新規購入お見積

Tecplot 360 を使って代替燃料用の内燃機関を設計する

September 16, 2010

サンディア国立研究所 (Sandia National Laboratories) の研究者達は、複雑なコンピュータモデル、数ペタバイトのデータ、そして Tecplot 360 を使って、代替燃料の燃焼プロセスを研究しています。

大渦 (large eddy) シミュレーションの拡大図(全体図はこのページの下部にあります)

アメリカ国内における石油使用量の 2/3、温室効果ガス排出の 1/4 は、自動車およびトラック輸送によって生じています。したがって、燃料とエンジン双方の相互依存的な技術向上は、石油消費および温室効果ガスを一気に削減するための戦略上のカギになります。現在、我々のグローバルな経済活動を石油に代わって効率的かつ効果的に支えることができる代替燃料源の研究開発は、かつてないほど重要なものとなっています。しかし、問題は、代替燃料を構成する分子と同じくらい複雑だということです。

第一に、世界の人口、工業化、および燃料の需要が急増している時に、供給の先細りという心配があります。石油は枯渇するのか、枯渇するとしたらいつなのか、という議論は、もう何年も盛んに行われています。ただし、良質で抽出が容易な軽質原油の埋蔵量が減少しているということは、かなりはっきりしています。これから数年の内に多くの油田で、到達するのが難しい場所にある石油を掘削したり、古い油田からわずかな石油を絞りだしたり、石炭やシェールのような材料から抽出してくる方法を開発する必要が出てくると考えられます。さらに、大気汚染の増加や石油流出による環境破壊、他国の石油への依存度の高さなどへの世界的な懸念が重なり、実用可能な内燃機関の代替燃料の開発は大変切実なものとなっています。

サンディア国立研究所カリフォルニア州リバーモア燃焼研究施設 (the Livermore, Calif. Combustion Research Facility of Sandia National Laboratories) の科学者である Jacqueline Chen と Joseph Oefelein は、米エネルギー省のこの大きな挑戦に協力しています。二人とも計算燃焼科学分野のリーダーで、エネルギー省の科学局 (Department of Energy’s Office of Sciense) が運営する高性能コンピュータを活用した高再現性シミュレーションアプローチを開発しました。この二人の科学者たちは、世界最速クラスのスーパーコンピューターの内のいくつかを使って、様々な燃料の燃焼プロセスを研究しています。これらの燃料がそれぞれどのような働きをするのかを、より徹底的に理解することによって、エンジニア達が代替燃料を燃焼する内燃機関を設計する時に、より大きなパフォーマンスを持ち、排気を最小化したモデルを作成することが可能になります。Oefelein と Chen は、自分達の計算的に集約されたデータを簡単に解釈するために、基本的なエンジニアリング・プロット作成と最新のデータ可視化機能をあわせ持った数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics; CFD) の可視化と解析ソフトウェアである Tecplot 360 を使っています。

 

代替燃料でエンジンはどのように動くのかを理解する

化石燃料は 1850 年代半ばから広く使われており、業界の専門家たちは、ガソリンやディーゼルなどの石油ベースの燃料で内燃機関がどのように機能するかを正確に理解しています。しかし、異なる燃料では温度や圧力に対する反応もかなり違うため、ガソリンやディーゼルなどの知識は転用することはできないであろう考えられます。また、新しい燃料での情報を早く得るためには、いくつかの極めて複雑な計算モデルが必要になります。

「あるタイプの燃料から他のものに移行すると、燃料の分子構造が大きく変わります。」と Oefelein は言います。「これらの異なる微妙な差異を理解するためには、本当に信頼性の高い計算とモデルが必要です。」

Oefelein と Chen は、バイオ燃料のようなカーボンニュートラルな燃料、および、エタノールやジメチルエーテルなどのアルコールを用いた内燃機関内で起こる複雑な熱化学的相互作用を理解するために、高再現性シミュレーションを実行しています。彼らの研究の重要なゴールのひとつは、次世代の内燃機関で代替燃料が利用される方法をできる限り広げることです。

「今求められているのは、クリーンな燃焼で効率の高いシステムです。」と Oefelein は言います。「そして、そのシステムは安定していなければなりません。つまり、エンジンにダメージを与える可能性のあるプロセスの遷移タイプや燃焼不安定性のないシステムです。」

