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Igor Pro 導入事例

宇宙物理学の研究

宇宙物理学研究プロジェクトのデータ解析に IGOR を活用

空には虹の他にも我々の目を楽しませてくれる色彩豊かな自然現象が存在します。オーロラの出現です。オーロラは通常、北極または南極地域の夜空で青や緑や赤の色を放つ様子が観測されます。その形態には様々な種類があります。ほとんど静止したままカーテン状に水平方向に伸縮するものや、見えない点から光線が発せられるようなもの、あるいは、夜空全体をらせん状に覆い尽くすものや、まとまりのない花火のように無秩序に散らばりチカチカと点滅するものもあります。スペースシャトルで撮影された右の写真のように、オーロラは宇宙空間から観測することもできます。オーロラの発生は、太陽嵐が地球周辺の宇宙環境まで到達し、それによって、高々度空間で激しい電磁気現象が発生していることの現れです。

東西に連なる極地上空のオーロラ
スペースシャトルから撮影されたオーロラ

大気圏の悪天候が家屋や施設にもたらす損害と全く同様に、宇宙嵐は、通信システムや地球規模の気象観測、あるいは、ナビゲーションシステムなど宇宙空間にある様々な資産に影響を与え動作障害を引き起こすほか、宇宙飛行士や民間航空機で極地上空を飛行する人々の生命をも危険にさらします。こうした宇宙嵐が原因で地上の電力網でさえ停電の影響を受けることがあります。オーロラの活動に関連する宇宙嵐の原因を調査するために 2007年2月17日に発足した THEMIS は、「極磁気嵐発生時における事象の時間履歴とマクロスケールの相互作用(Time History of Events and Macroscale Interactions during Substorms)」の頭文字を取って名付けられた NASA のミッションです。宇宙空間には5つの人工衛星を、地上には複数の基地局からなるネットワークを配備しています。このミッションで計測される物理的パラメータには、地上基地局から送られるオーロラの強度や磁場のほかに、宇宙空間における磁場と電場、そして、宇宙空間にある荷電粒子の属性が含まれます。

JPL (Jet Propulsion Laboratory) の振動試験施設で運搬装置に載せられた THEMIS ミッションの 5機の人工衛星。

IGOR の役割

観測された宇宙嵐に関する物理的プロセスを総合的に評価するために、膨大な物理的パラメータが複数の地点で同時に計測され、そこで得られたデータが詳細に比較・分析されます。IGOR を使えば、こうしたパラメータのすべてを単一のエクスペリメントに保存し、様々なグラフで表現できます。目的に適ったレイアウトを作成するだけで簡単にパラメータ同士を比較することができるのです。自然の物理的プロセスに隠された謎を解明するのに欠かせない有効なデータを抽出する際、こうした機能が作業の効率化に大変役立ちます。

THEMIS 物理パラメータの計測

パネルに表示されているのは、上から順にそれぞれ、エネルギーイオンのエネルギースペクトル、熱イオンのエネルギースペクトル、 エネルギー電子のエネルギースペクトル、熱電子のエネルギースペクトル、エネルギーイオンの角度異方性、高周波の磁場揺動、高周波の磁場揺動、イオン速度の3成分、局所磁場の3成分です。

Submitted by Anthony Lui, Space Department, Applied Physics Laboratory, Laurel, Maryland, USA

THEMIS ミッションの人工衛星が2008年1月29日に計測した複数の物理パラメータをあらわすレイアウト。

衝突クレーター形成実験のデータ解析

東京大学 新領域創成科学研究科 松井・杉田研究室 山本 聡 研究員

山本研究員は、衝突クレーター形成実験のデータ解析に IGOR Pro を利用されています。 研究室にご訪問させていただき、お話を伺いました。

質問: ご研究内容と IGOR Pro の活用方法について、簡単にご説明いただけますか?

私は地球や惑星の形成と進化において、天体衝突がどのように関わってきたかを明らかにしたいと思っています。これらを明らかにするには、天体衝突現象を物理的に解釈することが重要です。そこで、室内衝突実験を行い、高速ビデオカメラを用いたクレーター形成過程の詳細観測を行っています。この場合、高速ビデオカメラで得られる大量の画像データをいかに効率よく解析するかがポイントとなります。

そこで、IGOR Pro プロシージャ (注1) を作成することで、画像処理や回帰分析(注2)、また測定結果値のデータベース化等を自動的に行っています。この自動化のお陰で、実験で得られる大量のデータに対して、非常に効率よく解析を行う事が出来ています。

山本 聡 研究員

質問: いつ頃から IGOR Pro を利用されていますか?

