、対象エリアの中でどのような地理的条件や地形にあったのかが分かります。観測地点をほかの空間データと重ねれば、気候関連の測定値が場所ごとにどう異なるかも調べられます。以下、具体的に見ていきます。
複数の観測所の測定値を比べる前に、まず「どこで測定されたのか、それぞれの場所は地理的にどう違うのか」を確かめておきたいところです。
観測所の位置を示すポイントマップとベースマップを重ねると、気象・気候観測所を次のような地物(地形や土地の要素:feature)と並べて示せます。
これらを一緒に見ると、観測所が対象エリアにどう分布しているか、場所ごとの違いを解釈する際にどの地物を考慮すべきかが分かります。
たとえば、内陸と沿岸の観測所を同じ地域図に示せば、沿岸の観測所は内陸に比べて1日の気温差が小さいことが、すぐに分かります。長期傾向を比べる前に押さえておくべき地理的な状況です。
考慮すべき地理的な条件は、観測所がどこにあるかだけではありません。「観測地点の標高や周囲の地形はどう違うのか」にも目を向けておくとよいでしょう。
等高線図、カラーレリーフ図、陰影起伏図、3D地形図を使えば、標高差や、山地・谷・斜面といった地形を詳しく読み取れます。さらに、観測所がそうした地形のどこにあるのかも確かめられます。標高や地形が大きく異なる地点どうしの測定値を比べるときこそ、この情報が生きてきます。
たとえば複数の観測所の気温記録を比較する場合、等高線図やカラーレリーフ図に観測所を重ねると、標高がかなり異なることが分かるかもしれません。気温記録の違いを調べるうえで重要な手がかりになります。
もうひとつの重要な問いは、「気温や降水量といった気候関連の変数が、対象エリア全体でどう変わるのか」です。
これらの値は、手元のデータに合わせてさまざまなマップとして表せます。等高線図、カラーレリーフ図、階級区分図のほか、測定値に応じて記号の色や大きさを変えたポイントマップも使えます。相対的に高い・低い値、空間的な勾配、地域差、広域のパターンが見えてきます。
ただし、個々の観測所の測定値から連続面を作る場合、地点間の値は内挿による推定値であることに注意が必要です。得られる面は観測網の密度や内挿法に左右されるため、それを踏まえて読み取る必要があります。
たとえば地域の降雨量を連続面で表す場合、山地の観測所がまばらだと、局所的な微気候や雨陰が内挿によってならされてしまうことがあります。地図が示すのは観測所間の推定勾配だと認識しておけば、どこに観測点や衛星画像などの補助データを追加すべきかを判断できます。
地図で分かるのは、気候の測定値の背後にある地理的な状況です。ただし、それは全体の一面にすぎません。気候データの多くは、数年〜数十年にわたって繰り返し測定した記録です。そのため、「その測定値は、時間とともにどう変わってきたのか」というもうひとつの重要な問いが出てきます。
そこで、気候変動データの可視化で特に力を発揮するのがグラフです。グラフを使えば、長期的な傾向を調べたり、複数の観測地点の記録を比べたり、ばらつきや異常な観測値を長期の記録全体と比べて捉えたりできます。こうした働きをよりはっきり示すために、グラフが分析にどう役立つのかを詳しく見ていきましょう。
長期間にわたって繰り返し測定したデータがあるなら、気温や降水量などについて「その値は記録期間を通じてどう変わってきたのか」を知りたくなるはずです。
時系列グラフや折れ線グラフを使えば、気温や降水量などを月・年・数十年の単位で調べられます。長期的な増減、短期的な変動、比較的急な変化の時期、記録期間内の違いが見えてきます。
たとえば、ある観測所の年平均気温を数十年分グラフにします。年ごとの上下はあっても、記録全体を見れば長期的な傾向があるかどうかを判断できます。
