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Toyota Motorsport 社; 洗練されたビルトイン PIV システムを備えた風洞実験施設でより速いハイパフォーマンス車の設計を実現

Tecplot は最先端テクノロジーにキーコンポーネントとして CFD 可視化機能を提供しています

February 2011

世界最高峰の自動車レースの世界では、普通の生活の中では気にも留めない一瞬の時間で勝敗が分かれます。Formula One (F1) のレースを観戦していると、大きなマシントラブルやドライバーのミスがなければ、上位3台までがコンマ数秒の差でフィニッシュしている場合がほとんどです。スピードマシンがトラブルなく、可能な限り最高のパフォーマンスを出すためには、空気の流れの改善やダウンフォースの増加、抵抗の軽減などを実現する方法を常に追求する経験豊富なエンジニアリング・チームによる厳密な検査と熱心なメンテナンスが欠かせません。

ドイツ・ケルンの Toyota Motorsport 社では、エンジニアたちが最新のビルトイン PIV システムを備えた風洞を使って、より速い高性能レースカーを開発している。

 

ドイツ・ケルンの Toyota Motorsport 社で CFD / PIV の研究をしている Frank Michaux 氏のようなモータースポーツ・エンジニアは、様々な高度な解析技術を使って、NASCAR / Sports Car / F1 などのレースから公道走行用のモデルラインまで、あらゆる種類の車両から最高の性能を引き出します。Michaux 氏のチームは、ビルトイン粒子画像速度測定法 (particle image velocimetry; PIV) システムを備えた 2 基の最新式風洞を管理・運営しています。

2009 年の F1 シーズンには、フロントホイール裏側の伴流の研究が行われていました。車両全体の性能にも影響を与える可能性がある重要な流れです。

この最新技術のシステムを実際に使用する際には、システムから得られる複雑なデータを素早く正確に処理し、表示することが求められます。Toyota Motorsport 社では、PIV の実験結果と数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics; CFD) を比較することにより好成績をあげていますが、正確な測定と画像表示に Tecplot を採用しています。

2009 年の F1 シーズンには、フロントホイール裏側の伴流の研究が行われていました。車両全体の性能にも影響を与える可能性がある重要な流れです。
粒子画像速度測定法 (PIV) の実験中、Toyota Motorsport のエンジニア達は流れ場の面に対して 90 度の角度でカメラを設置します。風洞は霧で満たされており、可視化したい部分に高出力レーザーが照射され、2D 面が形成されます。

 

風洞の内部

Toyota Motorsport 社は自動車の設計・開発分野における世界的な研究拠点としても知られています。サービスを重視する同社では、トヨタ関連企業の社員だけでなく、外部のエンジニアや研究者にも風洞を開放しています。2 基の風洞は両方とも 10 年以内に建てられた最新の施設です。ひとつは実物大の実験が可能で、回転する床の上に載せた車両のシミュレーション速度は 70 m / 秒まで可能です。もうひとつの風洞は、おおよそ 60% スケールのモデル実験用です。両方が備えている常設の PIV システムは、設計エンジニアにとっては大変貴重で価値のある研究ツールです。

PIV とは、流れを可視化する光学的な手法で、20 年ほど前から流れの瞬間速度やそれに関連する特性を調べるために用いられてきました。しかし、エンジニア達が設計をする時に実用的なツールとして PIV を使えるようになったのは、コンピューターとデジタルカメラの機能が向上し、コストが下がった最近になってからです。

世界中の様々な有名自動車メーカーの開発チームが、Toyota 風洞チームの最新技術と経験を利用するためにケルンにやってきます。

「現在のモータースポーツ・カーのほとんどは既存の市販車がベースになっています。」と Frank Michaux 氏は語ります。「研究者たちがモータースポーツ・カーにおいて抵抗を減少させる方法を見つけることができれば、その技術は市販車の改良にも応用できると考えて良いと思います。」

最適化とは、絶え間ない小さな努力の積み重ねです。自動車レース用の最適化といってもそれは変わりません。Michaux 氏によると、エンジニアという人種は大なり小なり完ぺき主義者的な要素を持っているそうです。そのため、彼らは自分が完成させたものでも完全に満足するということがありません。しかし、それは別に悪いことではありません。なぜなら、車体のすべてのパーツやメカニカルな調整は、どんなに小さなことでも、マシン全体の気流や空力、抵抗力に影響するからです。彼らの完ぺき主義がなければ、小さな違いなどは簡単に見過ごされてしまいます。最適化は絶え間なく改良されていくものであるため、エンジニア達が収集・解析したデータを次のプロジェクトに生かしていくという一連のスピードが重要になってきます。たった数日の差が、新技術の統合の成功と失敗を分けることもあるのです。

「Toyota Motorsport では、情報伝達の早さを重視しています。流れのキャプチャが上手くいっていないことが分かったら、正しく得られるまで CFD の手法を調整する必要があります。それを早くスピーディーに行うことができればできるほどいいのです。」

 

非侵入型手法 (NON-INTRUSIVE METHODS) で空気の流れを可視化、定量化する

PIV が登場する以前のエンジニア達は、簡単な車両モデルを作成して、そのモデルの表面の流れを調べていましたが、この方法では表面の流れしか観察することができないのであまり効率的ではありませんでした。例えば、2D 面を作成したり、ホイールによって起こる重要な伴流を正確に観測・記録したりする手段がなかったのです。

