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極超音速設計における次元の呪いを克服

Tecplot Chorus を使って、コロラド大学の研究者がクリギング代用モデルで低忠実度の結果の精度を一桁向上させる方法を実証

2012年5月

宇宙探査、防衛、航空機飛行用のエアブリージングエンジン1 搭載の極超音速機の開発は数十年に及んでおり、いくつかの有望な成果を挙げていますが、依然として商業利用可能な設計開発には至っていません。

極超音速 (マッハ 5 以上) の有人機および無人機の設計には独自の難題があります。一番の難題は各システムの非線形性相互依存です。例えば、1つのパラメーターを初期の機体設計スイープに追加すると、設計空間内のシングルポイント・ソリューション数が指数関数的に増加します。二番目の問題は、高忠実度シミュレーションを設計ループの収束に使用する場合、初期の設計近似が最終構成からどのくらい外れているかによって、このプロセスに何か月もかかることです。

これは、2012 年までにイテレーション (反復) を2日間まで削減するとした NASA の方向性 Integrated Design and Engineering Analysis (IDEA) environment (統合設計とエンジニアリング解析 [IDEA] 環境) には程遠いものです。

また、多くの費用もかかります。

コロラド大学の Busemann Advanced Concepts Lab (BACLab) の所長であり、超音速および極超音速空気力学の専門家である Ryan Starkey 博士は、大学院生と大学4年生のグループを率いて、イテレーションにかかる時間とコストを削減する方法を見つけようとしています。大学院生の Kevin Basore 氏は、クリギング代用モデルを使用して、低忠実度データで計算されたメトリックの精度を一桁向上させる効果的方法の実証に一役買いました。具体的に言うと、Basore 氏と Starkey 博士は、いくつかの計算モデルで不確実性定量化 (UQ) 手法を使用して、計算時間と忠実度のトレードオフを理解しました。これによって、極超音速航空機の設計に必要な精度を損なうことなく、信頼性の高い結果を迅速に生成するための最良のオプションを識別することができました。

「低忠実度データでこのレベルの精度を取得できれば、設計の決定に必要な情報を得るために、(設計イテレーションの段階で) 高忠実度データの処理に何ヶ月も費やす必要はありません。」 Starkey 博士は話しています。

極超音速機設計の非線形相互作用。画像著作権: Ryan Starkey 博士

 

次元の呪い

物体の速度が音速を超えると、物理的特性が変化し、挙動も変化します。マッハ5に達すると、物理的特性と挙動はさらにもう一度変化するため、新しい設計を作成する時の誤差の余地はほとんどありません。

極超音速飛行のための推進システムと材料の開発についての最新の研究の状況については BBC World Service ウェブサイトのポッドキャストにうまくまとめられています。

Basore 氏は高忠実度データ解析の実行に関連する複雑な問題と計算費用を、次の書籍から引用した単純な式を用いました。Engineering Design via Surrogate Modelling: A Practical Guide 2 (Andy J Keane 教授、Alexander I Forrester 博士、Andras Sobester 博士共著)

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n がサンプルポイントの数で、k が次元の数とすると、5 次元空間の各次元に 10 ポイントがサンプリングされる場合、設計空間は 100,000 ポイントと計算されます。低忠実度設計の各ポイントソリューションの最適化に約 1 分かかると仮定した場合、約 1,600 CPU 時間が必要となります。1 時間あたり 10 セントの平均 CPU コストがかかるとすると、設計空間の設定には $160 必要となります。

5 次元空間の各次元に 20 ポイントをサンプリングすると、3,200,000 ポイントになります。ソリューションあたり 1 分で最適化すると、約 53,000 CPU 時間 (正確には 53,333) となります。この設計空間を CPU 時間あたり 10 セントで設定すると、約 5,300 ドルかかります。

「我々はこれを “次元の呪い” (the curse of dimensionality) と呼んでいます。数学者の Richard Bellman が作った言葉です。」 Basore 氏は話します。「高忠実度イテレーションの完了まで数週間、数ヶ月かかるだけでなく、どんどん費用がかかっていくのです。」

 

クリギング代用モデル

クリギング代用モデルは、まばらにしか存在しない n 次元ランダムフィールドで決定性データを正確に予測することができる補間法です。代用モデルを使用して、Basore 氏は高忠実度と低忠実度の設計ソリューション間の差に対する経験的近似を発見し、低忠実度の設計精度を一桁向上させることができました。

「多次元データの傾向を把握し、またベースラインの代用近似を得られたため、それ以外の後処理にかかる時間を大幅に節約することができました。」
— Kevin Basore 氏

現在、複数忠実度設計の標準として認められているものには、コクリギング代用モデルが組み込まれています。この代用モデルは、クリギングモデルの変形で、複数忠実度データセットの異なる忠実度レベルを直接考慮し、正しく重み付けすることができます。しかしながら、この現在のやり方は常に複数の忠実度レベルに依存しているため、Basore 氏と Starkey 博士は、より正確にするために低忠実度ソルバを直接トレーニングするための UQ 手法の検証を始めました。