修士の頃に、人に勧められて使いはじめました。’93~94年頃からですので、10年以上は使っていますね。

質問: 最後に IGOR Pro の気に入っている点を教えていただけますか?

IGOR Pro はよく言われるように初心者には少し敷居が高いかもしれません。しかし、実は比較的大雑把な命令でも、柔軟に操作ができます。そして、いったん使いこなせるようになると、かゆいところまで手が届く多彩な機能が搭載されている点が気に入っています。

また、デフォルトでは余計なことを一切しない、必要な機能だけを付け足していけるところも気に入っています。

画像処理プロシージャと出力結果の例
IGOR プロシージャー解析によって得られたクレーター断面図
IGOR プロシージャー解析によって得られたクレーター断面図
(注1) IGOR Pro プロシージャ
IGOR Pro には独自のプログラミング言語があり、この言語で書かれたスクリプトを IGOR Pro プロシージャと呼びます。この言語を使用することで、データファイルの読み込みから、解析、グラフ化、印刷に至るまで、あらゆる IGOR Pro 上での操作を自動化(マクロ化)することができます。
(注2)画像処理と回帰分析
IGOR Pro には、画像解析や回帰分析(フィッティング)といった解析機能を、上述のプロシージャや XOP (外部機能拡張) によって追加することができます。多数の機能が標準で搭載されており、IGOR Pro XOP Toolkit (別売) を使うことでユーザ自身が開発することも可能です。
今回の研究訪問は、東大生協柏店様のご協力のもとに実施されました。 
 東大生協柏店 TEL 04-7135-8117

原子間力顕微鏡 『MFP3D』

MFP3D は、Asylum Research 社の開発した AMF (原子間力顕微鏡: Atomic Force Microscope) です。オフライン状態におけるデータの分析や操作はもちろん、リアルタイムで行う機器の制御およびデータ取り込みの基礎となる部分においても IGOR Pro が利用されています。

MFP3D は、サブ-オプティカルな解像度で物質の表面を表示する装置です。データは、USB ポート経由で Asylum Research 社開発の XOP 関数によって変換されます。ソフトウェアに対応した IGOR の組込み WaveForm を使用することで、 制御装置に転送するための時系列データを容易に生成することができ、これによって実際に顕微鏡装置を動作させることができます。

MFP3D は、最大 4096×4096 ピクセルの画像を2つのディスプレイ上に表示させることができます。リアルタイムによる表示は、Asylum Research 社が独自に開発したカスタム XOP から生成される OpenGL による 3D サーフェス・レンダリングのほかに、一般的な 2D 画像によるプロットを選択することもできます。

IGOR Pro について・・・

グラフィックツールとしての IGOR Pro ライブラリは非常にすばらしいものです。まったくの初心者から上級のソフトウェア開発者に至るまで、あらゆるレベルのユーザーに理解しやすいインターフェースが提供されます。これはソフトウェアを開発する上でも、その労力を大幅に軽減できるという点で重要です。IGOR Pro を採用することによって、より少ない人数で、より専門的にソフトウェアを開発できるばかりでなく、開発製品をより早く市場に投入することができるわけです。

また、 IGOR Pro をソフトウェア開発の基盤として利用することで、ソフトウェアの更新にかかる作業が非常に容易になります。Asylum Research は、ASCII コードにして 3メガ超で構成される、2000 にも及ぶユーザー指定関数を駆使し、条件の非常に厳しいソフトウェアプロジェクトにおいても IGOR Pro が 柔軟に対応できることを示しました。

しかし、IGOR Pro を採用することでもたらされる最大のメリットのひとつは、ユーザーがデータを収集し解析するために自らコードを作成できる点にあります。最先端の研究分野においては、先進性やカスタマイズ性が常に要求されるものです。IGOR Pro によって、ユーザーはこの要求をより簡単に実現させることができます。

NeuroMatic & Nclamp

NeuroMatic

NeuroMatic は、電気生理学データの分析用に作成された IGOR Pro の関数がまとめられたパッケージです。NeuroMatic では収集されたデータを Set (集合) や Groups (群) として分類することができますので、ユーザーはこれによって比較的簡単なプロセスで多数のデータを変換したり統計的分析を実行することができます。スケーリング(倍率)、アラインメント・アベレージング(配列の平均化)、ベースライン・サブトラクション(基準の引算)、スパイク検出、定常分析、立上り時間をこれによって計算することもできます。NeuroMatic は、オープンソースでモジュール化されているため、ユーザーは分析に使用する関数を独自に作成し NeuroMatic の機能の一部として組み込むこともできます。

