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半導体特性と磁気特性を併せ持つ新規磁性材料の研究


茨城工業高等専門学校
国際創造工学科
片岡 隆史 講師

Igor Pro はコマンドによる細かな調整が可能で、専門的なデザインスキルがなくても美しい図表を作成できます。


業務とご研究内容について、お教えください

茨城工業高等専門学校の片岡と申します。元々、鉄鋼会社の研究開発部門に所属しておりましたが、2024 年 4 月より、現職場で化学の授業を担当し、次世代人材の育成に励んでおります。教育活動に加え、自身の有する化学・物理両分野の専門知識を活かした研究開発にも取り組んでおります。足元では化学分野で培った試料作製技術と、物理分野で培った電子構造解析の専門性を融合させ、革新的な磁性材料の開発を進めております。 特に注力しているのは、半導体特性と磁気特性を併せ持つ新規磁性材料の研究です。この高性能・高効率の磁性材料が実現すれば、情報処理デバイスの省電力化が可能となり、ICT や AI 技術の発展とカーボンニュートラルの両立に大きく貢献できると考えています。


Igor Pro を使い始めたきっかけは?

Igor Pro との出会いは、大学院時代に遡ります。私が所属していた研究室では、高度なスペクトル解析技術が不可欠でした。先輩方が日常的に活用されていた Igor Pro の性能の高さに触れ、私も使用を始めました。


高エネ研での放射光実験について、お聞かせください

先日、高エネルギー加速器研究機構 (高エネ研) の放射光実験施設 Photon Factory(PF) のBL-16A にて、酸化物磁性材料の電子構造解析を実施いたしました。実験では、インジウム酸化物 (In2O3) にコバルト (Co) 元素を 10% 程度添加した材料 (Co-doped In2O3) に軟X線を照射し、その吸収挙動をスペクトルとして観測しました。この吸収スペクトルの構造からは、物質を構成する元素の化学結合状態や磁気状態を詳細に読み取ることができます。得られた吸収スペクトルの構造的特徴を理論計算と照合することで、物質の磁性の起源を探ることが可能です。この解析には高度な精密性が要求されるため、従来は非常に困難な作業でしたが、Igor Pro を活用することで、これらの課題を効率的に解決することができました。 今回の実験では、ビームライン担当の先生からの手厚いご支援に加え、高性能な Igor Pro を活用できたことで、重要な知見が得られました。具体的には、Co-doped In2O3 の磁性安定化には、試料表面の格子欠陥の導入が有効である、という示唆を得ることができました。この発見は、今後の材料開発における重要な指針となると考えています。

図1:PF BL-16A の実験装置外観
高磁場下における磁性半導体のCo元素の電子状態解析
図2:PF BL-16A の実験風景
ホルダーに評価試料をセットした状態。測定は超高真空チャンバー内で実施する。
図3:PF BL-16A の実験風景
軟 X 線ビームを評価試料に照射すると、軟 X 線ビームが吸収される。この吸収挙動をスペクトルとして可視化することで、電子状態の解析を実施している。
図4:PF BL-16Aの実験風景
測定を実施している様子

 

図5:Co-doped In2O3 中の軟X線吸収分光 (XAS) の解析
Co-doped In2O3 中の Co 電子状態を調査している。異なる実験条件で得られた吸収スペクトル同士の差分を取ることで、Co 3d 電子の磁気的結合状態を解析する。大量のデータ処理を行う上で、Igor Pro は必須のツールとなっている。
※実験支援 KEK IMSS・雨宮健太教授

 

Igor Pro の魅力とは?

Igor Pro の魅力は主に2つあると考えます。 第一に、実験データと理論計算とのフィッティング、または関数フィッティングを精密かつ効率的に実行できる点です。スペクトル解析を行う研究者にとって、必須のツールと思われます。 第二に、優れたグラフ作成機能です。コマンドによる細かな調整が可能で、専門的なデザインスキルがなくても、美しい図表を作成できます。 これらの機能のおかげで、Igor Pro を用いた解析は、私にとってこのうえなく楽しい時間です。

図6:Co-doped In2O3 中の X 線光電子分光 (XPS) の解析
Co-doped In2O3 中の Co の電子状態を調査している。 XPS スペクトルの微細構造の解析と理論計算との比較を通じて Co の価数状態を同定する。ピークフィッティングを行う上で Igor Pro は極めて便利。
※実験支援 長岡科学技術大学・小松啓志助教

 

今後の展望・製品機能への要望をお聞かせください

今後の研究展開として、材料開発に機械学習を取り入れたアプローチを計画しています。特に、スペクトルデータと物性パラメータの相関解析や、材料組成の最適化において、この手法が有効だと考えています。これまで以上に大規模なデータセットを扱うことになるため、Igor Pro の高度なデータ処理能力はより一層重要になると思料しております。将来的には、機械学習ライブラリとの連携機能が強化されることで、より効率的な研究開発が可能になることを期待しております。

 

 

本事例作成に関し、片岡先生のご協力に感謝いたします。

(インタビュー:2024年11月)

※所属・役職は取材当時のものです。

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