新規購入お見積

超音速飛行の爆音除去研究における CFD 解析と可視化

August 2010

爆音を除去できれば、アメリカにおける超音速飛行の FAA 規制が解除され、超音速出張という有望なマーケットが新しく生まれるかもしれない

Webinar: Simulating off-body pressures to mitigate sonic booms
Tecplot の開発元が 2010 年 6 月 17 日に行った Webinar(オンラインセミナー)です。このセミナーでは、オフボディ圧力のシミュレーションの研究で使われている新しい CFD 手法のいくつかと、それらを他の工学分野に適用する方法について説明しています。

ニューヨークでの役員会の朝食ミーティングから一日が始まり、午後はシアトルで個人的に市と州の取締官に会い、夜はロサンゼルスで重要な顧客とビジネスディナーをして一日が終わる― 1970 年代、多くの企業のリーダーはこんな一日が来ることを思い描いていました。航空工学、科学技術およびデザインにおける美しく感動的な偉業、超音速旅客機コンコルド(Concorde Supersonic Transport: SST)の出現により、このようなビジョンが実現可能なものとして考えられるようになっていたのです。

しかし、結局アメリカでコンコルドが商業化される事はありませんでした。コンコルドにはひとつの弱点がありました。音速の壁を超えるスピードと性能により、超音速でアメリカ上空を通過している間に建造物や環境を破損する恐れがある震とう性のソニックブームが発生してしまうのです。

コンコルドは、1969 年に初飛行し、1976 年に商業サービスを開始しました。しかし、それまでには、連邦航空局(Federal Aviation Administration: FAA)が、民間機によるアメリカ国内の超音速飛行を禁止していました。 また、アメリカ議会および地方自治体も、コンコルドの上陸に関して様々な禁止令を制定していました。

この上陸に関する禁止令は、最終的には解除されたり緩和されたりして、コンコルドの国際線は JFK 空港やワシントン・ダレス国際空港に着陸することが許可されるようになりましたが、もっとたくさんの超音速ジェット機を建造するというビジネスケースは断たれてしまいました。コンコルドは、その後 27 年間、限られたルートを航行しましたが、老朽化した高価な機体は 2003 年に役目を終えました。正当な投資利益を得られないため、次世代 SST は計画されませんでした。

しかし現在、1970 年代には想像もできなかったような高性能のコンピュータが 10 年ほど前から手に入るようになり、この高性能コンピュータで数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics: CFD) と可視化技術を活用して超音速飛行の展望を再び取り戻そうと、NASA や航空宇宙産業の様々な民間企業が力を入れています。これらの手法により、ノイズを最小化し、地上にダメージを与えるリスクを取り除いたソニックブームを生じさせるための衝撃波の再生方法が分かってきました。

彼らの最初の目標は、FAA のアメリカ国内における超音速飛行禁止令の解除です。これが実現されれば、アメリカの端から端へたった 2 時間で到着する利便性と名声のためには喜んでお金を払う企業の上級役職者や世界的な指導者、各国首脳、資産家などをターゲットとした有望なマーケットが開拓されるかもしれません。

ソニックブーム (衝撃音波) の無害化

この目標を達成するために、先進的な航空工学のチームは、ジェット機自体の機体を再形成するために、数値流体力学 (CFD) の解析方法と可視化のソフトウェアの処理を使っています。機体の改良により、圧力波の再構築と、ソニックブームが地上からほとんど聞き取れない程度のレベルまでノイズを減少させることが期待されます。

形状の変更前(左)と変更後(右)における、翼の周囲のオフボディ圧力の変化を表したテストケースのイメージです。それぞれのイメージでは、データを 3 つの視点から表現しています。上:翼表面の圧力。中:翼の下のオフボディ圧力のグラフ。下:翼周囲のオフボディ圧力。(画像は Tecplot, Inc. が作成。テストケースデータは Optimal Solutions Software, LLC. 提供)図を拡大する

このアプローチは、MIT の航空輸送騒音および排気の削減のためのパートナーシップ (MIT’s Partnership for AIR Transportation Noise & and Emissions Reduction) のような組織に支持されています。「ソニックブームの形成に関連する最近の研究から、騒音を小さくする設計は可能であり、その結果、1960 年代から 1980 年代の騒音と比較してかなり不愉快な音を抑えられることが示唆されています。最近の研究の数例では初期超過圧力がたった 0.3 lb/ft2 の設計を調査していました。コンコルドが標準で 2 lb/ft2 N-wave signature であったことを考えると、飛躍的なノイズレベルの減少です。この技術的な進歩とその結果生じる商業および軍事用途の可能性という要因を背景として、超音速旅客機の運行とソニックブーム音は低騒音設計のために研究されているのです。」と、この組織は公言しています。

