チュートリアル 6:DNA セグメントのクローニングとサイレント突然変異

このチュートリアルの目標は、前のチュートリアルで作成したコンストラクトを使って、別の DNA セグメントをそこに組み入れることです。この操作を通じて、DNA セグメントのコピー&ペースト、および、コンストラクトの更新履歴をたどる方法について学ぶことができます。

  1. GCK を起動して、前のチュートリアルで保存した construct#5 ファイルを開きます。このファイルがない場合は、Tutorials フォルダに用意されている construct#5 を使って始めることもできます。

  2. Tutorials フォルダから hsp70 という名称のファイルを開きます。このファイルには、これからクローニングに使用する断片の元となる遺伝子が含まれています。読み枠 (open reading frame) をあらわす領域が一か所ある点にご注意ください。この領域を含むセグメントを construct#5 の BamHI 部位にクローニングします。

  3. はじめに hsp70BamHI 部位に標識 (マーク) をつけます。前面に hsp70 ウィンドウが表示されていることを確認して、Construct > Features > Mark Sites を選択します (コマンド - M (Mac) / Ctrl - M (Windows) としても同じです)。左側のリストから BamHI を選択したら Add -> ボタンをクリックして、右側のリスト Enzymes to mark list にこの酵素を追加します (図 2.8)。Display new sites の選択肢から as enzyme names を選択します。OK ボタンをクリックすると、そのサイトにマークが付きます。画面は図 2.22 のようになっているはずです。
    図 2.22:hsp70 にマークされた BamHI サイト

  4. 関心のあるセグメントを切り出す前に、BamHI 部位の中央部位に関する問題を検討する必要があります。実験室で行われたのが制限酵素による不完全な消化 (partial enzyme digests) で、コーディングの全領域を含む断片がゲルから溶出されることで、こうした結果になった可能性があります。GCK では、DNA にある最初の BamHI 部位 (左側) から3番目の BamHI 部位までをマウスでドラッグしてこの全領域を選択し、選択した断片をベクターにコピー&ペーストします。もうひとつのやり方は、サイレント突然変異を通じて BamHI 部位の中央部位を取り除く方法です。DNA のコーディング容量に干渉することなく BamHI 部位を除去するのがこのサイレント突然変異を使った方法です。このチュートリアルでは、後者のアプローチをとることにします。

  5. サイレント突然変異にするには、まず、参照する読み枠 (reading frame) を指定する必要があります。これは、hsp70 コンストラクトの一領域を一回クリックすることによって選択できます。次に、Construct > Features > Remove Sites by Silent Mutation を選択します。図 2.23 のようなダイアログが表示されるのを確認できるはずです。
    図 2.23:除去する制限酵素部位の選択例

    左側にあるリストから BamHI 制限酵素を選択したら Add -> をクリックして、右側にある Enzymes to try リストに追加します。OK をクリックしたら、図 2.24 のダイアログが表示されますので、制限酵素の名称 BamHI をクリックして選択します (BamHI 部位が複数ある場合は、その中のいずれかひとつ以上を選択できます)。選択したら OK をクリックします。

    図 2.24:除去する部位の選択

  6. DNA のコーディング情報を変更せずに BamHI 部位を削除するサイレント突然変異のリストが図 2.25 のダイアログに幾つか表示されます。最初の列にはオリジナルの配列が、2番目の列には変異後の配列が表示されます。実際に変更されるヌクレオチドは小文字で表記されます。図に示すように1番目の項目を選択して、OK ボタンをクリックします。

  7. これで、hsp70 コンストラクトの中央の BamHI 部位がなくなってるのを確認できるはずです。実際のヌクレオチド配列は、図 2.25 で指定した内容に変更されます。変更されたヌクレオチドは、実際の塩基配列では小文字で表記されます。[GCK のデモ版をお使いの方は、ファイルを保存できませんので、次のステップ8に進んでください] GCK の Trial Version または Full Version をお使いの方は、File > Save As を選択して、ファイル名を myhsp70_Bam- に書き換え、ご自分のフォルダに保存してください。なお、他の人がこのサンプルファイルを使うかもしれませんので、あらかじめ用意されているチュートリアルファイルを上書きしないように注意してください。ここで保存したファイルは、Tutorial 10: イラストレーションの作成 で使うことになります。
    図 2.25:サイレント突然変異の選択例

  8. 以上でクローニングを進める準備が整いました。左側の BamHI 部位の DNA セグメントをクリックして、2つの BamHI 部位の間にある DNA がすべて選択状態になるまでマウスカーソルを右側にドラッグします。全てのセグメントがハイライトで表示されるはずです。

  9. Edit > Copy を選択して (または、コマンド - C (Mac) / Ctrl - C (Windows) を押して) 、このセグメントをクリップボードにコピーします。construct#5 ウィンドウをマウスでクリックしてアクティブにします (Window メニューを使ってもアクティブにできます)。

  10. 次に、さきほどクリップボードにコピーした BamHI 断片を貼り付ける場所を GCK に伝える必要があります。これを行うには、挿入ポイントとして construct#5 の BamHI 部位を指定します。サイトマーカーのテキスト BamHI をクリックするのが一番簡単です。実際に行ってください。

  11. いよいよ、実際にクローニングする準備が整いました。Edit > Paste を選択します。これから実行しようとしている編集操作 (断片の貼り付け) が現在のコンストラクト の領域 (多クローニング部位をスパンする β-ガラクトシダーゼ・セグメント) に影響を及ぼすことを警告するダイアログが表示されます。ダイアログの OK ボタンをクリックします。結果は図 2.26 のようになるはずです。
    図 2.26:hsp70 断片を貼り付けた例

