
水質の分析をおこなうとき、答えるべき問いは、たいていひとつではありません。環境の中で何が起きているのかを知るために、いくつもの問いと向き合うことになります。何を調べるかにもよりますが、複数の地点から試料を採取し、数多くの化学的・物理的パラメータを測定し、数か月から数年にわたって経過を観察し、見えているものを説明する手がかりになる周辺の要素まで考慮する、といった作業がそこでは求められます。しかし、さまざまな問いに答えるためのデータをひととおり収集したとしても、それらをひとつにまとめ、洞察が明快に浮かぶ形にするのは難しいものです。
そこで価値を発揮するのが、地図とグラフの併用です。
「技術データの可視化」シリーズの第2回となる本稿では、地図とグラフが水質分析に何をもたらすのか、両方を使うと何が見えてくるのか、そしてそれを具体的に示す実例を取り上げます。では、始めましょう。
まず、水質データの可視化に地図とグラフの両方を使うと何が良いのかを見ておきましょう。
水質の案件では、複数の問いに答えなければならないことがよくあります。目的によっては、次のようなことを判断する必要が出てきます。
これらに答えるには、幅広いデータを集めて分析することになります。溶存酸素、生物化学的酸素要求量(BOD)、窒素とリン、pH、電気伝導率、濁度、汚染物質濃度、主要イオン組成 ── あるいはこれらを組み合わせて測定することもあるでしょう。しかも、採取地点は数多く、採取も一度きりとは限りません。
調査の段階を終えるころには、多次元のデータセットができあがっているはずです。そしてそこから、可視化の難しさが生まれます。1枚の地図やグラフは、いくつかの問いにはうまく答えてくれますが、すべての問いに応えられるわけではありません。技術データを活かそうと思うなら、地図とグラフには、それぞれが得意とする問いを担当させるのが得策です。そうすれば分析が多角的になり、関係者に届く洞察も深まります。
では、地図にはどんな問いを担当させればよいのでしょうか。水質データの分析において、地図がとりわけ力を発揮するのは、測定値の置かれた地理的な状況を示すときです。測定値がどこで採取されたかだけでなく、水質の状態がエリア内でどう変わるのか、その状態が周囲の要素とどう関係しているのかを理解する助けになります。実際にどういうことか、もう少し見ていきましょう。
最初に答えるべき問いのうちふたつは、「試料はどこで採取されたのか」「その周りには何があるのか」でしょう。地図は、この見通しを得るのに最適です。
案件によりますが、採取・観測の地点は、次のような要素と並べて地図にあらわすことができます。
サイトマップ、ベースマップ、ポストマップなどを使えば、各地点の測定値を、その場所の状況と結びつけて見せられます。たとえばサイトマップに、観測井を近隣の地表水の要素・インフラ・汚染源となりうる場所と並べて表示する、といった具合です。これらを一枚の地図で同時に見られれば、調べる価値のある空間的な関係に気づきやすくなり、関係者にも、各採取地点を取り巻く状況をより明確に示せます。
案件によっては、「対象エリアの中で、水質は場所によってどう違うのか」という問いにも答える必要があります。
地図を使えば、採取地点ごとの値を見るだけでなく、エリア全体に広がる水質のパターンをつかめます。十分な空間データがあれば、次のような測定値を可視化できるでしょう。
水質データと分析の目的に応じて、これらは次のような形で表現できます。
こうした地図からは、相対的に値の高い/低いエリア、空間的な勾配、ホットスポットとなりうる場所、そして水質の状態と周囲の要素との関係が浮かび上がります。たとえば調査エリア全体の溶存酸素を等高線図で示せば、濃度が相対的に高い/低い場所を見つけやすくなり、次にどこを詳しく調べればよいかが見えてきます。
地図は、興味深い場所や空間的なパターンへ導いてくれますが、それでもまだ明らかにしたいことが残るはずです。懸念される測定値は、以前から高かったのか。状態は観測地点ごとにどれだけ違うのか。別の地点の試料は、似た水質を示すのか。
こうした問いに答え、分析をもう一段深掘りしてくれるのがグラフです。測定値そのものを細かく見ることで、時間を追った変化、地点間のばらつき、水質データの中にある関係を調べられます。具体的に見ていきましょう。
水質の状態は、必ずしも一定ではありません。同じ地点から繰り返し測定値を取っていれば、グラフによって、その状態が日・月・季節・年の単位でどう移り変わるかを見られます。同じ期間について、複数の観測地点やパラメータを比べることもできます。
時系列グラフや折れ線グラフがとくに役立つ問いは、以下の通りです。
たとえば、ある観測地点の周辺で栄養塩濃度が高いことを地図が示したとしましょう。時系列グラフを使えば、その濃度がずっと高いままなのか、季節によって変動しているのか、あるいは比較的最近の変化なのかを示し、調査をさらに進められます。