地図を使って観測所がどこにあるのかを把握したら、もうひとつの問いを立てられます。「場所の異なる測定値は、時間とともに似たパターンを示すのか、それとも異なるパターンを示すのか」という問いです。
複数系列の時系列プロットや比較用の折れ線グラフを使えば、複数地点の記録を同じ時間軸上に並べられます。傾向の共通点と相違点のほか、地点間で値の差が開いていく時期や、逆に縮まっていく時期も見つけやすくなります。
たとえば地形の異なる複数の観測所を地図に示したうえで、数十年分の気温記録を比べたいとします。複数系列のグラフなら、高所の観測所と谷の観測所が、標高差で基準の気温が5°C 違っていても、同じ温暖化の軌跡をたどっているかどうかが一目で分かります。
長期的な傾向のほかにも、調べておきたいことがあります。気候の測定値は自然に変動するため、「このデータで典型的な値は何か、どの程度ばらつくのか、その中で異常な観測値はあるか」も問う必要があります。
箱ひげ図やヒストグラムは、次のような問いを調べるのに役立ちます。
たとえば箱ひげ図で、期間や観測所ごとの気温を比べます。個々の高い・低い値に注目するのではなく、典型的な値、広がり、外れ値の候補を含めた分布全体の違いを調べることができます。
地図とグラフはそれぞれ気候データの異なる側面を示しますが、分析の真価が発揮されるのは、地図とグラフを交互に見比べながら考えを進めるときです。地図で気づいたパターンから経年変化を調べ、グラフで見つけた異常から地図に戻って地理的な状況を確かめる、という具合です。例を挙げましょう。
たとえば、地域に点在する観測所の気温データを分析するとしましょう。まず観測網を地図にして各観測所の位置を把握し、標高、地形、海岸線、水域などを加えて、観測所を取り巻く自然条件を把握します。
次に、一定期間の平均気温を地域全体で地図にし、どこで気温が高く、どこで低いのかといった全体の傾向をつかみます。目立つ場所があれば、そこにある観測所を選び、その気温の移り変わりを時系列グラフにします。これで、空間的な違いだけでなく、その地点の測定値が数年〜数十年でどう変わってきたかも調べられます。
観測所ごとの時系列グラフを見比べると、さらに別の物語が見えてくる場合もあります。たとえば2つの観測所で気温の絶対値は大きく違うのに、長期的な変化の方向は似ている。地図に戻ると両者の標高が大きく異なると分かり、その違いを解釈する手がかりになります。
逆方向の分析もあり得ます。時系列グラフで、ある観測所だけが近くの観測所と違う動きをしていたら、地図に戻ってみます。その観測所の標高や位置、周囲の地理的条件に、違いを説明する手がかりがないかを確かめるのです。
この行き来こそが、気候変動データの可視化で地図とグラフを組み合わせる価値です。地図は時間的なパターンに地理的な舞台を与え、グラフはその場所の測定値が時間とともにどう振る舞うかを示します。両者を結びつけることで、どちらか一方だけでは得られない、より完全な物語としての全体像を描けます。
気候変動データを読み解くには、いくつもの要素を同時に考えなければなりません。地理、時間、ばらつき、複数の測定値のいずれもがパターンに関わるため、効果的な可視化には複数の観点が必要になります。
地図が示すのは「どこで」です。測定値がどこで得られたのか、気候関連の変数がエリア内でどう変わるのかが分かります。一方、グラフが示すのは「いつ、どう変わったか」です。測定値がどう変化し、どれだけ変動し、ほかの記録と比べてどうなのかが分かります。どちらか一方だけで物語が完結するとは限りません。両者を結びつけることで、パターンをより綿密に検討できるようになり、関係者にもその意味を理解するための地理的・時間的な状況を示せます。
地図とグラフの併用の利点は、まだあります。シリーズ最終回では地震データを取り上げ、異なる視点の図表が地震活動とそこに潜むパターンの理解にどう役立つかを探ります。