  12. この図の hsp70 由来のコーディング領域は原型を保ったまま表示されており、また、ウィンドウ中央に表示されるコンストラクトの大きさは新たに挿入された断片にあわせて調整される点に注目してください。BamHI 部位に BamHI 断片が貼り付けられたので、BamHI マーカーは両方とも修復されます。

  13. [GCK のデモ版をお使いの方は、ファイルの保存ができないので、そのままステップ 14 に進んでください。Trial Version または Full Version をお使いの方は、File > Save As… を選択して、ファイル名を myconstruct#6 に書き換えたらご自分のフォルダに保存してください。なお、他の人がこのサンプルファイルを使うかもしれませんので、あらかじめ用意されているチュートリアルファイルを上書きしないように注意してください。]

  14. 挿入した青の DNA セグメントが選択状態にあることを確認したら、Edit > Special Paste を選択します。クリップボード (メモリー) には hsp70 断片がまだ残っており、DNA セグメントは選択状態にあるので、ペーストすることで、現在の選択範囲をコンストラクトに貼り付けるクリップボードの内容と置き換えることになります。ちょうどワードプロセッサで選択したテキストをクリップボードの内容に置き換えるのと同じことです。図 2.27 に示すダイアログが表示されます。Invert Sequence (配列の反転) チェックボックスにチェックを入れ、ラジオボタンの Leave Ends Alone を選択します。OK ボタンをクリックすると、現在選択状態にある hsp70 セグメントが、同じ DNA を反転した (つまり、ひっくり返した) 内容に置き換えられます。
    図 2.27:Special Paste ダイアログ

  15. [GCK のデモ版をお使いの方は、ファイルの保存ができないので、そのまま次のステップ 16 に進んでください。] Trial Version または Full Version をお使いの方は、File > Save As… を選択して、ファイル名を myconstruct#7 に書き換えたらご自分のフォルダに保存してください。なお、他の人がこのサンプルファイルを使うかもしれませんので、あらかじめ用意されているチュートリアルファイルを上書きしないように注意してください。HamHI 部位への hsp70 断片のクローニングは、現実にはどちらの方向にも同じ割合で起こるため、これら2つのコンストラクト (construct#6 と construct#7) は、実際の実験において起こりうる両方の結果をあらわすことになります。2つのコンストラクトを使用して、GCK にゲルパターンを予測させることができます。詳細は、Tutorial 9: ゲル泳動と配向解析 をご覧ください。ここでは、いかに DNA を簡単に置き換えられるか、そして、両方向の断片を含むコンストラクトを作成できるかを説明します。

  16. このチュートリアルを終えるまえに、BamHI 断片を BamHI 以外の部位に貼り付けようとしたら、GCK はどのような挙動を示すかを確認してみることにしましょう。この断片はまだクリップボードにありますので、必要な作業は、貼り付け操作の対象となるコンストラクト内の異なる挿入ポイントを定義するだけです。これを行うには、コンストラクトの任意のシンボルをクリックしてその部位を選択状態にします。

  17. DNA の挿入ポイントを選択部位にした状態で、Edit > Paste を選択します (コマンド - V (Mac) / Ctrl - V (Windows) を押しても同じです)。実行すると、図 2.28 に示すライゲーション・ダイアログが表示されます。断片の両端は適合しないので (コンストラクトの選択部位とクリップボードの BamHI)、GCK はこの断片をペーストさせて (繋ぎ合わせて) くれません。このダイアログに表示される塩基配列は、左上の図に示すジャンクション (接合部) をあらわします。この事例の場合、左側の DNA 配列はベクター内で選択された切断配列を、右側の DNA 領域はクリップボードにある切断された BamHI 断片の配列をそれぞれあらわします。2つの矢印は、実際の切断部位を示し、両端が互い違いになっていることを示します。なお、この操作は、生物学的に不可能であるため、OK ボタンは無効になっている点に注目してください。断片の末端の位置が適合するまで、マウスで矢印をドラッグすることで両端を調整することができます。末端の適合が確認されると、すぐに、OK ボタンが有効となり、貼り付ける断片と標的塩基配列との間のジャンクションを他に扱うかどうかを尋ねられます。このプロセスには、“Special Paste…” で紹介した Edit > Special Paste を使うショートカットがあります。ここでは、Cancel ボタンをクリックしてください。
    図 2.28:ライゲーション・ダイアログ

  18. construct#6hsp70_Bam- ファイルを変更内容を保存せずに閉じてください。引き続き次のチュートリアルに進んでも、ここでプログラムを終了しても結構です。

 

注釈:

  1. この塩基配列は、ショウジョウバエの hsp70 遺伝子由来である点にご注意ください。オリジナルの塩基配列は、本チュートリアル用に加工されています。この塩基配列を実際の hsp70 配列としては使用しないでください。

  2. この選択範囲は、前の中央の BamHI 部位の位置を「ポーズ」することにお気づきかもしれません。これは、変更されたヌクレオチドは色が異なり、塩基配列の「境界」をあらわすからです。グラフィカルビューの選択範囲は境界の間にあります。

  3. この警告は、不用意な編集操作に注意を促すために表示されます。"feature" の一部であるコンストラクト内の部位に貼り付けようとすると、その feature は貼り付け操作によってバラバラになってしまいます。したがって、紛らわしい注釈やあいまいな注釈があれば、それらを除去する必要があります。