
▶
西山教授は、ナノ粒子合成と新規ゲル材料開発の 2 つを柱とする研究テーマに取り組んでいる。ナノ粒子合成の研究では、農作物の病気診断に活用するバイオマーカーの開発を進めており、ナノ粒子が病害部位に選択的に集積し発光することで、早期発見と適切な対処への応用が期待される。新規ゲル材料の開発では、高速道路の吸音材などへの応用を視野に、既存の金属製防音壁と異なり透明化が可能で、アクリル等の汎用プラスチックより優れた強度特性を持つ素材の実用化を目指している。

導入の背景
西山教授が Igor Pro に出会ったのは博士課程 1 年次まで遡り、以来、30 年以上にわたり使い続けている。それ以前の研究室では、PC 上で XY グラフを描く標準的なソフトウェアが普及しておらず、先輩による自作プログラムやフリーウェア(Ngraph など)を使い対応していた。しかし、これらを用いてもただデータをプロットするだけで、X 軸や Y 軸のデータ描画範囲など細かな調整は一切できず、それが当たり前の環境で過ごしていた。データ処理をひとつとっても、積分が必要な場合にはグラフを紙に印刷し、その部分をハサミで切り取って重さを量ることで積分値(面積)を算出するという、極めてアナログで時間のかかる手法に拠らざるを得ないこともあり、学会前などは寝る暇もなかったという。
博士課程に進んでから研究室に Igor Pro が導入され、西山教授はその使い勝手の良さに衝撃を受けた。今振り返れば「ガラケーからスマートフォンに変わった時のような、まったく新しい境地への変化でした」と語る。
導入ポイント
最初に Igor Pro を利用したきっかけは、当時の教授の決定で研究室に導入されてあったからであった。しかし、大学教員になってから他社ソフトウェアを試した機会はあっても、最終的には乗り換えることなく Igor Pro に戻ってきた。数あるツールの中で Igor Pro でなければならなかった理由として、西山教授は以下の 3 点を挙げている:
利用の状況
現在、西山教授の研究室では、論文として出版する、あるいは学会で発表するためのすべてのグラフ作成に Igor Pro が活用されている。運用方法としては、日常の実験から得られた一次データの管理は学生が Excel で行い、西山教授が論文に向けて最終的なグラフ整形を Igor Pro で実施する二段階体制を取っている。「Excel で作成したグラフを AI(ChatGPT など)に修正させてみたこともありましたが、軸範囲を変えたり、目盛りの間隔を整えたりといった軽微な調整は、いくらプロンプトを投げてもうまくいきませんでした。しかし、IgorPro なら瞬時かつ簡単にできることです。」と西山教授は語る。そして、グラフ整形の中心となるのは『マクロ』による自動制御である。軸の描画範囲、ラベルのフォント・太さ、マーカーの種類、線の太さなど、Igor Pro におけるグラフの設定項目をすべてマクロに落とし込み、マウスのクリック一つで複数のグラフを統一した仕様に整える環境を構築している。データフォルダー内の数百から数千に及ぶファイルを、ループ処理を活用して連続出力するマクロも作成しており、大量の測定ファイルの一括処理まで実現している。
また通常の操作感でも満足しており、解析面では、組み込みの積分機能を活用して各データの面積を算出し、その結果を再びグラフ化するといった使い方であったり、また、波長とエネルギーの相互変換(単純な逆数変換ではデータ間隔が不等間隔になる問題を伴う)も Igor Pro に標準で備わっている補間機能を用いて等間隔に整形して対応している。「はじめは、コマンドラインを使ったコマンド操作にハードルを感じるかもしれませんが、操作に慣れてくると、よく利用する機能はすべてマクロ化してしまって、研究時間を有効に使うようにしています。」と西山教授は話す。

効果と成果
「時間の節約という意味では、当時の、手作業でグラフを切り抜いていた時代と比べれば、10 倍以上には確実になっています。」と西山教授は述べる。かつては、手作業で行っていたルーチンワークをマクロ化することで、データの取り違いや設定ミスといったヒューマンエラーが極めて発生しにくくなり、同じ品質のグラフを短時間かつミスなく再現できる体制が整った。最も強調するのは、論文投稿に向けて図の体裁を厳密に整えられるようになって、『一瞬で伝わる』視認性の高いグラフを作図できるようになったことである。学術誌の投稿規定や分野の慣習に合わせた精緻な作図が必要な場面で、Igor Pro の細部制御能力が唯一無二の強みを発揮する。「査読者は月に何本もの論文を読んでいるため、一瞬でデータの魅力や美しさが伝わるグラフを作らなければ、論文の魅力は伝わりません。査読者にも見やすいよう、軸の文字を大きく、太く、厳密に美しく仕上げる。これが一瞬でできるのは Igor Pro だけです。」と述べる。また、3D グラフ機能も有効活用しており「立体的なデータを回転させてさまざまな角度から確認できるのは、目で見て非常にわかりやすく、非常に助かっています。」と高く評価している。さらに、一旦マクロを組んでしまえば学生でも実行できるため、図の標準化という観点からも将来的な拡張性を見据えている。「一旦正しいセットを作れば、誰が実行してもミスが減ります。」と西山教授は語る。

今後の展望
「研究テーマがどのように変わろうとも、解析の技術は Igor Pro を知っていれば対応できます。」と西山教授は語る。過去に数値解析や統計力学の研究を行っていた際にも Igor Pro で多くの処理を実施してきた経験があり、今後、どのような新しい研究分野においても汎用的で強力なツールであり続けると考えている。
Igor Pro を一人で使いこなすだけでなく、研究室全体での活用や学生への教育は今後の課題としつつも、「Igor Pro を使わないと本職の研究者らしくありません。学術・技術に特化した解析・グラフ作成にはこれしかありません。」と高く評価している。西山教授は「Igor Pro は研究者を辞める日まで使い続ける」と破顔一笑しつつ、今後も Igor Pro を研究の強力なパートナーとしてと活用していく姿勢を示した。
本事例作成に関し、西山先生のご協力に感謝いたします。
(インタビュー:2026 年 7 月)
※所属・役職は取材当時のものです。