新規購入お見積
アップグレードお見積

Igor Pro 導入事例
PDF 版

動物行動学の研究

大規模データを高速で処理できるうえ、グラフの作成やプログラミングも出来るという事で、使い始めました。

IGOR Pro で開発したバイオロギングデータの解析ツール「Ethographer」
北海道大学 大学院獣医学研究科
比較形態機能学講座 生理学教室
講師 坂本健太郎 博士

今回の事例は IGOR Pro のプログラミング環境を使ってオリジナルのプログラムを開発された北海道大学の坂本先生にお話を伺いました。


研究されている内容について教えてください

地球上には様々な種類の動物が生息しています。その中には、極地や深海、空中といった人間には耐えられないような環境で元気に生きている動物もいます。そのような動物が、どのような体の仕組みをもっているのかを研究しています。

対象個体を捕まえる、もしくは直接観察するというのが最も一般的な動物の研究方法なのですが、特殊な環境で生きている動物ですから、そのようなことが出来ません。また、仮に対象動物を実験室に連れてくることが出来たとしても、それでは、その動物が本来持っている能力を発揮していない状態になってしまいます。例えば、ペンギンは陸上ではよちよち歩きですが、海に入ると深くまで潜るし、俊敏に泳ぎます。こういったことは、水族館でもある程度見ることが出来ますが、南極で自由に行動する個体を調べることで本当の能力を初めて知ることができます。もっと身近な例で考えれば、家で飼っている猫がどこを散歩しているのかを調べるというようなことでも、それほど簡単ではないことが分かると思います。人間が猫を追跡していったとしても、すぐ観察できないような所に隠れてしまうでしょう。そして、数時間後に、何事もなかったかのように猫は家に帰ってくると思います。

アデリーペンギン

そこで、動物が生活している所に人間が訪れる代わりに、動物に小型のデータロガー(センサー付き記録計)を装着し、自由に行動させることで、(人間にとっては)特殊な環境下で動物がどのような状態になっているのかを調べています。このような研究手法は、バイオロギングと呼ばれていて、生態学、行動学、生理学、環境学などで急速に広まっており、研究会も出来ています(バイオロギング研究会)。

 

これらの研究の中で IGOR Pro ではどのようなデータを扱っておられますか?

動物に装着したデータロガーで記録された時系列データを解析するために使っています。データの種類は、使用するセンサーによって異なるのですが、動物が経験した深度、温度、遊泳速度、位置、心電図、加速度などを等間隔で記録しています。一回の計測で、それぞれの項目あたり、一千万ポイント位のデータを得ているのですが、IGOR Pro は大規模なデータのグラフ作成やデータ処理を素早く簡単に出来るので重宝しています。

マユグロアホウドリ

幾つか例を挙げます。一つ目は、マユグロアホウドリの心電図です(図1)。皆さんも検査したことがあると思うのですが、心電図や心拍数を測る場合は、通常は安静にした状態ではかります。アホウドリが、他の動物と違う所は、飛ぶのが非常に上手いのです。ほとんど羽ばたかずに、ずーっと滑空し続けることができます。そうなってくると、じゃあ、飛んでいる時の心拍数ってどうなっているんだろうという事になりました。そこで、小型の心電図データロガーをアホウドリに装着して記録したのがこれです。

図1:マユグロアホウドリの心電図

二つ目は、アデリーペンギンの潜水記録です(図2、3)。以前、南極に行ってペンギンの調査を行ったのですが、陸上からペンギンを観察していると、氷上から海に飛び込んでいるのがみえました。一分か二分くらいすると同じ場所に浮上してくるのですが、またすぐ海に飛び込んでいきます。それを延々と繰り返すんです。そのペンギンに深度計を付けて得られたのが、この記録です。

図2:アデリーペンギンの深度記録
図3:アデリーペンギンの深度記録(拡大図)

記録をみると、深度 40-80 mくらいまで潜っていたことが分かります。いちばん深い所で、深度記録がすこしギザギザしているのは、そこで餌をとっているためではないかと考えられています(図3)。

IGOR Pro を使い始めたきっかけは?

8年ほど前からバイオロギングをしているのですが、データロガーから記録を得た後、どのように解析をすれば良いか分からず困っていました。というのも、得られたデータの量が大きく、その当時の持っていたソフトウェアでは扱う事ができなかったからです。そんな時に、前述のバイオロギング研究会の方から、IGOR Pro を教えて頂きました。大規模データを高速で処理できるうえ、グラフの作成やプログラミングも出来るという事で、使い始めました。

 

IGOR Pro の便利な機能を教えてください

一つ目は、大規模なデータでも高速でグラフ表示できるという点です。それから、コマンドが履歴に残るため、これを使って比較的簡単にプログラムを作成することができます。また、組み込み操作関数や組み込み関数が数多く用意されていて、やりたいと思ったことを短時間で実現できる所も気に入っています。

私はバイオロギングデータ解析用のプログラムを IGOR Pro で作成し、Ethographer という名前で公開しているのですが、IGOR Pro が無ければ、このようなものを作ることができなかったと思います。私は元々プログラミングの経験が無かったのですが、IGOR Pro ではマウスを操作して実行したことがコマンドウィンドウに履歴として残るため、これを真似することでプログラムの書き方を学ぶことができました。

IGOR Pro で開発したバイオロギングデータの解析ツール「Ethographer

 

どのような研究者の方に勧められる製品ですか?

等間隔で記録された時系列データを扱う方、特にデータの量が大規模となる場合には、お勧めです。また、そういったデータを解析するプログラムを、あまり時間をかけずに作成したい方にも便利だと思います。30日間、製品版と同じものをデモ版として無料で使うことができるので、初めて使う場合でも購入前に気軽に試すことができると思います。

 

Ethographer の宣伝をお願いします

バイオロギングは、その手法の性質上、大量のデータを相手にしなければなりません。そうなると、ある程度は自分で解析を行うためのプログラムを作成して、研究を行う事になります。しかし、バイオロギング手法で研究している方の中には、動物の事は得意だけど、プログラミングをするような解析は苦手、という方もいます。IGOR Pro はとても良くできていて、他のソフトウェアなどと比べれば、簡単に解析やプログラム作成をすることができますが、それでもこれまで経験が無い人にとってみれば、それなりのハードルとなっていました。そこで、バイオロギングデータの解析に必要なプログラムをまとめて作成して、マウス操作だけで解析が一通り出来るようにしたものを Ethographer という名前で公開しました。これによって、データロガーから記録を得た後の解析にかかる時間と手間が大幅に少なくなりました。また、IGOR Pro の豊富な関数を使う事によって、新しい解析手法を開発することもできました(Sakamoto et al. 2009)。動物が歩いたり、泳いだりする時には、体は周期的な動きをしますが、このような動きを連続ウェーブレット変換に基づく新たな解析手法によって調べることができるようになりました。Ethographer が、動物たちの持つ謎に迫ろうとしている研究者のお役にたてれば大変嬉しいです。

(インタビュー:2010 年9 月)

引用文献

関連サイト