日本語 English
株式会社ヒューリンクス
TEL:03-5642-8385
営業時間:9:00-17:30

星薬科大学 薬学部 機能分子創成化学研究室×電子実験ノートシステム   

PDFダウンロード

課題

  • 類似実験・繰り返し実験の記録を毎回手書きする必要があり非効率
  • NMR などの分析データが散在し、論文執筆時にデータの
    紐付け・整理に多大な労力を要する
  • 実験ノートから論文へ実験内容の転記作業に時間がかかる

解決

  • コピー機能で、類似実験・繰り返し実験の記録作業を大幅に効率化
  • 分析データを実験ノートに直接添付し、すべてのデータを一元管理
  • 実験内容を論文にコピー&ペーストでき、論文執筆を含むまとめ作業時間
    を約 3 割削減
 

糖鎖合成と抗体薬物複合体開発を軸とした機能分子創成研究

機能分子創成化学研究室は、「有機化学により生体高分子を合成・修飾し、高機能化合物を創成する」をテーマに 2 つの研究領域を展開している。一つは糖鎖合成で、核酸やタンパク質とは異なり分岐構造と立体制御が求められる糖鎖・複合糖質について、独自のエンド開裂反応を活用した新規グリコシル化反応を開発しながら、生理活性糖鎖の合成に取り組む。もう一つは有機合成・糖化学を基盤とした抗体薬物複合体(ADC)の創成で、抗体医薬品の機能をさらに高める研究として注目される分野である。顕著な抗がん活性を持つADC の合成や、世界最大規模の糖鎖構造均一化IgG ライブラリーの構築といった成果も生み出している。

繰り返す合成実験に伴う紙のノートの非効率な管理およびデータ散逸

同研究室では、反応条件を少しずつ変えながら同じ実験を何度も繰り返すことが日常的であり、紙のノートではその都度すべてを手書きでまとめ直す必要があった。これは記録の正確性と効率性の両面で、大きな負担となっていた。さらに、反復実験に伴う TLC や NMR をはじめとした膨大な分析データは、パソコンの中で保存および管理はしていたものの、フォルダー名やファイル名で「どの実験のデータか」を判断していたため、必要なデータを探すだけでも多くの時間を要していた。また、論文執筆の際には、紙のノートに記録された実験内容をワープロソフトへ改めて手入力する転記作業も避けられず、研究者の限られた時間を大きく奪う要因となっていた。
こうした「繰り返し実験の記録負担」と「分析データの散逸」という 2 つの課題を解決するために、理化学研究所に勤務していた頃(2018 年)に、当時は個人利用の Signals Notebook Individual Edition を導入した。基になるノートの複製と再利用が容易になり、関連する分析データも一元的に管理できるようになったことで、記録作業の効率は大きく向上した。その後、星薬科大学への着任を機に、個人利用から研究室全体での活用へと広げていった。

使い慣れたChemDraw の操作感と、コピー機能・データ一元管理への期待

Signals Notebook を選んだ最大の決め手は、ChemDraw とのシームレスな連携にあった。研究対象の糖鎖は分子量が大きく、分岐構造も複雑であるため、長年 ChemDraw を用いて構造式を描画してきた。有機合成研究者にとって ChemDraw は研究活動の根幹をなすツールであり、日々扱う化学構造式をそのまま実験ノート上で管理できることは、電子実験ノートを検討する上での絶対条件に近く、他システムとの比較検討を行うことなく導入を即断した。もう一つの大きなポイントは、実験ノートのコピー機能である。過去のノートを複製し、必要な箇所だけを修正することで次の実験を迅速に準備できる。複雑な化学構造式も一度作成してしまえばそのまま再利用できるため、記載ミスの防止にも大きく寄与した。さらに、分析データを Signals Notebook に直接添付できる点も導入の後押しとなった。実験記録と分析データが一か所に紐づいて管理されることで、論文執筆時に「どのデータがどの実験か」を探し回る非効率な作業を根本から解消できると考えた。
また、紙の実験ノートの管理、とりわけ保管場所の確保は研究者たちにとっての長年の課題であり、研究室では学生数に比例してノートが増え続けるのは避けたいという思いも存在した。

