
地球科学者や技術者であれば、作成するグラフや図表に、分かりやすさと信頼性を持たせる必要があります ── それらを両立させるのが曲線の当てはめです。Excel では「近似曲線(トレンドライン)」の名でご存じかもしれません。典型例は、プロットした点の集まりに線を1本引いて、全体の傾向として上向きか下向きかを示すものです。Grapher では、これを Fit Curve(曲線の当てはめ)と呼びます。
まず、技術者でない相手の場合 ── 曲線の当てはめは、データとしてあらわされる内容の理解を後押しします。点の散らばりを熟練した目で解釈する代わりに、専門知識のない関係者でも、示されたデータをどう捉えるのか(上がっているのか、下がっているのか、もっと複雑な形をたどっているのか)という明快で視覚的な物語を、そこから読み取れるようになります。
一方、技術者が相手の場合、曲線の当てはめは、信頼の裏づけをもう一段加えます。とくに、Fit Statistics では、当てはめの統計量(標準偏差・共分散など)を出せるため、モデルに対するデータの「当てはまり具合の良さ」を正確に示せるからです。
このようなメリットを踏まえたうえで、すでにグラフや図に曲線の当てはめを行っている方もいらっしゃるでしょう。しかし、分かりやすく信頼される図にするために選んでいる当てはめは、毎回決まりきったものになってはいないでしょうか。もしそうなら、Grapher には多彩な曲線の当てはめ機能が用意されていることを、もう一度思い出してみてください。伝わりやすさと確かさを高めるための新たな選択肢が見つかるかも知れません。
Grapher には 十数種類の当てはめが用意されています。散布図のために設計されたものもあれば、ヒストグラム用に作られたものもあります。何が使えて、どんなときに使うのかを素早くつかめるよう、Grapher で適用できる曲線の当てはめを、実務での使いどころとあわせて整理します。
散布図に描かれた2つの連続変数の関係をモデル化するためのものです。内挿・外挿や、相関の強さを判断するために使います。
| 当てはめ | どういうものか | 実務での使いどころ |
|---|---|---|
| Linear Fit(線形の当てはめ) | データ点と直線との垂直方向の距離の二乗和を最小にする直線(Y = a + bX)。X と Y に、直接的で一定の関係があると仮定する。 | 校正:土木技術者が、既知の重り(X)とセンサーの電圧出力(Y)を測って圧力センサーを校正する。線形フィットで校正式を求める。 |
| Logarithmic Fit(対数の当てはめ) | Y = a + b ln(X) で表される曲線。X が増えるにつれて Y の変化率が小さくなるときに使う。 | 土の圧密:地盤技術者が、圧密試験で土試料の間隙比(Y)が有効応力(X)に対して対数的に減っていく様子を調べる。 |
| Exponential Fit(指数の当てはめ) | Y = ae^(bX) で表される曲線。変化率が現在値に比例するデータをモデル化し、急激な増加・減少を表す。 | 放射壊変:年代学者が、親核種の残存濃度(Y)の時間変化(X)を指数フィットでモデル化し、岩石試料の年代を求める。 |
| Power Fit(べき乗の当てはめ) | Y = aX^b で表される曲線。ある性質が別の性質のべき乗で結びつく「スケーリング則」でよく使われる。 | 流体力学:環境技術者が、管内の流速(X)と水理抵抗(損失水頭・Y)の関係をモデル化する。しばしばべき乗則に従う。 |
| Spline Smoothing(スプライン平滑化) | 数式ではなく、データ点を通る(またはごく近くを通る)滑らかな曲線。つながった多項式の区間で作られる。予測式を作らずに傾向を見るのに向く。 | 地形断面図:地質学者が、距離(X)に対する標高(Y)の断面を、実際のデータ点を尊重しながら滑らかで見栄えのする形で描く。 |
| Polynomial / Orthogonal Polynomial Fit(多項式/直交多項式の当てはめ) | Y = a₀ + a₁X + a₂X² + … + aₙXⁿ の形の一般的な曲線。何度も曲がる複雑な形をとらえられる。次数(n)が複雑さを決める。直交多項式は計算しやすく、計算誤差が出にくい。 | 材料強度と温度:機械技術者が、広い使用温度域(X)にわたる合金の降伏強度(Y)の変化を、高次の多項式でモデル化する。 |
| Through-Origin Fit(原点を通る当てはめ) | 強制的に原点 (0, 0) を通らせた線形フィット。X が 0 のとき Y も必ず 0 でなければならない場合に限って適切。 | ひずみの測定:土木技術者が、弾性域で鋼棒に加えた応力(X)に対する弾性ひずみ(Y)を測る(フックの法則)。応力 0 ならひずみも 0 でなければならないため、原点を通らせて弾性係数(=直線の傾き)を正確に求める。 |
