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CFD/PIV を使ったより安全な生体心臓弁の設計

カリフォルニア大学の研究者が渦の異常部分を特定するために CFD 可視化ソフト Tecplot 360 を利用しています。

速度毎に色付けされた左室流入噴射の流線。画像著作権:Kheradvar A氏、Falahatpisheh.A氏、左室流入血流パターンにおけるダイナミックサドル型リングの効果と弁尖の長さおよび二葉生体僧帽弁の弁尖負荷、Journal of Heart Valve Disease

1960年、Albert Starr 博士が著名な技術者である M. Lwell Edwards 氏と共同で発明した機械部品で世界初の人工心臓弁の移植に成功しました。それから 50年以上、Starr 博士、Edwards 氏など先駆者の研究に基づいた科学技術の進歩により、何百万もの患者の命が救われたり、良くなったりしています。今日、世界中で毎年 25万人以上の人々が人工心臓弁を受け入れており、その数は増え続けています。(1)

けれども、さらに研究されなければいけないことがあります。心臓弁の交換を受けた患者はより良い生活の質を体感しています。しかしながら、部品の故障、感染による弁の損傷、質の悪い弁の設計、部品の劣化や宿主組織の肥大により合併症が起こりえます。

カリフォルニア大学アーバイン校の Kheradvar 博士の研究所 (KLAB) の博士候補である Ahmad Falahatpisheh 氏は、生体心臓弁 (BHV) と患者の生活の質を改善するための先進的研究の最前線にいます。可視化画像流速計測 (DPIV) のデータを閲覧、解析するための CFD 可視化ソフト Tecplot 360 の助けにより、Falahatpisheh 氏は、自然僧帽弁の模倣体として設計されたダイナミックなサドル型リングを使った最初の生体二葉僧帽弁の開発を支援しています。この弁を通じて開発された、例えば渦等の血流特性は本来の弁のカウンターパートと非常に似ています。加えて、堅いというよりむしろ動的なリングは弁尖の先端にかかる負担を大幅に軽減しています。先端にかかる過度の負担は弁尖の損耗を引き起こします。負担の軽減は主に Nitinol 製のダイナミックリングによるものであり、それは拍動サイクル内の心臓ベースの動きに自らを適応させます。(2) この興味深い研究成果は心臓弁の疾患に関する刊行物に登場します。

 

より安全で、より効果の高い人工心臓弁

現在、2種類の人工の弁があります:1つは Starr-Edwards デバイスのような「機械弁 (MHV)」と、もう1つは組織物質からできている「生体弁」であり、それは生体心臓弁 (BHV) としても知られています。両者にはそれぞれメリットとデメリットがあります。BHV は血栓のリスクを低減させる優れた血行動態を持っています。しかしながら、BHV は年配の患者の場合では 10-15 年以内に、若年の患者の場合もっと早く摩耗し、交換を必要とします。機械弁は優れた耐久性を持っており、生涯に渡って使用できますが、生命に危険を与えるほど重大な血栓を引き起こしかねません。そのため患者は残りの人生の間、抗凝血剤の服用を必要とします。(3)

レーザー照射中の人工心臓血流シミュレーター。画像著作権:カリフォルニア大学アーバイン校 Ahmad Falahatpisheh 氏

現在の研究においては BHV が注目されています。なぜならば MHV と比較した際、副作用が少なく、自然な血流に近づけることができるからです。もし研究者が BHV の耐用年数を延ばせるのであれば、多くのケースにおいて患者にとってより良い代替のオプションになるでしょう。

可能性としては過度な負荷の結果として、心臓弁は先端の周りが石灰化する傾向があります。もし弁が交換されなかった場合、石灰化は摩耗、ちぎれ、そして最終的には弁の故障を引き起こします。負荷とそれに続く石灰化を減らすことによって、研究者は弁の寿命を改善できるのです。

具体的には、Falahatpisheh 氏は、高速 DPIV を使い弁内外の血流を研究するために、人工心臓血流シミュレーターに組み込まれた BHV の評価をしていました。Tecplot 360 を使って、彼は弁を通る血流と潜在的な異常の特定に関連する DPIV データを取り込むことができています。異常の除去は BHV、もっと具体的には KLAB のダイナミックな二葉僧帽生体弁の設計と開発への方法を明確にします。

 

人工心臓弁の開発のための高速 PIV の活用

患者に埋め込まれている他の医療機器のように、その開発における極めて重要なステップはその機器が厳格な基準をきちんと満たしていることを確実にすることです。

これらの基準を向上するためには、科学者は人工心臓弁の構造と同様に、生成される血流特性にも注意を払わなくてはなりません。「人工心臓弁を通る血流特性は非常に重要です。それは形の設計だけではありません。弁を疲労試験によって評価し、長い期間使えるかどうか測定することができることを知っていますが、もし正確な血流特性を入手できなければ、それは心臓の能率に影響するでしょう」と Falahatpisheh 氏は述べています。「人工の心臓弁は血流を邪魔してはなりません、停滞する領域を作ってはなりません」とも述べています。