教育と研究の利便性を両立した段階的なアプローチ

同研究室では、配属されたばかりの学部 3 年生は、まず紙の実験ノートから使用を開始するという明確なルールを設けている。1 年目は研究の基礎がまだ固まっていない段階のため、まずは手書きでノートの書き方や実験の組み立て方を身につけてもらい、翌年3 月頃を目処に Signals Notebook へ移行するステップを踏むことで、学生自身が紙と電子の違いを体感しながら、電子実験ノートの利便性を自然に理解できる環境を整えている。 移行時には眞鍋教授が約2 時間かけてレクチャーを行い、その様子を動画として記録し、Google ドライブにアップロードして研究室内に共有している。学生は必要に応じて動画を見返しながら操作を習得でき、先輩が後輩に使い方を教える文化も自然と根づいている。 現在では 18 名が Signals Notebook を利用しており、当初は紙と電子の選択を学生に委ねて いたものの、論文のまとめ作業を前にした先輩がデータを素早く整理する姿を見て、自発的に電子移行する学生も出てきた。日常的な活用内容は、実験記録を中心に分析データファイルや参考論文 PDF の添付など多岐にわたる。描画した化学反応式と連動した等量計算や、実験情報とデータがリンクしていることによる検索性の高さも、学生が利便性を実感する大きな要因となっている。管理対象データはテキストと画像が中心だが、すべての実験情報を Signals Notebook 上に集約し、一元管理することを目標に運用が進められている。
一方で、各自の実験ノートは個人管理を基本とし、学生同士では実験ノートを閲覧できない設定にしている。学生同士が同じ実験をしている場合には、必要なページを PDF 化して共有する形を取っており、利便性の向上が必ずしも教育効果を損なわないよう配慮している。研究機関全体でデジタル化が進む中、学生のうちから電子実験ノートに慣れておくことは重要であり、Signals Notebook のレスポンスの良さや使いやすさが、学生の利用促進にも繋がっている。

データ連携と一元管理で記録にかかる時間を 3 割削減

Signals Notebook 導入後に最も大きな効果を実感しているのは、データの一元管理がもたらす高い利便性である。以前は NMR のデータを探すたびに、ファイル名から内容を推測するという非効率な作業が常態化していたが、今では Signals Notebook 上でノートを開けば、関連データがすべて揃っている。データをまとめるという観点では、紙の実験ノートよりも圧倒的に優れており、特に、類似の実験を繰り返す有機合成において、過去の実験を参照しながら計画を立てる際にその真価が発揮される。必要な情報がすぐに検索でき、反応条件や分析データを正確に確認できるため、実験設計の精度とスピードの向上に大きく貢献している。また、論文執筆時の効果も顕著である。実験内容を英語で記録しておけば、そのまま論文の実験項にコピー&ペーストすることができるため、従来のような書き移し作業がほぼ不要になる。実験プロトコルのコピー機能と組み合わせることで、データ整理から原稿作成までの一連の作業時間は従来比で約 3 割削減されたと眞鍋教授は実感している。「学生よりも教員やポスドクのような研究者ほど、使い勝手が良く、節約できる時間が積み上がっていきます。」と語る。さらに、出張先など離れた場所にいても学生の実験ノートをオンラインで確認し、タイムリーに指導やアドバイスができる点も大きい。場所を問わずいつでも教員から確実なフィードバックを受けられる安心感に繋がり、研究室全体の記録文化の底上げにも寄与している。

電子実験ノートのデータを利用した機械学習環境の構築

今後は Signals Notebook のテンプレート機能を整備・活用し、実験記録の標準化と入力効率の向上を図っていく方針である。研究室として用意したテンプレートを活用することで、記録作業の負担を軽減すると同時に、情報の均一化を進めたいと考えている。また、蓄積したデータを機械学習へ適用することも視野に入れている。データの構造化は、研究の効率化だけでなく、データの重要性を再認識する効果も期待される。「 有機化学はアナログな文化が根強い分野ですが、デジタルデータとして体系的に蓄積できる体制を今のうちに整えておかなければ、時代の流れに取り残されてしまいます。」Signals Notebook を研究室の知的資産を次世代へ継承するための基盤として位置づけ、デジタル環境の整備とデータ活用の高度化を今後さらに推し進めていく。

 
 
 

本事例作成に関し、真鍋先生のご協力に感謝いたします。

(インタビュー:2026年7月)
※所属・役職は取材当時のものです。

関連リンク