| Running / Weighted Average(移動平均・加重平均) | X の指定した「窓」の中にある Y の平均を計算する、ノンパラメトリックな平滑化。加重平均では、窓の中心に近い点ほど重みを大きくする。 | 地震データの処理:物理探査技術者が、時間(X)に沿って記録した地震トレースの高周波ノイズ(Y)を移動平均でならし、背後の地質構造を浮かび上がらせる。 |
| LOESS / LOWESS Fit(局所重み付き回帰) | データの局所的な部分集合に低次の多項式を当てはめて滑らかな曲線を作る、頑健なノンパラメトリック手法。従来の回帰より外れ値の影響を受けにくい。 | 環境モニタリング:環境科学者が、1年間(X)の日々の汚染物質濃度(Y)の大きな傾向を LOESS でモデル化し、突発的に高い日の影響を抑える。 |
| Reduced Major Axis (RMA) Fit(主軸回帰) | 通常の線形回帰が垂直方向の誤差を最小にするのに対し、RMA はデータ点から直線への垂線の距離を最小にする。X と Y の両方に測定誤差があるときに使う。 | 古地磁気の解析:地質学者が、2組の古地磁気測定値(X と Y)を比べる際、両変数に内在する不確かさを回帰線に織り込むために RMA を使う。 |
1つの変数の度数分布をモデル化するためのもので、通常はヒストグラムに描きます。ある値が現れる確率を理解するのに役立ちます。
| 当てはめ | どういうものか | 地球科学・工学での例 |
|---|---|---|
| Normal Distribution(正規分布) | 典型的な「釣鐘型」の曲線。平均のまわりに左右対称に値が分布し、極端な値が稀であるデータを表す。平均(μ)と標準偏差(σ)で決まる。 | 品質管理:技術者が、製造した何千個もの部品の直径(X)を監視し、分布が正規で設計仕様を中心にしているか(=工程が安定しているか)を確かめる。 |
| Lognormal Distribution(対数正規分布) | 対数をとると正規分布になる分布。右に裾を引き、高い値の長い尾を持つ。負の値を取りえない変数によく使われる。 | 鉱石品位・空隙率:鉱山技術者が、鉱床中の金の濃度(品位)の分布をモデル化する。品位は負になりえず、低い側に偏りつつごく一部に非常に富んだ部分があるため、対数正規分布が最もよく合う。 |
| Exponential Distribution(指数分布) | 右に裾を引く分布で、ポアソン過程における事象の間隔(時間や距離)を表す(一定の平均発生率で、連続かつ独立に起こる事象)。 | 故障率の解析:信頼性技術者が、ポンプのような重要機器の故障間隔(X)をモデル化する。 |
| Power Distribution(べき乗分布) | ある値が現れる確率が、その値のべき乗に反比例する分布。ごく少数が極端に大きく、多数が非常に小さい現象(「裾の重い」分布)に使う。 | 地震の規模:地震学者が、マグニチュード(X)に対する地震の頻度(Y)をモデル化する。小さな揺れが多数あり、大きなものはごく少ない(グーテンベルク・リヒター則)。 |
| Inverse Gaussian Distribution(逆ガウス分布) | 正のドリフトを持つブラウン運動が、一定の正の水準に到達するまでの時間をモデル化する分布。対数正規分布に似るが、数学的な性質が異なる。 | 地下水中の輸送:水文地質学者が、ある地点で放出された汚染物質が、一定距離離れた観測井へ到達するまでの移動時間(X)をモデル化する。 |
1つめ。どの曲線の当てはめについても、統計量を取得できます。そうした裏づけを重視する技術者の相手に、必要な材料をそろえられます。
2つめ。データに合った曲線の当てはめを選ぶことと、必要になるたびに毎回それを設定することは別の話です。作業を楽にしたいなら、テンプレートを使う手があります。毎回グラフを組み立てて当てはめを設定するのではなく、適切な曲線と書式があらかじめ入ったテンプレートを出発点にできます。そうすれば、データを分かりやすく信頼されるものにするだけでなく、作業の流れそのものも短縮できます。
十数種類の曲線の当てはめが組み込まれており、Grapher は幅広い用途をカバーしています。とはいえ、既定のモデルにすべてのデータがきれいに収まるわけではないのも事実です。そのために、独自の当てはめ(Custom Fit)を作る自由が用意されています。標準の一覧に無い数式や手法があれば、自分で定義して、そのままデータに適用できます。これにより、既定のものに縛られることなく、伝わりやすさと確かさを常に届けられます。
関連資料:

曲線の当てはめは、データを分かりやすく、かつ信頼されるものにするための優れた道具です。明快な視覚的傾向を必要とする技術者でない相手に示すときも、当てはめの統計量とモデルへの信頼を重んじる技術チームに示すときも、Grapher ならどちらにも応えられます。散布図とヒストグラムに対する十数種類の既定の当てはめがあり、必要なら独自の当てはめを作ることもできます。いかなるデータであっても、そこに現れるパターンを、分かりやすく信頼される形で伝えられるはずです。