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教育的対話の分析に NVivo を活用

児童の解釈する芸術

この記事は、『QSR 社のソフトウェアを使用した定性調査の戦略』と題して開催されたカンファレンスで発表された内容を要約したものです。プレゼンテーションの作成は、アナ・ベレン・ガルシア-ヴァレラ(スペイン・アルカラ大学)、エクトル・デル・カスティージョ(英・ケンブリッジ大学、スペイン・マドリード自治大学)、ピラール・ラカーサ(スペイン・アルカラ大学)らによるものです。

調査プロセスにおける情報通信技術 (ICT) の活用は、社会科学の分野で定性調査をおこなう研究者が現在直面しているもっとも重要な課題のひとつです。我々の抱く関心の中心は、この新しいテクノロジーを特に社会文化的研究のプロセス全般にわたっていかに上手く活用することができるかという点にあります。我々は、ある調査プロジェクトの一連のプロセスを事例として取りあげ、そこでなされるデータの組織化、保存、回収、分析が NVivo 7 を用いることでどのように容易に扱えるようになるかを、こうした理論的枠組みを背景に調査しました。

我々は教育プログラム 「DAP」 (Didactica del Arte y del Patrimonio : 芸術とその伝統の教授法) の評価プロセスに取り組みます。DAP とは、スペインの「財団法人アルテヴィヴァ・ヨーロッパ (Fundacion ArteViva Europa)」が 2005-2006 年度の期間に開発した芸術作品の分析法を児童にも導入すること目的とした教育プログラムです。教室での絵画分析を通じて、児童が共同で作業し、共同で考えながら参加するこの新しい教育実践を分析することが我々の研究です。プログラムそのものは、創造的思考と教室内外における共有表象の育成を目的に作成されています。

データと分析単位

プロジェクトの実施にあたり、我々は性質の異なる2種類のデータを使用しました。ひとつは授業毎にその内容を録画したビデオファイルをテキストに書き起こした逐語的データ、もうひとつは、各授業の内容を要約したもの(サマリー)です。分析の単位は、この調査で分析される大きな実体です。すなわち、「what (ものごと)」、あるいは、「whom (人物)」が調査対象となります。この分析単位そのものは、分析の進行具合や調査の方向性、および、データの特性などによって変動します。つまり、我々は、分析の進行に応じて視点の見直しを行い、視点を次々に変えていったのです。

研究の初期段階において我々が目標としたのは、プログラムの経過を通じて児童の対話がどのように発達してゆくかを分析することでした。これを実現させるために、我々は録画したビデオをテキストに書き起こした授業の逐語的な記録を調査の対象としました。次の段階に入ると、我々は視点を替え、今度は個別の絵画に焦点を当てました。これは、絵画を目のあたりにしたときの児童の思考を分析したいと考えたからです。NVivo 7 では、この分析プロセスにおいて、授業の逐語的な記録と談話分析で要約された記録の2種類の資料を直接的に分析することが可能でした。

コーディング作業

我々は、児童の思考分析に用いる教育プログラムの方法論で定義された幾つかの要因に基づいて、ドキュメントにコード付けを行いました。プログラムの目指した目標と、実際の児童の達成度を比較できるという点で、児童の学習プロセスの評価がこれによって可能となりました。

データの分析と解釈

コーディングが完了すると、我々はコーディング構造の一致 (coincidences) と不一致 (non-coincidences) を発見するために検索 (searching) モードを使用しました。我々は、共起マトリクス (co-occurrence matrix) を作成し、これとデータ分析と解釈のためのテキストを用いて分析作業に取り掛かり、その後、評価レポートの作成を行いました。レポートは、「painting 」によってコード付けされたノード数と、児童の学習プロセスにおいて構築された関係と発達を示す定性的事例を組み合わせて作成しました。我々が目標としたのは、教師にとって役立つ共通の評価レポートを完成させることでした。

終わりに

この研究において、NVivo 7 はプロジェクトの第一段階で、分類を行う最初のアプローチに無くてはならないリソースを提供しました。このアプローチは、どちらかといえば記述的手法ですが、後にデータを検索したり、それによって分析や解釈を行うための重要な基盤となります。研究の第二段階に入ると、NVivo 7 は、教室における児童の思考や行動という観点から、コーディングやデータを解釈するための分析的ノードシステムを構築するのに役立ちました。