Basore 氏はその手法を証明するために 2 つの幾何学的設計形状を使用しました。二重楔翼とも呼ばれるダイヤモンド翼と、一般的な空洞スクラムジェット燃焼器です。翼は、手法と計算に使用するサードパーティ製ソフトウェアを検証する簡単なテストケースとして使用されました。ダイヤモンド翼の分析的非粘性解が存在し、出版物が多く比較がしやすいことから、簡単な幾何学的形状の中からダイヤモンド翼が選択されました。ダイヤモンド翼の解空間間の経験的誤差の解決後、学んだ教訓は比較的計算コストが小さいスクラムジェット燃焼ケースに適用されました。

 

プロセス

Basore 氏は先ず、気流周りの外部流のメッシュを作成し、3つの異なるパラメーターレベルで比較しました。それぞれの設計空間で取られた初期の点から、離散化誤差空間がモデルレベル間に作成されます。この離散空間は、クリギング代用モデルを使うと、多次元ドメインで連続スペクトルに変化します。次に、忠実度レベル間の経験的補正が低忠実度モデルに重ね合わせられ、メトリックの結果の精度を向上させます。スクラムジェット燃焼器にも同じ手法が適用されます。離散ポイントは、忠実度レベル間の連続誤差スペクトルを埋めるためにサンプリングされます。さらに、ジオメトリ、化学的忠実度レベル、および計算要件の差を説明する作業を実行すると、この手法がスクラムジェットジオメトリに正しく適用されます。

 

ツール

代用モデルの生成には、n 次元モデル (スクラムジェットの化学部分に必要な高次元の重要基準) に対応しているサンディア国立研究所の Dakota Surfpack が使用されました。Surfpack は、クリギングモデルがこの作業に適切かどうかを検証するのに使う代用モデルにも対応しています。この研究に選ばれたメッシュプログラムとソルバーは、Chimera、ANSYS ICEM と VULCAN です。

 

Tecplot Chorus

最後に Basore 氏は Tecplot Chorus を使って、設計空間の収束を確認しました。Tecplot Chorus は、エンジニアが数十、数千ものシミュレーションケースのある CFD プロジェクトを取り扱えるようにする新しいシミュレーション解析ツールです。Tecplot Chorus にデータを入力すると、シンプルなインターフェイスで、いくつかの手順を踏むだけでデータを確認することができます。

Tecplot Chorus の出力サンプル:収束の検査

 

Tecplot Chorus を使用すると、エンジニアは単一の環境でシミュレーションケース、導出された数値、およびプロット画像からの結果をまとめて、CFD プロジェクトを管理することができます。Tecplot Chorus を使用しているエンジニアは、システム全体のパフォーマンスを評価して、数十、数百、数千ものシミュレーションケースをスクリプトを書くことなく視覚的に比較することができます。また、視覚的および量的にプロジェクト全体で 1 つのパラメーターを解析することができます。これによって、エンジニアはより速く、より信頼度の高い決定をすることができます。Tecplot Chorus はプロットの事前計算、ダウンストリーム解析の高速化で、ポストプロセッシングをパラダイム転換します。現在、CFD エンジニアは時間のかかるスクリプト記述と手作業の組み合わせで作業をしています。

Basore 氏は Tecplot Chorus を他の領域の作業でも使用しています。例えば、忠実度レベルごとに多次元クリギングモデルを作成するために、設計メトリックごとに最小4つの独立変数をもつ巨大なデータセットを持っていました。

「Chorus では、これらの独立パラメーターをすばやく切り替えて、異なる次元のサブセットに再インポートすることなく、データ内の傾向を確認することができました」と彼は話しています。

Basore 氏はまた、設計空間の代用モデルを使って、複数忠実度レベル間のエラーベクトルを作成しました。1つのデータベースで可視化するのに必要な高忠実度および低忠実度の両方で、巨大なデータセットを作成しました。

「これだけでなく、Chorus のおかげで n 次元機能を必要とするまで内蔵の代用モデルで初期近似を行えました。」と彼は付け加えます。「これらの初期代用近似に加えて、複数パラメーターのサブセットの切り替え機能のおかげで、非常に迅速にデータの傾向を確認することができました。これらの機能の組み合わせで、データのポストプロセッシングにかかる膨大な時間を節約することができました。」

 

  1. エアブリージングエンジンは、空気中から酸素を取り込んで燃料を燃焼します。[戻る]
  2. Prof Andy J Keane, Dr Alexander I Forrester, Dr Andras Sobester, Engineering Design via Surrogate Modelling: A Practical Guide (The American Institute of Aeronautics and Astronautics, 2008). [戻る]

 

 

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