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先進のシミュレーションコードで音波の謎を解明

December 2006 | ドレクセル大学 バキ・ファルーク博士
December 2006 | Contributed by Dr. Baki Farouk
Drexel University | www.drexel.edu

音波と粘性流体の相互作用は、音の振動による対流(熱音響流)を熱・物質輸送において引き起こすことが広く知られています。

音波といえば通常はオーディオスピーカーのような膜の振動によって機械的に発生するものですが、圧縮性流体の急速な加熱・冷却による熱の変化を利用して音波を発生させることもできます。ちょうど気体を詰めたパイプをピストンで押したり、音響発生器で平面を振動させるのと同じ原理で、完全または部分密閉された流体の境界温度を急速に変化させることによって、媒体を伝播する圧力波を発生させることができるのです。

音波と固体表面の相互作用により副次的な流れ現象である音響流 (acoustic streaming) と言われる興味深い流体の定常的バルク運動が生じます。音響流は、ある種の反応速度を早める効果があり、マイクロ混合、対流冷却、電気化学処理などの分野に応用できると考えられています。

実験の定義

図1は、窒素で満たした共振器内の定在波と音響流の数値シミュレーションを略図で示したものです。

図1:計算領域の略図

共振器内の気圧の初期値は 1 atm (101 KPa)、 温度は 300 K です。左壁の振動周波数は、f = 20 kHz に設定します。この周波数と一致する音波の波長は、λ = c/f = 19.26 mm です。この場合、c は音響速度をあらわします。振動壁の調和変位と速度は、X = XMAXsinωt および μ = ωXMAXcosωt として与えられます。この場合、XMAX (= 10 μm) は壁の最大変位を、ω は振動の角周波数をあらわします (ω = 2πf)。 この計算では、L = λ/2 = 9.63 mm、H = 40δγ=0.632 mm とします。このうち δγ は音響境界層の厚さをあらわし δγ =(2γ/ω)1/2 とします。また、γ は流体の運動粘度をあらわします。

研究者の紹介

米フィラデルフィアにあるドレクセル大学機械工学技術学部(Department of Mechanical Engineering and Mechanics at Drexel University)では音波の複雑な現象の解明に向けた研究が行われています。研究結果を可視化するソフトウェアには Tecplot が利用されています。ドレクセル大学の教授であるバフティヤ・ファルーク博士は、容器内に発生する音響対流を解明する実験を大学院生からなる研究チームと共同で進めています。

図2:瞬間的な圧力の状態を示す等高線図 (P’ = P – P initial Pa) と t = 99 t における速度ベクトル。この場合、t は壁面振動の時間をあらわす。

機械的および熱的に発生する音波の気体、液体および超臨界二酸化炭素中における特性は、実験と数値の双方のアプローチから研究がなされています。音波のシミュレーションおよび流体の流れと熱輸送のシミュレーションには高度な数値アルゴリズムも利用されます。

ファルーク博士とその学生は、研究プロジェクトの全般的な目標の一環として、圧縮性気体の詰まった二次元矩形容器内における音響流の挙動を研究しています。特に振動する側壁によって容器内に発生する圧縮性の流れ、圧力、密度および温度場のシミュレーションによる研究が行われています。

音の波長 λ (=c/f : c は 局所的な音響速度、f は 側壁の振動数をあらわす) が容器の長さ L の倍数であるとき (λ = L/2, L, 2lL …etc.)、古典的な流れ構造が存在することが分かりました。流れ構造の形成過程における音場の強さは、数値シミュレーションによって直接調査可能です。振動壁によって形成される一次運動は時間の経過に伴って常に変化するのに対して、二次運動である音響流(が発生する場合)は定常的な流れになります。

図3:瞬間的な圧力の状態を示す等高線図 (P’ = P – P initial Pa) と t = 99 t + t /4 における速度ベクトル。この場合、t は壁面の振動時間をあらわす。

「この装置をピストンと合わせて使用したところ、ピストンの動きに合わせて、音速と共に広がる圧力波(音波)を装置内に確認できました。」と、ファルーク博士は語ります。「粒子速度は小さいですが、圧力波は局所的な音響速度と共に動きます。音波の波長が容器の長さと一致すると、最終的に定常的な流れが形成されます。」

