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岩手大学理工学部 物理・材料理工学科 数理・物理コース 中山敦子 教授 |
物質が高密度化することによって発現する新奇な物性の探索に興味があります。
中でも、ナノ空間を活かした高密度水素の生成や、超伝導物質等の示す圧力誘起超伝導機構の解明など、構造由来のユニークな物性にフォーカスしています。
研究では、高圧下での振動準位や結晶構造のその場観察を通じて、物質の状態図を調べています。
実験ではダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた圧力発生をおこなうため、非常に限られた試料スペースでの精度ある実験をおこなうための技術開発も同時にすすめています。
主に、高圧下での結合状態や結晶構造を調べるために、ラマンスペクトル、粉末X線回折を測定します。また、圧力を求めるために試料や圧力媒体と一緒にDACに封じ込めたルビーの蛍光スペクトルを測定します。それらのデータ解析にIgor Proを使用しています。
試料に数層グラフェンを扱う場合は、グラフェンの積層数を知っておく必要があります。
ダイアモンドアンビルに転写した数層グラフェンは、ダイヤモンドからの影響が大きく、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡、グラフェンのラマン分光など従来法によって積層数を評価することが難しいので、グラフェンの遮光性とその基板材料由来のラマンスペクトルを利用したグラフェン積層数の評価方法(特許第6457766号)を独自に開発し、単層から30層以上のグラフェン積層数評価を可能にしました。
この方法でもデータ解析にIgor Proを使用しています。
Igor Proを用いた粉末X線回折の解析で得られた銅酸化物超伝導体の結晶構造を、CrystalMakerに打ち込んで結晶の絵を描いています。
圧力をかけると結晶構造がどんな風に変わっているのか確認するのが楽しみです。
解析で得られた結果が一瞬にして結晶構造の絵で見られるのも便利でよいと思います。
解析で得られたパラメータはKaleidaGraphを使ってグラフ化しています。とくに、各圧力点で得られたスペクトルを重ね描きするには、KaleidaGraphが重宝します。
研究ではローレンツ関数やガウス関数を使って、ラマンスペクトル、X線回折、蛍光スペクトルなどのスペクトル解析をおこなっています。
また、教育では、学生実験のデモンストレーションとして、単スリットによるレーザー光の回折・干渉で得られた干渉縞の解析に使用しています。
ダイヤモンドセル(DAC)と圧力発生用ギアを使って試料に圧力をかけ、発生圧力を測定します。ルビー蛍光を測定し、スペクトル解析をおこないます。
目的の圧力に到達したら、ラマンスペクトルを測定します。
試料によって測定する波数が異なるため、圧力1点について、グレーティングを動かし、必要なスペクトルを複数、測定します。
例えば、現在おこなっている水素中でのグラファイトの圧力依存性の場合、圧力1点につき、グラファイトの面内振動(G-band)、水素の回転振動、伸縮振動を測定します。
圧力点は、加圧仮定で50点〜100点、減圧仮定で20点くらい測定します。試料が相転移しやすい物質や圧力依存性が単調で無い場合は、さらに細かく測定します。
また、グレーティングを動かす度にNeランプを使って波数校正、波長校正をおこないます。よって、1試料につき測定するデーター点は、優に300点を超えます。
データは検出器と繋がっているPCに蓄えられます。これを解析用PCに移して解析処理をおこないます。
産総研(当時は工業技術院)でポスドクをしていたときに、高エネルギー加速器研究機構で測定した高圧粉末X線回折データをリートベルト解析するためにIgor Proを使い初めました。
超高圧力下で得られる回折線は常圧とは違って線幅が太く、強度比も常圧とは異なります。また、加圧の途中で複数の回折線が重なってしまったり、相転移が生じたり、圧力を1GPa刻みで数十点も測定するため、処理するデータの数が膨大になります。最小二乗フィッティングの経過がほぼリアルタイムで表示され、すぐに答えが出てくるのがとても助かります。
自分で初期設定した数式が画面状で実験結果にピッタリと一致すると大変気分が良いのですが、何度試してもとんでもない結果になってしまうときは、「なんとかしなくちゃぁ〜」と解析に夢中になっていると、気が付けば真夜中になっていたということがよくあります。
私の研究室では、大学院生も解析に使用しています。マニュアルの量が膨大なため、使い慣れるには少し時間が必要です。
なにか必要に迫られるものがあると修得しやすく、周囲に使い方を知っている人がいると、だいぶ、敷居が低くなります。
学生には最小限だけ教えると、そのうち自分達でいろいろ見つけて試すようになり、卒業するころにはいつのまにかエキスパートになっています。
スペクトル解析などをおこなっている研究者にお勧めしたいです。
本事例作成に関し、中山先生ならびに同研究室の皆様のご協力に感謝いたします。
(インタビュー:2020 年12 月)
※所属・役職は取材当時のものです。