新規購入お見積

燃料の揺れを制御する

宇宙船タンク内の燃料揺れの研究で Tecplot 360 がエンブリー・リドル航空大学の研究者を支援。

  • 寄稿 Brandon Marsell (2009/4)
  • エンブリー・リドル航空大学 (ERAU) | http://www.erau.edu/

ロケットは、打ち上げられた次の瞬間から地球大気圏からの脱出をはじめます。ロケットで使用される部品のほとんどは所定の位置にしっかり固定されるため、それらの動きを予測したり制御することは可能ですが、燃料の場合は違います。燃料の動きを抑えるのは容易ではありません。燃料の場合、消費とともに空きスペースが生じ、これによって、振動やスロッシング(揺動)が起こり、反作用力が生まれます。仮に反作用力の振動数がロケットの他の部分の振動数と同じになれば、2つの振動数が合わさって大惨事を引き起こすこともあります。

このアニメーションは、Tecplot 360 で作成されたものです。球状タンク内の流体特性が時間に応じて変化する様子を表しています。上図はスロッシング(揺動)に伴う自由表面の変化を、左下の図は燃料と気体の比率を、右下の図は速度ベクトル場を表します。ERAU の研究者が作成したこの装置の構成は記事の後半をご覧ください。

1950年代と 60年代、宇宙計画がまだ黎明期だったころ、燃料揺れの問題が原因で記憶に残る悲劇的なロケット破損事故が多発しました。科学者や技術者は、この問題を解決すべく、以来、燃料の動きをうまく制御可能にするためのバッフル(仕切り板)、隔壁、ブラダー(浮き袋)といった複合システムを備えた新型燃料タンクの開発に取り組んでいます。しかし、こうした最新の封じ込めシステムであっても燃料揺れの問題が完全に解消されることはありません。今日の典型的な宇宙ミッションで要求される安全基準の許容範囲内に揺れを抑えているのが現状です。長期にわたる宇宙探査にも対応できるような全く新しいソリューションが求められており、現在、多くの研究者がこの問題に取り組んでいます。フロリダ州デイトナビーチにあるエンブリー・リドル航空大学 (ERAU) の Sathya Gangadharan 教授と大学院生の Brandon Marsell 氏もこうした問題に取り組む研究者です。

「例えば人工衛星を地球の軌道に打ち上げるとしましょう。最初の10分間で燃料をすべて燃やし尽くしてしまえば、それ以降は、燃料揺れの問題が生じることはありません。しかし、そこから先の長いフライトで重要な問題が見つからないとも限りません。もし火星から帰還しなければならないとすれば、ある程度の燃料を確保しておく必要があります。そこには一段と厳しい精度も要求されます。」と Marsell 氏は語ります。「燃料や気体が異なる気圧や重力の下でどのような振る舞いをするかを理解する必要があります。また、水や液体酸素など生命の維持に必要とされる相当量の液体タンクも宇宙に送り出さなければなりません。」

ERAU の最先端燃料スロッシング研究施設では、より安全な燃料タンクの開発をめざして、こうした幾つもの課題を考慮した物理的試験が現在も進められています。ERAU 研究室は、興味深い様々な成果に加え、機械的な振り子モデルをタンク内の燃料に見立ててパラメータ化し、その挙動を予測するという非常に信頼性の高い評価プロセスを生み出しています。シミュレーションを使った解析ならこれよりも良い結果を期待できるでしょうが、燃料タンクの正確で有益な CFD モデルの開発には膨大な量のデータを使います。これらを扱えるほど充分なパワーがコンピュータにはありません。

しかし、こうした状況も、Gangadharan 氏と Marsell 氏の苦労のおかげでやがて変わることになります。二人はケネディ宇宙センターの NASA Launch Services Program から助成を受けて、実験室で必要な試験の回数を減らすための CFD 手法を現在開発中です。

NASA の Launch Services は、あらゆる打ち上げ準備ロケットの責任を担う組織です。仮に誰かが人工衛星の打ち上げを希望するとすれば、それに必要な事項を Launch Services が決定します。決定に際しては、打ち上げに使用するすべてのロケットの精密な数学モデルと、そこで説明されたモデルの各部品毎にそれぞれのパラメータが必要となります。燃料もこのパラメータに含まれます。「現在、彼らは燃料タンクを一つ一つ手にとり、それを水で満たし、揺さぶり、数値を計測しています。」と Marsell は語ります。「タンク毎に異なる数字が必要です。費用と時間の掛かる実に厄介な作業です。我々の目標は、こうした数値をコンピュータで測定する方法を考え出すことです。実現すれば、もっと早く、簡単に、コストを掛けずに作業できます。」

