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医薬品原薬メーカーにおけるベテラン研究者のノウハウ継承と研究基盤の構築

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課題

  • 紙ノートの劣化や紛失により、実験記録の一部が消失している
  • サマリーレポートの根拠となる実験記録へのアクセスに時間を要する
  • 研究者によって実験記録の項目や質にばらつきがある

解決

  • 電子実験ノートの共有により、データやノウハウを次世代へ確実に継承
  • 網羅的な検索機能により、目的のデータへ即座にアクセス可能
  • テンプレート活用により、新入社員でも正確な実験記録を作成できる

伝統の有機合成技術と最新のデジタル解析技術を融合

金剛化学株式会社は、1941 年に国産ビタミン B1 の製造メーカーとして創業した医薬品原薬メーカーであり、80 年以上の歴史で培われた高度な有機合成技術を強みに、多くの医薬品原薬を世界中に供給している。近年、法令・規則の複雑化や、物価・エネルギーコストの高騰が進む中、医薬品の安定供給と新たな治療薬の早期提供を実現するため、研究者は日々奮闘している。研究現場では、変異原性の in-silico 予測、量子化学計算、反応熱量解析、単結晶構造解析等を活用し、科学的根拠に基づく高度なプロセス開発が進められている。

埋もれる「暗黙知」・「個人ノウハウ」

同社は医薬品の合成法に関する膨大な経験則、暗黙知、ノウハウを蓄積している。しかし、その多くは紙の実験ノートに記録されてきたため、異動や退職に伴う技術継承に大きな課題が生じていた。実際、紙の実験ノートや分析生データは数十年が経過すると劣化が進み、判読できなくなるケースもあった。また、一部の電子化されたデータは社内サーバーに保管されているものの、担当者以外が目的のデータに辿り着けないことがあった。近年、物価やエネルギー価格の高騰を受け、医薬品の安定供給のために製造プロセスの抜本的な見直しを求められるケースが増加している。新しい製造プロセスを効率的に開発するためには、過去の情報を正確に参照できる研究環境が不可欠である。そのため、ノウハウやナレッジを含む関連情報を一元的に紐付け、永続的に管理・検索できる仕組みの整備が急務となっていた。

実験記録と実験データの紐付け、ChemDraw と同じ描画機能を標準搭載

同社は、実験記録と実験データを同一環境で紐づけて管理できることを重要視していた。また、ノウハウやナレッジを失わないために、実験ノートをグループで共有し、情報を永続的に保管できる仕組みが必要とされていた。さらに、Excel などのファイル内部のテキストを検索対象にできる機能は、検索効率を大幅に改善するために不可欠とされた。
電子実験ノートの導入に向けては、Signals Notebook を含む複数製品の比較検討が行われた。同社の研究は有機合成実験が多く、ChemDraw の描画機能や化学反応式と連動する化学量論テーブル機能を備えた Signals Notebook は、研究者にとって魅力的であり、電子実験ノートへの移行ストレスを軽減した。オンプレミス版の E-Notebook も ChemDraw を搭載していたものの、初期費用やサーバー管理の負担、さらにデータインテグリティの観点からもクラウド版の Signals Notebook が最適と判断された。

標準テンプレートが導いたスムーズな電子実験ノート移行

メツナー氏は導入当時を振り返り、「日常的に実験計画時に Excel でブロックフローを作成したり、実験完了後に Excel でデータ解析を行っていたため、電子記録への移行は比較的スムーズに進められた。」と語る。また、「既に紙の実験ノートで進行しているプロジェクトは、完了まで紙の利用を認め、研究者の抵抗感に配慮した柔軟な移行期間を設けた。細かな規定はあえて作らず、一方で標準化されたノートテンプレートを提供することで、研究者が気軽に利用を開始できる環境づくりを重視した。」とも述べる。さらに「Clipchamp で教育用資料を作成し、研究員がいつでも学び直せる体制を整備している。」と語っている。現在同社では、合成ルート研究、反応条件最適化研究、粉体物性研究などを進めており、その情報管理に Signals Notebook を活用している。ひとつの実験に関連する作業記録、分析データ、文献、参照実験などを紐づけて一元管理できる点が大きな特徴である。例えば、HPLC の生データは分析装置専用サーバーで厳重に保管する一方、PDF 化された解析チャートを電子実験ノートに添付している。これにより、会議時に詳細な不純物プロファイルを即座にメンバーと共有し議論することができる。また、Materials 機能を活用した実験・分析機器などのリソース管理、PubChem と連動した試薬ハザード情報管理など、研究活動の情報基盤として Signals Notebook を幅広く活用している。

ベテラン研究者からルーキーへの「実験ノウハウ」継承

実験ノートの電子化による効果は、効率と品質の両面で明確に表れている。Signals Notebook では、添付資料を含む実験記録全体を横断的に検索できるため、必要な情報へ迅速にアクセスできる。テンプレートの利用によって実験記録の様式が統一され、『何を記録すべきか』が一目でわかるようになり、記録作業の効率が向上している。新入社員はテンプレートやベテラン研究者の実験記録を参照することで、すぐに正確な実験記録を作成できるようになり、人材育成のスピードが向上した。ベテラン研究者が持つ暗黙知が組織の共有資産として可視化され、異動や退職があってもノウハウが継承されるようになった。その結果、後任者の実験再現性が高まり、検討スピードも向上している。加えて、チームリーダーはメンバーの実験記録をリアルタイムに把握できるため、アドバイスや意思決定のスピードも大幅に向上した。
メツナー氏は「電子実験ノートは長年使い続けて関連データが蓄積されることで真価を発揮すると想像していたが、新任担当者への引継ぎがスムーズになるなど、即効性も有している。」と評価する。

複雑化する規制への対応と企業価値の向上

同社は Signals Notebook を研究開発におけるデータプラットフォームとして位置づけ、より高度な活用を進めていく方針となった。複雑化する化学物質に関する法規制への対応には、デジタル基盤の強化が不可欠となっている。現在、毒物・劇物を含む試薬の管理(調達・使用・廃棄)は Excel や記録ノートで運用しているが、今後は Signals Notebook の試薬管理機能(Inventory)への移行を検討している。また、計測データを自動的に電子実験ノートへ取り込む仕組みを構築し、データインテグリティをさらに強化する計画もある。これらの取り組みによって研究開発の質を向上し、企業価値の向上と医薬品原薬の提供を通じた社会へのさらなる貢献につなげていくことを目指している。

本事例作成に関し、博士のご協力に感謝いたします。

(インタビュー:2026 年 7 月)
※所属・役職は取材当時のものです。

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