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空気力学の効率化を目指す
スタンフォード・ソーラーカー・プロジェクト

オーストラリア内陸部のアウトバックを 3000 km にわたって太陽を追いながら横断するのは、過酷なテストです。それをソーラーカーで行なうのはさらに大きな挑戦です。しかし、ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジのために、2年ごとに世界中のチームがオーストラリアのダーウィンに集結し、特別設計したソーラーカーでアデレードを目指します。

スタンフォード大学の学生が運営する非営利団体、スタンフォード・ソーラーカー・プロジェクトは1989 年からソーラーカーの設計、製造を行い、2年ごとに素晴らしい新車を伴ってダーウィンにやって来ています。彼らの最新の車両である Arctan は、わずか 41 時間で 3000 km を走破し、2015年のレースでは 45 チーム中 6 位となりました。

車両の空気力学はパフォーマンスに重要な役割を果たすため、スタンフォード・ソーラーカー・プロジェクト・チームは高速ハイブリッド・メッシュ生成用に PointWise の繰り返し可能な設計シミュレーション・フレームワークを開発し、CFD シミュレーションを SU2 で、結果の後処理と解釈を Tecplot 360 EX で行ないました。

Arctan とスタンフォード・ソーラーカー・プロジェクト・チーム

ソーラーカー・チームの空気力学の共同リーダーである Rachel Abril は機械工学の修士学生です。彼女は 2013 年からチームに加入し、2015年にはメッシュ生成と機械設計解析を専門とし、ドライバーも務めました。

Abril によると、3つの大きな要素がレースに優勝する鍵となります。それは信頼性、空気力学、太陽電池です。「最も大事なことはもちろん信頼性です。車が故障すると、レースを終えることはできず、アウトになってしまいます。」と彼女は説明しました。「空気力学と太陽電池は、基本的に車両の速度を定義しますが、車両の設計時に双方の利害が競合するときがあります。私たちはシステム解析を行い、適切な妥協点を見つけようとしています。」

Arctan の開発において、チームはSU2 と提携したことにより、初めて空気力学ツールチェーンを導入しました。SU2 はスタンフォード大学の航空宇宙工学部が開発した、マルチフィジックスシミュレーションに使用するオープンソースの C++ ソフトウェアです。ソーラーカー・チームは主に数値流体力学 (CFD) に SU2 を使用しました。

チームの他の重要なパートナーとなったのは、テキサス州フォートワースの Pointwise 社のCFD メッシュ生成と、ワシントン州ベルビューの Tecplot 社のデータ可視化と解析でした。

SU2 CFD コード、Pointwise メッシュ、Tecplot可視化解析を使った空気力学ツールチェーン

「空気力学を制限する傾向にあるレース規制と同時に、私たちが常に直面している課題は、サスペンションやドライバーのような力学要素のパッケージです。」と Abril は述べました。「私たちは常にこれらに対処する方法を見つけ出さなければなりません。我々が目指す基数は低抵抗と無揚力です。」

車体が製造され、走り出すようになると、チームは SU2 の開発者である David Manosalvas と Thomas Economon 博士からの指導で、風洞に車体を置き、CFD の結果を確認しました。その後、車体はシミュレーションと検証から路上テストに移行しました。「私たちはバグをなくすため、最初はレーストラックで、その後は公道で約 4,000 マイルのテスト走行を行いました。路上テストは私たちレースクルーの訓練にもなり、ドライバーは車を熟知することができました」と Abril は述べました。

 

40 以上の Pointwise メッシュで Arctan の作成を支援

「Rachel が当社のメッシュ生成ソフトウェアにデータをインポートして最初に見たのは、多数のさまざまなサーフェスで構成された車体モデルでした。」Pointwise 社のシニアエンジニアである Travis Carrigan は説明しました。「次のステップはソリッドモデリングというものです。彼らのジオメトリが非常にきれいだったので、46のキルトで構成された車両の単一の漏れのないモデルを簡単に組み立てることができました。」

キルトとは、サーフェスメッシュが生成され、境界条件が適用される論理メッシュ領域です。チームの最大の関心は、キャノピーの左右、車両の前面、車両の天井面、フェアリングといった表面のエンジニアリングを表す膨大なキルトを組み立て、モデルの位相的な複雑性を簡素化することでした。

チームは定義済のソリッドモデルとキルトを使って、車体に均一なサーフェスメッシュを自動的に生成し、関心のあるエリアを選択して細分化しました。手動での等方細分化は、サーフェスメッシュを生成するのに非常に効率的な方法であり、チームはサーフェスセル数を 50% 以上削減することができました。

「しかし、セル数をさらに減少させる手法があります。それは異方性細分化といわれるものです。」Carrigan は言いました。「この手法を使って、セルをストレッチし、境界から直角三角形を並べます。すると、より少ないセルでより細かいグリッドが表示されるようになります。」