圧力波の粘性境界層との相互作用は流れ構造を形成します。振動壁が振動する一定時間内のすべての解を時間で平均することでこの流れを可視化しました。音響効果に関連する圧力波の強度とそれによって生ずる常流パターンは、側壁の最大変位と強い相関があることが分かりました。

シミュレーションの可視化

音波現象をよりよく理解するために、ドレクセルの研究者は、時間に依存した圧縮性流れ場の直接数値シミュレーションをおこないました。ファルーク博士は次のように述べます。「(我々の知る限り)音響的に生ずる流れ場の直接数値シミュレーションを乱流モデルを何ら利用せずに行ったのは我々がはじめてです。音波を正確に追跡するために短いタイムステップの使用を命令するアルゴリズムを使用しました。我々はこれによって時間平均による副次的な流れ場はもちろん、音によって生ずる音響流に似た主たる流れ場をも得ることができました。」

図4:瞬間的な圧力の状態を示す等高線図 (P’ = P – P initial Pa) と t = 99 t + t /2 における速度ベクトル。この場合、t は壁面の振動時間をあらわす。

図6は、2D 共振器内部の音響流の数値シミュレーションをあらわします。プロットは、音響周期 100 回における共振器内部の周期平均された圧力の等高線図と速度ベクトルを示します。図2~5は、音響周期 100 回における4つの瞬間的圧力の等高線図と速度ベクトルを示します。

プロットのデータは、ドレクセル大学で開発された Fortran コードによって生成された後、Tecplot 360 にインポートされたものです。 ファルーク博士の元で学ぶ大学院生イーチャン・リン氏は、Tecplot が研究データを如何に明瞭に表現できるかを語ります。「このプロットは、共振器内部の任意の時間における圧力、温度および速度など研究に関連するすべての変数がどのように分布しているか、また、ある特定の点における変数の経過がどのようであるかをご覧いただけるように明確に示しています。音波と粘性流と熱輸送の間の相互作用を調べるような場合、我々は任意の時間と場所における目的の物理現象がどのようであるかを可視化されたプロットを調べることによって検討しています。」

ファルーク教授の元で学ぶドレクセル大学の大学院生は、実験結果を XY、2D、3D のグラフにする際は基本的に Tecplot を利用します。実験における変数間の物理的な関係がプロットによって明らかになるため、学生はこれによって物理現象を理解することができるのです。作成されたプロットは、研究グループ内でなされる仲間同士のディスカッションの材料としても使用されます。

図5:瞬間的な圧力の状態を示す等高線図 (P’ = P – P initial Pa) と t = 99 t + 3 t /4 における速度ベクトル。この場合、t は壁面の振動時間をあらわす。

将来の展望

ファルーク博士によると、こうした音響流は、流体を混合させたいのか、混合させたくないのかによってその効果が有益になることもあれば、有害になることもあるだろうと言います。この現象を用いることで化学反応器内の混合効果を向上させることができます。逆に、音響流の発生を防ぐことで構造体内部の流体を混合させないようにするという用途も考えられます。現在は、超臨界二酸化炭素を満たした容器内における音響的に生ずる流体の研究に焦点があてられています。超臨界流体には、液体のような密度をもちながら、気体のように高い圧縮性をもつという特性があるからです。

図6:周期平均された圧力の等高線図 (P’ = P – P initial Pa) と音響周期 100 回における速度ベクトル

研究の実用化についてファルーク博士は次のように語ります。「この種の流れ問題は、熱音響冷凍機と呼ばれる新型の機械でも発生します。このタイプの冷凍装置ではこうした現象の防止が求められます。開発されたシミュレーションツールを Tecplot と合わせて使うことで、効果的な熱音響冷凍システムを設計するのに役立ちます。この分野についても現在研究を進めているところです。」

熱音響冷凍システムは、冷却の低温レベルを実現できるため、軍隊の暗視システムや、携帯電話のアンテナ塔など、非常に低温の状態が求められる様々な場所で利用されます。通常の冷蔵庫で冷却できる温度は -10 度程度ですが、熱音響冷凍機では -240 度までの冷却が可能となります。