Falahatpisheh 氏は弁を通る血流を評価するために、DPIV と数値流体力学 (CFD) を採用しています。これらの技術を使って、彼はどのようにして人工の弁を本来の弁に近づけることができるかを見極め、それらが標準的なガイドラインに適合していることを確実にしています。

「KLAB での高速 DPIV (1000fps) の使用は独自であり我々の知識になっています。時間分解能/空間分解能において、誰一人心臓弁に関してこういったことは行っていません。」と Falahatpisheh 氏は述べています。「安静時の人間の心拍数は毎分 70回という事を思い出して下さい。従って 1回のサイクルは約 860 ミリ秒毎に起こります。」

心臓弁に関する DPIV の調査は、医師とアメリカ食品医薬品局 (FDA) に対して、患者に埋め込まれた心臓弁が安全かつ正常に動作することを確信させています。彼の DPIV 研究を伝えるために、Falahtappisheh 氏はデータを収集したい面の上で、蛍光の微粒子に光を当てています。そこから、血流範囲を可視化するために毎秒 1,000枚の画像をとっています。

「このシステムの美しさは、毎秒 1,000 フレームの高速 DPIV です。」と Falahatpisheh 氏は述べています。「これまでは、毎秒 15フレームの画像しかとることができませんでした。我々の現在のシステムの時間分解は 1000分の 1秒というごくごく小さなものであり、それは我々に非常に正確な結果をもたらしてくれています。」

 

人工心臓弁開発における CFD 手法と可視化の役割

KLABのレーザーシートによって光を当てられた蛍光微粒子。画像著作権:Paul R. Kennedy 氏

人工心臓弁を研究するために多くの科学者は、心臓弁設計の手助けとなり得る血流内の発見を提供してくれる CFD を使用しています。適切な境界条件実装の挑戦は、物理的な、かつ現実的な方法から逸脱させるかもしれません。しかしながら、DPIV の使用と KLAB の人工心臓血流シミュレーターによって、心臓内の血流によく似た脈動流を実験的に作り出すことができ、CFD を使った境界条件の実装の難しさを取り除いています。

Falahatpiheh 氏は時間の流れに伴う血流特性を把握、可視化するために DPIV データを Tecplot 360 に取り込んでおり、それは血流内の異常な部分を特定するために不可欠なものです。彼は渦のパターンを調べており、正常に機能する心臓弁と異常な心臓弁とを識別することの助けになる弁の機能障害を特定しています。この段階における分析は非常に重要です:弁を通る血流内に適切な渦のパターンを持つことは不可欠です。さもなければ、血流パターンは心腔から大動脈に勢いとエネルギーを適切に移動させるようには最適化されません。

Tecplot 360 の結果から、Falahatpisheh 氏は適切な血流パターンを確実にするためにどのように、どこを変更するかを決めています。もし、この部分が正確でないと、実験後に得られる結果研究と調査もまた正確ではないものになってしまいます。

 

長持ちする人工弁の開発を技術が可能にする

技術の進歩は、患者の生活の質に多大な影響を及ぼす医療産業の能力を促進させます。

渦の異常部分を特定するための Falahatpisheh 氏の研究と Tecplot 360 の利用は、これらの進歩にさらに変革をもたらすでしょう。とりわけダイナミックな二葉僧帽生体弁の設計により、うまくいけば患者の寿命を延ばすでしょう。彼の研究の最終目標は医師がより多くの患者の命を救い、生活の質を改善することを助ける、安全でより良い生体心臓弁の開発と製造を支援することです。

カリフォルニア大学アーバイン校 機械工学および航空宇宙工学部門 博士候補 Ahmad Falahatpisheh 氏。心臓力学、心臓部品と心撮像を研究しています。最近の研究プロジェクトでは有限要素解析 (FEA) と可視化画像流速計測 (DPIV) を使った生体二葉僧帽弁の機械的挙動とその最適化の検証に注目しています。
1) Medscape Today: http://www.medscape.com/viewarticle/552854_2 [back]
2) Kheradvar A 氏、Falahatpisheh. A 氏、左室流入血流パターンにおけるダイナミックサドル型リングの効果と弁尖の長さおよび二葉生体僧帽弁の弁尖負荷、Journal of Heart Valve Disease (承諾済) [back]
3) The Society of Thoracic Surgeons: http://www.sts.org/patient-information/valve-repair/replacement-surgery/mitral-valve-replacement#4 [back]

 

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