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地域社会学・都市社会学の研究に NVivo を活用

武蔵大学 社会学部
(東京都)

武田 尚子 教授

データの分析・整理が効率的に進むようになると、データ収集に対するモチベーションが上がり、データ収集への集中力が増して、質の良いデータを集めることができるようになります。

 

研究されている内容について教えてください

月島のもんじゃ店にて

研究分野は社会学で、そのなかでも地域社会学、都市社会学、人口移動論が専門分野になります。特定の地域社会をフィールドにして、人口移動、産業の変遷、職業移動の実態を調査し、地域社会構造、産業構造、住民の生活構造を明らかにしていくことを専門にしています。

これまで調査してきた地域は、国内では東京の月島、渋谷、瀬戸内海の離島集落 (広島県) 、温泉リゾート地である箱根・熱海などです。国外では、イギリス、フィリピンです。いずれの調査地域でも共通している調査テーマは、人口移動・労働移動が地域社会に与えたインパクトを解明することで、とくに再編された労働市場で弱者の立場におかれがちな人々に焦点をあて、「地域社会からみる近現代の人口移動・労働移動と貧困・セーフティネット」について、歴史社会学的視点も取り入れてアプローチしています。

また質的調査方法についても研究しており、とくに過去の研究者が収集した質的調査データを用いた二次分析の手法について、イギリスのデータ、日本のデータを用いて、現代に生かす方法を考えています。

主要著作:『マニラへ渡った瀬戸内漁民』、『瀬戸内海離島社会の変容』、『海の道の三〇〇年』『もんじゃの社会史-東京・月島の近現代の変容』、『質的調査データの2 次分析-イギリスの格差拡大プロセスの分析視角』、『チョコレートの世界史』、『温泉リゾート・スタディーズ-箱根・熱海の癒し空間とサービス・ワーク』 (共著)

 

取り扱うデータの種類、収集方法、分析方法について教えてください

調査方法は、質的調査方法を主とし、インタビュー調査、参与観察、資料収集を行います。資料収集は多岐にわたり、一般的な文書資料から、フィールドワークによって歴史的文書資料、写真、フィルム、戦前期の絵はがき、広告宣伝に使われた実物などを集めます。また、NHK トライアル研究で NHK アーカイヴを利用させてもらい、メディアを用いて過去のNHK 番組のコンテンツ分析も行っています。

このように、文書データ、音声データ、実物など多様な形態のデータを入手します。これを整理し、分析・解読します。そして、論文作成に利用できるように加工し、整理し直し、研究成果のアウトプットにつなげてゆきます。また、質的調査データの二次分析では、過去の研究者が収集した多様な質的データを扱います。

 

NVivo を使い始めたきっかけを教えてください

図2:英語のノードでのコーディング

2007年にイギリスのサウサンプトン大学客員研究員、エセックス大学客員研究員をしていたときの研究テーマの一つが、イギリスの質的調査方法の研究で、質的調査のソフトについての研究も含まれていました。

イギリスの研究者の質的ソフトの使用経験を聞きながら、自分でも複数のソフトを試し、NVivo が使いやすいと判断しました。

ちょうどイギリスの研究者たちが他のソフトから NVivo に切り換えていった時期で、大学のコンピュータにインストールされていたのも NVivo でした。イギリスの研究チームが NVivo を使うことを前提にして、調査をマネージメントし、質的調査であっても大規模な調査対象者の集団からデータを得て、ダイナミックな調査を実行している様子をみて、ショックを受けました。質的調査ソフトを有効に活用することによって、調査の構想・立案がダイナミックに変わり、これまでの質的調査・量的調査の境界も変わってくることを感じました。汎用されている程度、分析したデータのシェアの容易さを勘案して、NVivo を使うことに決めて、イギリスで行われていた研究者対象の NVivo の入門セミナーを受講しました。その後、アメリカの学会にも参加し、NVivo の汎用性が拡大している状況を確認し、この方向で進めることにしました。

 

NVivo をどのような場面で使用されていますか?

