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量子暗号通信用半導体量子ドット光源の研究開発

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データ整理、高度な解析、グラフ描画、プログラミングが 一体となっていて、ほとんどの場合他のソフトウェアを 使う必要がなく、非常に有効なツールです。

 

研究されている内容について教えてください

量子暗号通信用半導体量子ドット光源の研究開発を行っています。

現在の通信は、「計算量的安全性」と言って解読できるけれどもそれには非現実的な時間が必要という、安全性の根拠としてはいささか頼りない基盤に立脚しています。私たちの通信は、将来高性能な計算機やアルゴリズムの登場により、個人・機密情報等を含む内容が一気に丸裸になるリスクに晒されている訳です。

一方、私は「未知の単一量子は複製できない」等、物理の基本原理によって絶対的な安全性が担保でき、どんなに技術が進んでも盗聴がされない究極的なセキュア通信の実現を目指して、半導体量子ドットによる量子光源の研究開発を行っています。

実験室の内部

これらの研究の中で IGOR Pro ではどのようなデータを扱っておられますか?

量子ドット光源の特性評価の基本となる発光スペクトルデータや、発光強度の時間減衰データを扱います。また量子暗号通信の安全性は、光子1つ1つに情報を乗せることが本質的に重要で、量子ドットから光子が1つ1つほぐれた状態で発生しているかを確認する必要があり、このために光子間の時間相関データの計測・解析も行っています。強度依存性や偏光依存性といったような、パラメータを変えながら連続的に計測したデータセットを扱うことも多々あります。

IGOR Pro 使用時の画面

研究はどのように進められ、データが記録されていますか?

作製した半導体量子ドット試料を冷凍機で 4K (絶対 4 度) 程度まで冷却し、レーザー光を照射して光励起します。 

その後平衡状態に復帰する過程で得られる発光スペクトルや強度相関を測定し、データを記録しています。

特にスペクトル測定の場合には、実験パラメータを振りながら取得した一連のスペクトルデータセットに対して、一括して自動的にフィッティングを掛けてピーク位置、強度、半値幅情報を抽出し解析を行うことも可能で、様々な場面で IGOR Pro を活用しています。

IGOR Pro の用途は何ですか?

実験データ整理、解析、フィッティング、装置関数による畳み込み積分、シミュレーション (自作プログラムも使用) 、グラフ作成、行列計算、連立微分方程式の数値解といった、幅広い用途で使用しています。

IGOR Pro を使い始めたきっかけは?

隣の研究室の先生が使用していたのを見たのがきっかけで使うようになりました。やはり分光データの整理、解析に使っていました。マクロを作成しておられ、取得データの読み込みからフィッティングによる値抽出を経て、一瞬で学会でのプレゼンレベルの高品質のグラフ描画まで一括処理が出来るのを見て感動したのを覚えています。

IGOR Pro の使用感、良い点と悪い点は?

  • データ整理、高度な解析、グラフ描画、プログラミングが一体となっていて、ほとんどの場合他のソフトウェアを使う必要がなく、非常に有効なツール。
  • 操作履歴が残るので、同僚とデータをやりとりする際にもどのような処理を経て今の状態になっているかが一目瞭然で、誤解が生じにくい。
  • 反面、その高機能さ故、最初はかなり敷居が高い。まずはメニューコマンドで各機能を確認しながら使い、履歴を見ながら少しずつコマンドを覚え、最終的にプログラムを組めるようになると一気に活用度が上がる。できれば若い時から始めるのが良いと思う。
  • 複素数の扱いがやや面倒。
  • サイトライセンスを使用しているが、英語版は Win, Mac 両方で使用可能なのに対し、日本語版は別々で少々やりにくい。
    (編集注:当インタビュー後、2017年6月に日本語版ライセンスのルールは変更となり、現在では英語版・日本語版ともに、Windows と Mac を同一ライセンスで使用できます。)
データ例1 (上図)
量子ドットの発光スペクトルの偏光角度依存性。検出偏光角度を変えながらスペクトルを測定し、まとめて表示したグラフ。上はその積分結果。
データ例2 (上図)
量子ドットから生成する光子に関する強度相関の全体図 (上) と原点付近の拡大図 (下) 。横軸は遅延時間、縦軸は同時計数。零遅延で同時計数がほぼ0となっている。光子が高い純度で1つ1つほぐれた状態で発生しており、安全な光源として利用可能なことを示す。

IGOR Pro を使って開発されたプログラムを用いた研究成果があればご紹介ください

半導体量子ドットを用いて、量子暗号通信の高度化に欠かせないもつれ合い光子対、あるいはベルの不等式を破るような非局所光子対の発生を検証するためにIGOR Pro プログラムを用いて光子対状態のシミュレーションを実施。また、その時間発展を追うことによりドット内部でどのような物理過程が支配的に起こっているかを解析し、より優れた光源開発に役立てている。

図:半導体量子ドットにより生成した2光子状態の理想状態に対する忠実度の時間発展のシミュレーション (実線) と実験結果 (丸)

どのような研究者の方に進められる製品ですか?

各種フォーマットのデータ読み込みやデータ解析、プログラミング、高度なグラフ作成が全て IGOR Pro 1 つで全てこなせるので、一連の作業をシームレスに実行できる。実験で取得した多数のデータを一括処理する際などにも有用で、比較的大きなデータを解析する場面で特に有効と思います。

また、関数解析、行列演算、画像解析、信号処理、統計等の組み込み関数も充実しており、このような解析を多用する方には非常に便利な製品と思います。

 
 
 

本事例作成に関し、熊野准教授のご協力に感謝いたします。

(インタビュー:2014 年8 月)
※所属・役職は取材当時のものです。

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