クリーンで燃費の良いエンジンを設計するための予測モデルを開発するため、Oefelein と Chen は 2つの計算技術を使用しています。ひとつは、"大渦シミュレーション (large eddy simulation)" と呼ばれるもので、乱流を支配する偏微分方程式を解くために使われる数値手法です。このアプローチでは、燃焼器の形状に依存する渦運動を含むエネルギーは数値的に計算し、散逸的な小さなスケールの乱流と燃焼スケールではクロージャモデルを用います。もうひとつは、"直接数値シミュレーション (direct numerical simulation)" という方法で、乱流の空間時間的スケールの全領域を計算するため、炎はスケールの制限されたダイナミックレンジに限られます。このアプローチは、乱流混合スケールと反応炎および発火スケールが相互作用する、マイクロスケールの乱流化学相互作用を研究する時に良く利用されます。つまり、これら 2つのアプローチは補完的な関係であり、大渦シミュレーションは大きなスケールのエントレインメントや混合プロセスの特性を示し、直接数値シミュレーションはマイクロスケールの混合や反応に関するサブグリッドレベルの情報を提供するのです。

これらの数値技術は両方とも途方もないほどの計算が必要で、多くのケースで数ペタバイトのデータが作成されます。これがどれほどの大きさのデータかというと、1 ペタバイトは 1,000 テラバイトですから、なんと、米国議会図書館のアーカイブのデータの 6 倍以上です。

水素燃料の内燃機関で使用するための自動車の高圧燃料噴射器デザインの大渦 (large eddy) シミュレーション

「10 年前、この研究は、計算処理速度という点からテラスケールレベルでした。そして、現在はペタスケールです。」と Chen は言います。「数年以内にはエクサ (exa) スケールが実現するだろうと思います。コンピュータサイズが大きくなるにつれて、どんどん大きなスケールのダイナミックレンジをシミュレーションすることができるようになるのです。」慣性力の粘性力に対する比であるレイノルズ数を考慮した乱流の圧倒的なスケーリングのために、計算処理パワーが 1,000 倍増加しても、研究者達は直接シミュレーションする時の乱流スケールのダイナミックレンジを 10 倍だけしか増加できません。そのため当面は、どのような方法を用いても、実際の燃焼器についてのスケール全体を解くことはできないだろうと考えられます。むしろ、異なる方法が異なるスケール範囲に適しており、異なるスケール範囲のギャップを埋めるのに適したモデルもあるため、マルチスケールアプローチが必要です。

 

Tecplot 360 で膨大なデータを正確に解釈する

Oefelein と Chen は、彼らの研究に必要な膨大な量のデータの解釈と可視化を Tecplot 360 で行っています。彼らは計算を外部のスーパーコンピューターで実行することが良くあります。ダッシュボードを使って、Tecplot で作成した等高線プロットや 2D / 3D プロットなどの画像、および、アニメーションを研究所に送り返します。この画像やアニメーションにより、彼らはカギとなる統計値に素早く注目し、重要な傾向を見つけることができるのです。「ユーザーインターフェイスとドロップダウンメニューがすごく直感的ですね。」と Chen は言います。

Tecplot 360 の特に良い点は、Oefelein と Chen がボリュームのあるデータの正確な解析と可視化をを可能にする所です。「数字や統計値を苦労して解読するよりも、視覚的なイメージを観察する方がよっぽど簡単です。」と Chen は言います。「等高線プロットやボリュームレンダリングを見ることにより、何が起こっているのかを広い視野から見たり、ズームインしたりすることができ、より精度の高いレベルの統計値を集めることができます。」

データを視覚的に見ることは、診断にも役に立ちます。「もし、コードや数値パラメータをセットアップする方法に問題があるとしたら、何行もの数字をプリントアウトするよりも、視覚的にこれらの例外を見つける方がずっと早いです。」

最後に、Tecplot 360 は、Oefelein と Chen が研究結果を他の人に分かりやすく発表するのにも役立ちます。「可視化ソフトウェアは、研究とその結果のプレゼンテーションの両方共に役立ってくれます。」Oefelein は言います。「おかげで、研究が完了し、論文の発表の準備ができた時にも、我々が何を見たのか、分かりやすく簡潔に説明し、要約することができます。」

 

エネルギー源の多様化

代替燃料で動かすために内燃機関を最適化していくことは、未来の地球の健康と安定に大きな影響を与える可能性すらある、重要な挑戦です。Oefelein と Chen は、Tecplot 360 を使用して計算が集約されたデータをより分けて調べることにより、人類の化石燃料依存の軽減を可能にするための最終的な予測モデルの開発に必要となる、基本原理の理解の発展というゴールに着実に近づいています。

「我々がこの研究を根気よく徹底的に続ければ、とんでもないインパクトを持つことができるでしょう。」と Oefelein は語ります。「この問題は確かに未だ解決されていませんが、重要な課題です。力を入れるだけの価値は十分にあります。」