NeuroMatic に含まれる主な機能:

  • Sorting, Scaling, Averaging, Interpolation
  • Max/Min/Mean/Level/Slope Measurements
  • Stability/Stationarity Analysis
  • Spontaneous Event Detection
  • Waveform Template Matching
  • Spike Raster Plots
  • Interspike-Interval and PST Histograms
  • Compact Easy-to-Use Interface
  • Modular Design as a Basis for Your Own Procedures
  • Extra Space for Your Own Buttons and Controls
  • Import Functions for Axograph and PClamp Data Acquired From Axon Instruments

内容の詳細およびダウンロードは、NeuroMetric ホームページ (英語) をご覧ください。

Nclamp

Nclamp パッケージは、電気生理学やフォトメトリー(光度測定)等さまざまな分野におけるデータ取り込みソフトウェアを提供します。NClamp は、ロンドン大学で開発されました。主な機能は以下のとおりです:

  • IGOR Pro 4 または 5 に対応。
  • Mac または PC に対応。
  • NIDAQ とのインターフェース:National Instruments 社の「multifunction DAQ boards」 。IGOR NIDAQ XOP Tools が必要。
  • ITC とのインターフェース:InstruTech からのデータ収集システム。Igor ITC XOP が必要。
  • 挿話的な収集(stim and sample)
  • 連続収集 (現行は ITC ユーザーのみ)
  • オンライン分析。独自の関数を作成可能。
  • Note と Log File。テーブルまたはノートブック内に表示可能。
  • データおよびログフォルダーのHDD への自動保存機能。
  • フレキシブルな刺激パルス生成。独自のパルスウェーブフォームを使用可能。
  • NeuroMatic および IGOR Pro の 既存のデータ分析関数への容易なアクセス

内容の詳細およびダウンロードは、Nclamp home page (英語) をご覧ください。

中性子モニタ

IGOR Pro によるマルチ・プロセッサ環境の活用

文:ロジャー・パイル

私は、カナダ、アメリカ、グリーンランド、南極に設置されているデラウェア大学の中性子モニタネットワークを経由して送信されるデータの処理と分析を行っています。中性子モニタの役割は、高層大気の高エネルギー相互作用によって地球表面で生ずる原子核の「崩壊」をカウントすることです。これによって惑星間の約 1ギガボルトを超える宇宙線フラックスを間接的に計測することができます。詳細は、NeutroNM をご覧ください。

私の使用しているハードウェア環境は、プロセッサ 2基とメモリ 1GB を搭載した Dell Precision Workstation 530 です。この環境で、時系列のグラフを画像データとして生成するエクスペリメントを同時に3つ実行し、ウェブサイトにデータをアップロードしています。3つのエクスペリメントは、ハードディスク上に保存されたウェーブを通じて通信します。入力するテキストデータファイルは Linux ボックスから読み込み、数分おきにウェブサーバーにプロットを描き出します。入力用(テキスト)ファイルは、cron に登録された FTP コマンドを使い中性子モニタの設置された 12 箇所以上を含む世界の 17 の地点から収集され更新されます。収集されるデータには、磁場などのデータも含まれています。

Wavemetrics 社はこのシステムの(いわば)防弾装置に関して非常に協力的でした。システムがリブートされると、スタートアップ用に作成されたエクスペリメントを使用して、他の3つのエクスペリメントの読み込みを行います。ここでは Execute/P を使います。3つのエクスペリメントが立ち上がると起動用エクスペリメントの役割は終了です。このほかにも、第4の小さなエクスペリメントが常時起動しています。これはシステムの異常事態に備えるものです(ファイルが使えない、プログラミングがうまく動作しない等)。たとえば、3つのエクスペリメントの中から画像ファイルがひとつでも生成された場合、それが予定通りアップデートされたかどうかをこのエクスペリメントが確認します。もしうまくアップデートされていないようであれば、ExecuteScriptText 関数を使用して IGOR から PC のリブートが実行されます。つまり、問題のあるエクスペリメントについてのみ再起動で変更がなされるということです。

このシステムは混み入ったものですが、大変安定しており、両方のプロセッサの使用率は平均して約50~60%です。興味のある人はだれも、宇宙気象を見ることができます。そして、そこから関連する情報にリンクできます。

WaveMetrics 社のご協力 (とご苦労) には非常に感謝しています。

デラウェア大学・Bartol 研究所
中性子モニターグループ・上級科学者
ロジャー・パイル