ソニックブームのメカニズム

超音速の飛行機が空気中を移動する時、ボートが水を切る時に波が立つのと同じように、機体の全面および背後に圧力波が発生します。この現象は、スピードが遅い時には問題になりませんが、飛行機のスピードが音速に達すると、圧力波はお互いを避けられないポイントまで圧縮され、マッハコーンと呼ばれるひとつの衝撃波に統合されます。

マッハコーンは飛行機と共に移動し、その痕跡は地球に達して地上を通り過ぎる間にソニックブームとして観測されます。その衝撃波を再形成することにより、地上に到達するまでにソニックブームがほとんど消滅するという結果になるのではないかと研究者達は考えています。

CFD の可視化、研究および設計

研究者達が現在成し遂げようとしているのは、たった数年前でも不可能であったことです。エンジニア達は、数十年にわたって数値流体力学 (CFD) を上手く研究に使ってきましたが、この特殊な問題に関して大きく前進するためにはシミュレーション実行の数と膨大な量のデータが必要であり、これを実現できる高性能のコンピュータとソフトウェアはやっと最近になって手に入るようになりました。研究者達に必要なのは、ボリュームとスピードだけではなく、最新のテクノロジーによって提供される精度です。

例えば風洞実験では、解決された問題と同じくらい、新たな問題が浮かび上がってきました。お金と時間がかかるうえに、風洞内で測定を行う対象物を、重さと空気力に耐える何か他のものに取りつける必要があるのです。超音速条件下では、このアタッチメント自体が波に影響を与え、結果を大きく歪曲する可能性があります。

しかし、CFD 解析手法を使うことで、仮想構造のオフボディ圧力を効率的にシミュレーションすることが可能になります。研究者達は、特定の機体形状と相互作用した圧力波がどのように振る舞うのかを観察し、さらに、機体の構造や形状が変化することによりこの振る舞いがどのように変化するのかを見ます。

それぞれのシミュレーションには、3 つの強力な科学的解析ツールを使った 3 つの基本的なステップが含まれています。

研究者はまず最初に、Cart3D のような CFD ソルバを使って流れ場の生データを計算し、揚力、抗力、圧力ドロップ、熱伝導、および、圧力波と形状の相互作用により生じた関連する変数を算出します。その後、この計算結果を Tecplot 360 のような CFD 可視化および解析ツールで、データの抽出や、さらなる計算の実行を行い、プロットや画像イメージ、アニメーションといった視覚的な形に変換していきます。

例えば、一連の研究の中で、エンジニア達がプロットや画像を分析した後、機体の形状のどこをどうやって変更することで圧力波を減少させられるかの結論を出すことができます。分析したデータは、次に Tecplot 360 から Sculptor™ (Optimal Solutions Software, LLC) のような形状変形ソフトウェアに渡されます。Sculptor を使用すると、機体の形状を変更し、対応する複雑な CFD データを正確なままで調整することができます。このプロセスを、事前に決めた「コスト関数」か、満足のいく結果が得られるまで繰り返した後、次の仮想構造を用いたテストの段階に移ります。

大量のデータ、複雑な変数、そして、高度な計算性能が必要であっても、エンジニア達は 10 分以内でひと通りの操作、または、テストを完了することができます。このような手段の高速化は、それ自体がひとつのブレイクスルーとなります。

Cart3D や Tecplot 360、Sculptor が提供するスピード、複雑な解析性能、そして正確な結果に加え、効率的なワークフローのために 3 つのツールすべてを統合する能力が、シミュレーション実行にかかる時間を節約するのには大変重要です。

来るべき世界の物語

騒音のない超音速飛行の見通しと超音速ジェット機の可能性から考えられるビジネスチャンス以上に、「再形成」されたジェット機はどんな形なのか想像する興奮が、そこにはあります。未だ断言するには時期早尚ですが、研究者達は、超音速ジェットは現在の飛行機とはまったく違う形になるだろうと予想しています。

形状は機能に従うものですが、当面の懸案事項は、ソニックブームの問題を小さくするまたは取り除くことにより、FAA に SST 飛行禁止令を解除させるように説得することであり、これにより超音速旅行をビジネスの展望の一部として復活させることです。地上の人々の耳には音楽のように聞こえるようになることでしょう。

 

Code of Federal Regulations (CFR) 91.817
NASA Funds Exploratory Studies For Quieting Sonic Boom
Project 8: Sonic Boom Mitigation