新規購入お見積

船舶用 CFD の研究に Tecplot を活用

独立行政法人 海上技術安全研究所 (東京都)
CFD 研究開発センター センター長
日野 孝則 博士
(所属は取材当時のものです)
PDF データ

研究・開発されている内容について教えてください

船舶流体力学における CFD に関する研究を行っています。船舶は一般に1隻ずつカスタムメイドであり、大きさとスピードの要求仕様に合わせて設計されます。設計段階で流体力学的性能を推定する必要がありますが、船舶は大型構造物なので実機テストは不可能です。通常は水槽において縮小模型を用いて性能を推定します。この水槽実験に要する時間とコストを削減するため、CFD による流場シミュレーションを補完的に利用することが一般的になっています。

船舶分野での流場の特徴としては、自由表面の存在、高レイノルズ数の乱流が支配的であることが挙げられます。これらの特徴を捉えるために、船舶用 CFD は高機能、高精度であることが求められています。

海上技術安全研究所では、船舶用 CFD の研究として、ナビエストークスソルバーの開発 (解法、乱流モデル、自由表面モデルなど) や格子生成法の開発を行うとともに、CFD を様々な問題に適用しています。

研究プロジェクトにおける調査の目的は?それでどのようなことが実現されますか?

設計ツールとしての CFD 開発を行い、設計プロセスの効率化を実現することが主な目的です。そのためには、CAD との連携、流場推定精度の高度化、計算効率の向上などについて研究開発が必要です。

これにより、設計段階において船舶の流力性能評価を効率的に行うことが可能となり、短時間で船型の最適設計が実現できます。

tecplot の用途と扱っているデータの種類は何ですか?

流場データの可視化です。CFD の解析結果を理解し、設計に役立つ情報を抽出するためには、流場の可視化が極めて重要です。可視化したデータのサンプルをいくつか挙げます。

まず、推進性能評価における例です。推進性能は直進する船の性能指標であり、船舶の流体力学的性能の基本となるものです。近年では地球環境問題への対応から、より一層の燃費の向上が求められています。図1は推進性能を評価するためのシミュレーション結果です。表面圧力分布や断面の速度分布により、船体とプロペラ、舵の流体力学的干渉を示しています。

図1:船体・プロペラ・舵の流力干渉 ( 表面圧力分布と断面速度)

操縦性能評価では、船舶の安全性の観点から課せられる安全基準の要件を満たすことを確認しなければなりません。操縦運動時の流れは、直進の場合に比べて、船体まわりに大規模剥離が発生しやすいことが特徴です。剥離現象を精度よく再現することが、性能評価にとって重要になります。図2に斜航状態、図3に定常旋回状態の解析結果の可視化例を示します。これらの可視化により、剥離に伴う渦の挙動を見ることができます。

図2:斜航する船体まわりの流れ(自由表面と断面速度)
図3:定常旋回する船体まわりの流れ(断面速度分布と流線)

船型設計においては複雑な形状を扱う必要もあります。船舶の形状は、主船体の他に舵やプロペラ、各種のフィンなど付加物を伴います。性能評価においては、これらの付加物のまわりの流場も重要となります。図4図5は2軸船の例で、プロペラ軸を支えるシャフトブラケットや舵によって形状が複雑になっています。この場合は格子生成が問題となり、ここでは、四角形と三角形要素の組み合わせよる非構造格子を採用しました。図4に船体表面圧力を示します。また、計算格子の可視化例が図5です。色々な付加物と主船体の間の干渉を可視化することで、最適な付加物配置を決定することができます。

図4:2軸船まわりの流場(船体表面圧力と流線)
図5:2 軸船まわりの非構造格子

設計を支援するための技術として、CFD を用いた形状最適化の研究も行っています。最適化手法と CFD の組み合わせにより、与えられた目的関数を最小化する形状を自動探索する手法は、計算機の高性能化に伴い実用段階へと達しつつあります。

図6は船型最適化の例です。ここでは、粘性抵抗を最小にする船型を求めています。原船型は実用的なタンカー船型で、排水量が変わらないことなどを制約条件にして、船体後半部の形状を自動変更し、抵抗を 6% 低減する船型が得られました。

図6:船型最適化(原船型と最適船型の圧力分布)

tecplot を使い始めたきっかけは?

CFD に特化した可視化ツールで、価格もかつては reasonable だったので使い始めました。

tecplot の使用感、良い点と悪い点は?

インターフェイスが使いやすいです。特に等値面の表示やスライス機能などは重宝しています。難点は非構造格子データの場合は、データ抽出などに手間がかかるということです。できれば前処理なしで、Tecplot 内で構造格子と同様なデータ処理ができればいいと思います。

CFD と可視化についてまとめると

CFD を船型設計ツールとして確立していくためには、結果の可視化は非常に重要で、流体現象の把握、設計者への情報提供のために不可欠の要素です。

可視化ツールの使いやすさが向上していくことで、CFD が有効に利用される場面が増えてくると思います。

(本事例作成に関し、日野博士のご協力に感謝いたします)

(インタビュー:2010 年6月)