最後のステップは、ボリュームメッシュです。チームは T-Rex (anisotropic tetrahedral extrusion) を使って、車両のハイブリッド粘性ボリュームメッシュを自動的に生成しました。T-Rex はサーフェスの要素を押し出して、遠視野で等方性四面体に自然に移行するプリズム要素の層を作成します。

「まず見たいのは、サーフェスメッシュの品質でしょう。なぜかというと、サーフェスメッシュ要素を増大させようとするとき、高品質サーフェスであることが保証できれば、非常に質の高いボリュームメッシュを生成することができるからです。」Carrigan は説明しました。

 

スタンフォード大学のオープンソース SU2 コードを CFD シミュレーションに使用

ソーラーカー・チームは、SU2 スイートを使用して、車の空気力学の動作をシミュレートしました。シミュレーションは、最も効率の良い速度とダーウィンの大気状態を考慮し、SU2 に組み込まれている圧縮ソルバを使用するように設定されました。

「我々はシミュレーションとその収束だけでなく、車自体の力を見ることに興味がありました。」と SU2 開発者で、スタンフォード大学博士課程に在籍する Manosalvas は述べました。「それは SU2 のオプションであるマーカー・プロット機能とモニター機能が作用し始めた箇所です。我々は車のサーフェスを全て選択して、これらの特定のサーフェスに統合された力の収束を追跡し、履歴ファイルに記入しました。」


Manosalvas によると、その後、チームは数値計算を選択する必要がありました。彼らは業界標準と考えられている一次 Spallart-Allmaras乱流モデルと組み合わせて二次Roeスキームを選択しました。最後に、メッシュの名称と形式を構成ファイルで指定しました。SU2 は Pointwise から直接エクスポートできる CGNS 形式と SU2 形式の両方をサポートしています。

アウトプットには、彼らは Tecplotバイナリを選びました。「ASCII 上でバイナリを作成する主な理由は、他のソフト側でもサポートしていることと、書き込みと読み出しが速く、ハードディスクの使用スペースが少ないからです。」と Manosalvas は説明しました。

 

CFD ポストプロセッサとして Tecplot 360 EX を選択

SU2 シミュレーション結果を理解するため、ソーラーカー・チームは Tecplot 360 EX を使用しました。最初に行う必要があったのは、CFD シミュレーションが正しく実行されたかを理解することでした。彼らは、抵抗を最小限に抑え、揚力をゼロに近づけることを望んでいました。彼らは車両の抵抗エリアを探しました。それらは流線と同時に、圧力のコンターを調べることで可視化されます。

ソーラーカー・チームは設計の反復に Tecplot 360 EX をどのように使用したのでしょうか。チームは設計の反復ごとにプロセスをセットアップし、プロットレイアウトを使用して作成できる、あらかじめ定義した一連の画像を得ました。1つのレイアウトにつき1つの命令セットで、Tecplot 360 EX にロードするデータと、ビューへの表示方法を指示します。例えば、チームは圧力係数のサーフェスの値および車両周りの流線を示す画像を作成しました。

複数のフレームを使用して、Tecplot 360 EX で結果を解析

 

Tecplot 社のプロダクトマネージャーである Scott Fowler は、Tecplot を使うことで、ストリーム・リボンを使用する等して、ソーラーカー・チームは新しい可視化を実行できたと言います。リボンは乱流の可視化を支援する興味深いものです。チームはリボンを使用して、フローのねじれを実際に見ることができます。

サーフェスのストリームトレースは、再循環の領域を特定します

 

短いサーフェスの流線を使用して、油流プロットをシミュレートし、ソーラーカー・チームは Tecplot で車のキャノピー後部の再循環の領域を識別しました。ソーラーカー・チームにとって、これは新しい発見でした。これにより、分離の可能性を軽減するために変更するべきジオメトリがある車両のエリアが示されました。

自動化と解析について、「Tecplot 360 EX はかなりロバストなマクロ言語を持っているので、多くの一般的に使用されるプロットを自動化することができます。」と Fowler は言います。「ソーラーカー・チームは、CFD シミュレーションの後処理にこれらのマクロを使用しました。彼らは各設計の反復に使用できる一連の画像を解析に活用しました。」

 

スタンフォード大学史上最速の車

空気力学の共同リーダーの Abril によると、今年のレース中に収集されたパフォーマンスデータに基づくと、Arctan はスタンフォード大学史上最速の車でしたが、まだ改善の余地がたくさんあります。「全体的に、私たちは車両のあらゆる面を次のレベルに持っていこうとしています。空気力学の面では、メッシュ技術が上がれば、計算上さらに効率が上がります。」と彼女は言います。「空気力学は、太陽電池のパフォーマンスから車両の機械的取扱いに至るまで、システムレベル全般に影響します。次回の挑戦では、空気力学の反復と並行して初期段階からその解析を行いたいです。」

 

 

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