当時のエンジニア達は、これらの欠点を補うために、風洞内に煙のプローブを設置して空気の流れを良く『見える』ようにするなど、その場しのぎ的なテクニックを用いていましたが、一分一秒を争う産業界に身を置く彼らの本当の要求に応えられるものではありませんでした。必要な部分の流れを正確かつ迅速に記録する必要があったのです。

「煙を観察することによって、流れを見えるようにすることはできました。しかし、定量化することができなかったのです。例えば、流れの速さなどは、流れの見た目から憶測するしかありませんでした。」と Michaux 氏は説明しました。「結果を歪めてしまう可能性のある障害物をなくして空気の流れをどうやって可視化するか、は、この業界の昔からの課題なんです。PIV 法を用いれば、気流に数値を付けることもできます。」

PIV によって、エンジニア達が計測しようとしている空気の流れに影響を与えることなく、風洞内の流れ場をほぼ正確に可視化することが可能になりました。Toyota の PIV システムでは、空気と本質的に同じ濃度の霧またはミストでトンネル内が満たされています。トンネル内を空気が流れると、霧を構成する小さな粒子は簡単に浮かぶため、この PIV 法は現在の技術では最も非侵入性の高い方法になっています。

PIV 実験を行う時には、調べたい流れ場の面に対して 90 度の位置にカメラが設置されます。トンネル内を霧で満たし、照明を消した後、可視化したい部分に高出力レーザーの光を当て、2D 面を作成します。同時に、極めて短い間隔 (通常は 10 ~ 20 マイクロ秒) の連続写真を 2 セット撮影します。このような、いわゆる超スローモーション・デジタルイメージングにより、流れの速度と方向は簡単に測定することができます。

車のフロントホイール周辺の流れ場を粒子画像速度 (PIV) 測定するためにレーザーを照射している様子。(Toyota Motorsport 社)

 

PIV と TECPLOT を統合して完全な可視化と理解を獲得する

2009 年の F1 シーズン中、Toyota Motorsport のエンジニアチームは車体のフロントホイール裏側の伴流の研究をしていました。これは重要な流れのひとつで、ここの調整が完璧でないと、車両全体のパフォーマンスが大きく損なわれる可能性があります。この問題を見ていくうちに、オプションの追加やいくつかのフロント部分のパーツの改良を検討する必要があることが明らかになってきました。例えば、ノーズ下に回転翼を取り付ける、アウトウォッシュを発生またはコントロールするためにフロントウィングを改良する、などです。最終的な目標は、車体ノーズ下から流れを押し出し、車体による伴流をできる限り外側へ流してしまうことです。

フロントタイヤの『分岐点』の PIV 測定から収集された未加工のデータを、Tecplot ソフトウェアを使ってポストプロセス処理することにより、分岐の正確な位置が可視化され、測定されました。Toyota の PIV 測定結果は 300 のデータセットで構成され、10 – 20 マイクロ秒間隔で撮影された画像も 2 セット含まれます。PIV 実験の結果は最終的に一枚の完全な 2D ベクトル場となります。エンジニア達はこれを用いて、300 データセットすべての平均を基にした速度や渦度のベクトルプロットを作成しました。そして、これに対応する CFD の計算結果も Tecplot にインポートされ、PIV と CFD のデータセットが比較されます。これにより、彼らが用いた CFD の方法が適切であったかどうかを判断できるようになり、必要であれば、風洞実験結果により近い結果が得られるように、いつでも CFD プロセスを微調整できます。

フロントタイヤの分岐点に関する研究では、初期のテストから、分岐点が出現するのが遅く、タイヤの後方に行き過ぎていることが分かりました。エンジニア達はこの観測結果に基づいた CFD 手法を修正し、得られた新しい結果を Tecplot にインポートして PIV の結果と比較、改善点を評価しました。タイヤの分岐点が最適な位置になる設計が完成するまで、このプロセスが繰り返されました。この CFD / PIV 解析手法が、驚くほど短期間で、可能な限り正確な実世界のシミュレーションをすることを可能にしているのです。

Toyota Motorsport のエンジニア達は PIV の結果と CFD のシミュレーションを比較することにより、風洞実験結果と CFD 手法の相関を確認する。

 

「我々が自動車実験のために Tecplot を選んだのは当然の帰着です。」という Michaux 氏。「自動車業界の研究者や技術者はほとんど皆 Tecplot を使っているので、情報を共有するのが簡単だからです。また、他の開発元の PIV ソフトウェアを使う必要がある場合でも、そのアウトプットを Tecplot で読み込むことができます。ポストプロセス処理を完全に変更することなく、簡単に交互に切り替えられます。」

Toyota Motorsport 社は Tecplot ソフトウェアを活用しながら、多くの様々な自動車関連クライアントに対して、もっとも重要なスピードと正確さと共に、クライアントがライバルから頭ひとつ抜き出るために必要としているデータの収集や解釈、そして可視化を提供しています。

「我々は、広い範囲の CFD および PIV に関する要求に対応することが可能です。また、結果の収集と可視化をサポートする知識豊富なエンジニアチームも用意しています。」と Michaux 氏は語ります。「このような高いレベルの自動車に関する科学知識とサービスを我々が持ち得たのは、Tecplot のお陰と言っても過言ではありません。」

PIV 結果とCFD 結果の比較後、CFD の手法が最適化され、その後の CFD シミュレーションに利用される。