図3:フィリピンでのグループインタビュー

イギリスで NVivo の使用方法を習ったあと、すぐに試したのが、日本から持参していたインタビュー・データの分析・整理です。渡航前に東京・月島のもんじゃ店経営者の方々にインタビューし、データをトランスクリプトの状態まで作っていたのですが、この段階で渡英し、イギリス生活の多忙にとりまぎれ、そのままの状態で手つかずで 9カ月経っていました。NVivo を習って、すぐにデータをコード化し、これを繰り返して、イギリス滞在中に他の研究と並行しながら、短期間で『もんじゃの社会史』のオリジナル原稿を作成することができました。

この経験から次のようなことを考えるようになりました。質的調査の場合、「データの収集」「データの分析・整理」「アウトプットの作成」の各段階は、異なる技術とモチベーションを必要とする作業であることを強く自覚すべきだということです。中堅の質的調査の研究者の場合、「データの収集」にはすでに手慣れていて、モチベーションもすぐに喚起され、高いパフォーマンスを発揮することができます。ところが、「データの分析・整理」の段階では、他の研究と並行したり、押し寄せる学務と闘いながら実行するのが現状で、どうしても後回しになりがちです。ここを「猫の手」のように助けてくれるのが、質的調査ソフトの威力だと感じました。中堅の研究者は専門領域について一定の知識と見通しをもっているので、アウトプットに使いやすいように「データの分析・整理」が進めば、アウトプットの作成」は意外に容易に進みます。

各段階を効率的にこなしていくためには、異なる技術と集中力を必要とすることを自覚し、そこをちょっと助けてくれる「猫の手」を見つけ出し、自分にとって本当に有用な「猫の手」になるように使いこなすことの必要性を痛感しました。NVivo もそのような「猫の手」の一つになり得るのではないかと考えています。

 

NVivo の便利な機能、役に立つ機能を教えてください

図4:画像に対するコーディング

よく活用するのはデータの「コーディング」です。「コーディング」といっても、ただ「コーディング」すればそれで済むのではなく、自分の研究と本当にマッチした使い方をして、アウトプットの作成速度、内容に反映させるには、工夫してみなければならないことが多いと感じています。

実際に使いながら、質の高いアウトプットを生み出していく技術を向上させることはとてもチャレンジングだと思っています。

 

NVivo はどのような研究者にお薦めできますか?

ゼミ生と活動中

修士課程の院生も含めて、それ以上の若手から中堅の研究者です。つまり、ひと通りの「質的調査データの収集」に慣れている人です。学部学生にNVivo を講習したことがありますが、まだ調査経験が豊富ではなく、データの収集数も多くないため、NVivo を使う必要性が充分に実感できないようでした。

すでにデータ収集に慣れており、データ蓄積量は増える一方であるにも関わらず、アウトプットの産出が遅いと感じている場合、データ分析・整理のマネージメントがうまくいっていないことがあります。そのような状況の方が試してみると良いかもしれません。

データの分析・整理が効率的に進むようになると、原点にかえってデータ収集に対するモチベーションが上がり、再度、データ収集に挑むなど集中力が増して、質の良いデータを集めることができるようになります。「データの収集」と「整理・分析」が良いスパイラルで回転するようになり、「アウトプットの作成」に良い影響を与え、研究成果の質が深まることが期待できます。

また、フィールドワーカーは収集・蓄積したデータが多く、研究拠点にそれを保存しますが、調査や出張なども多く、保存場所から離れざるを得ないことも多いと思います。NVivo を用い、国内・国外の忙しい出張中でも、限られた時間で加工、分析、処理を進め、研究拠点にもどってきてからの活動を有効に進めることができると思います。

(本事例作成に関し、武田教授のご協力に感謝いたします)

            (インタビュー:2013 年2 月)
* 所属・役職はインタビュー時のものです

 

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