Marsell 氏とそのグループは、現在、球状タンク内にある液体の自由表面スロッシング現象を説明する CFD モデルの開発に取り組んでいます。彼らはまずはじめに ERAU の燃料スロッシング研究所で実験にもとづくデータを生成し、そこで得られたデータを元に CFD モデルを作成します。モデルができあがると、更なる実験で精度を試され、改良が加えられてゆきます。

ある実験では、球状の燃料タンク(spherical fuel tank)がフレームからケーブルで吊され、線形アクチュエーター(linear actuator)に取り付けられます。線形アクチュエーターと燃料タンクの境界には力変換器(force transducer)が設置され、燃料のスロッシングで生じた力が計測されます。得られたデータはコンピュータに転送され、解析に利用されます(図1)。データ管理ソフトには Fluent 3D ソルバを、可視化ソフトには Tecplot 360 を利用します。その後、このグループによって幾つかの試験シナリオがコンピュータで実行されました。この事例において彼らは、物理試験で得られた結果とコンピュータで得られた結果を比較し、システムの減衰率と固有振動数の予測に CFD 法による結果に間違いがなく、ひいては流体のスロッシング現象について有益な情報をもたらすことを確認しました。

図1:最新の線形アクチュエータとデータ取り込みシステムを装備した EREAU 燃料スロッシング研究所の装置。フレームから直径8インチの球状燃料タンクがケーブルで吊され、線形アクチュエータに取り付けられています。こうした装置を使用して実験データが作成されました。

「我々は、こうした実験を通じて、様々な燃料タンクの信頼できるパラメータを作成し NASA に提供しています。」と Marsell 氏は語ります。「これによって、最終的に彼らは研究室ではなくコンピュータ上で実験を行うことができるようになります。莫大な費用がこれで節約されます。」

更に、安全上の問題で実験室では実行できないような試験もこれで実行できる可能性もあると Marsell は付け加えました。興味深いことです。

「ヒドラジンのような高圧ガスは有毒で爆発性がありますので、我々はその代わりに水を使って物理実験を行い、後から物理的特性の違いを調整しています。」と語ります。「しかし、コンピュータ・シミュレーションでは、タンクにヒドラジンを直接投入し、好きなように揺さぶることができます。仮に爆発するようなことがあっても、コンピュータを再起動すれば済みます。」

コンピュータ・モデリングを使えば、例えば、液体が火星の大気や異なる重力環境でどのような振る舞いをするかといったような、地球上ではとうてい検証できないような試験でも試すことが可能になります。

「ここに紹介した CFD モデルはまだ初期段階です。実行するためのコンピュータの力がようやく整ったところです。これから先がとても楽しみです」と彼は付け加えました。

実験プロセスの最終段階のひとつは、実験結果の可視化です。ここで Tecplot 360 が登場します。Marsell 氏は、Tecplot 360 を使って1年経ちますが、その使い易さを高く評価しています。

図2:スロッシング振動発生時の周波数。燃料タンクシステム内で発生する周波結合や誘導共鳴の防止を調べるのに役立つ情報です。上図の XY プロットは、Tecplot 360 で作成されたものです。実験で得られた CFD 結果がどのように可視化されるかを一例として示しています。解析内容に応じて様々な可視化方法を選択できます。

「入力データを複数のソースから取り込み、多種多様なプロットで様々な事物を表現し、一度に大量の情報を非常にわかりやすく表示します。」と Marsell 氏は語ります。「私は、流れ場の可視化に Tecplot 360 を使用しています。画像を好きな場所に簡単に移動したり、様々な事柄を見たり、あるアイテムだけを取り出して見たり、スライスしたり、速度がどのように変化するかを見たりするのに使っています。しかし、スロッシング現象を見るには、アニメーション機能が一番です。実際のスロッシングの様子をムービーで見ることができるからです。ムービーを見ながら「ほら、あそこの小さな角をみてください。燃料が溜まっています。」などと言うこともあるでしょう。領域全体をこうして見渡せることは実際とても重要なことなのです。

Marsell 氏は、CFD 法を使って燃料スロッシングを研究する価値のある応用分野は他にもまだまだあると語ります。大量の液体を搭載するような製造品のメーカーなら誰もがこの恩恵にあずかる可能性があります。自動車、タンクローリー車、飛行機、船舶、石油タンカーなどはその好例です。

「結局、タンクを備えたあらゆるものが対象になるのです。」Marsell 氏は語ります。「我々は今ようやく必要な計算パワーに迫ってきているところです。来年くらいには、商用目的の様々な実用分野に眼を向けていこうと考えています。」