個々の測定値を比べるだけでは、地点ごとに状態がどう違うのかを十分に把握できないことがあります。時間を追って集めた測定値の分布を見れば、各地点にとって何が「ふつう」なのか、状態がどれだけばらつくのかという背景が見えてきます。
この比較には箱ひげ図がとくに有用です。箱ひげ図が答えてくれる問いは、以下の通りです。
具体的な場面を考えてみましょう。複数の観測地点で硝酸塩濃度を比べているとします。まず地図でそれらの観測局の位置を把握し、次に箱ひげ図を作れば、ある地点が他と一貫して異なる値を示しているのか、あるいはばらつきが大きいのかを確かめられます。

水質に関する問いの中には、成分ごとの濃度を見るだけでは足りず、複数の成分がどんな割合で含まれているかを調べる必要があるものもあります。こうした場合、専門の水質ダイアグラムを使えば、試料の水質上の特徴を比較できます。
パイパーダイアグラムがとくに役立つ問いは、以下の通りです。
たとえば、いくつかの井戸で採取した試料の水質が、互いに似ているかどうかを確かめたいとします。まず地図上でそれらの井戸の位置を確かめ、次に試料をパイパーダイアグラムにプロットして水質上の特徴を比べれば、見つかった類似点や相違点を、採取された場所と結びつけて考えられます。

地図とグラフを併用する価値は、実際の水質モデリングのワークフローの中で両者がどう補い合うかを見ると、とりわけはっきりします。
あるお客様は、環境流体力学モデリングシステムである Sistema Base de Hidrodinâmica Ambiental(SisBaHiA)の計算結果を分析・提示するために、Surfer と Grapher の両方を使っています。Surfer は空間的な出力に使われ、水位の等値線、溶存酸素、生物化学的酸素要求量、リンと窒素、流動循環ベクトルなどの地図を作ります。Grapher は、モデル領域内の観測点から得た時系列データの可視化のほか、東西方向と南北方向の流速成分を比較する流速楕円のような専門的なグラフの作成に使われています。
これらを組み合わせることで、チームはモデリング結果についてふたつの補い合う視点を手にします。地図は、より広い地理的範囲で状態がどう変わるかを示し、グラフは、個々の地点で状態が時間とともにどのような挙動を示すかを明らかにします。この2つの視点は、広い範囲を対象とする案件でとりわけ価値を発揮します。たとえば、同チームが手がけたアマゾン・デルタのモデルには、範囲が1,000キロメートルを超えるものがあります。この規模になると、ある時点の状態をエリア全体で示す地図と、数多くの観測地点の時系列データの両方が欠かせません。
水質データには語るべきことが数多くあります。ただ、その物語の全体像を明らかにするには、ひとつの図表では足りないかもしれません。地図は、状態がどこで生じ、エリア内でどう変わるのかを理解する助けになります。一方、グラフは、測定値が時間とともにどう変わり、地点ごとにどう違い、互いにどう関係しているのかを明らかにしてくれます。
もっとも、地図とグラフを組み合わせて可視化できるのは、水質データに限りません。「技術データの可視化」シリーズの次回は、地図とグラフを組み合わせて、鉱物探査のデータを分析し、その結果を伝える方法を取り上げます。