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[特別編] 自然災害がもたらす生態系への影響を研究

東京大学
大気海洋研究所
国際沿岸海洋研究センター

佐藤 克文 准教授

今回の事例は IGOR Pro のユーザで東日本大震災で被災され、復興活動もされた東京大学の佐藤先生に特別編として話を伺いました。

千年に一度といわれる自然災害により、野生動物がどのような影響を受けるのかを明らかにしていこうと考えています。

津波の被害にあった当時の状況と、復興に向けた活動

津波に襲われた研究室

オーストラリアのホバートで開催されるシンポジウムに出席するために、津波に襲われる前日の2011年3月10日に、研究室メンバーや家族と共に日本を出発し、3月11日に現地に到着した直後に大地震が起こったことを知りました。よく見知った釜石湾に大津波が流れ込んでいくテレビ映像を見て呆然としたものの、向こうではなすすべも無くひたすらメールを出しまくって情報収集をしました。大槌町にある職場、大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターの職員や学生の安否は 3日後まで確認できませんでしたが、幸いにも人的被害はありませんでした。

津波で被害を受けた研究室

 

3月21日に帰国し、23日に秋田空港経由で現地入りしました。大槌町の海際に立つ建物は、3階まで水が達したそうで、1階の海に面した側にあった私の部屋は、泥水でかき回したような状況でした。父経由で祖父から譲り受けた宝物のハサミは何とかがれきの中から見つけ出し、修理して使えるようになりましたが、他のすべての機材や書物や野帳などを失いました。これまでとりためたデータは、幸い手持ちのノートブックパソコンに 8割が保存されていたため、研究は継続できています。

3階まで水が達した研究室の建物
見つかったハサミ

 

研究活動の再開

その後、研究室メンバーと共に、千葉県柏市にある東京大学大気海洋研究所に移動し、そこで部屋をもらって研究活動を再開しました。それまで、大槌町の周辺海域で進めていた調査は中断せざるを得ず、代わりに国外 (スコットランド、アメリカ、ウルグアイ、ナミビア、ニュージーランド) や国内の他地域 (東京湾、小笠原、愛知県) などで野外調査を進めています。また、2011年9月からは大槌湾周辺海域でオオミズナギドリ調査を再開することができました。これは、被災した漁業者の方から、「これまで通り海鳥調査に協力できる」という申し出をいただいた事に因るもので、岩手県沿岸の無人島に上陸し、これまで継続してきた野外調査を途切れさせること無く実施することができました。

研究活動の再開:岩手県山田町船越漁業共同組合所属の漁師さんによる船で、
オオミズナギドリ調査地の無人島に上陸

 

復興支援の活動

研究以外には、個人的な募金活動により、これまでお世話になってきた大槌町や釜石市の皆さんを元気づけるような活動を行いました。これは、元々バイオロギング研究会の有志者達が初めてくれた募金がきっかけになっています。

津波により被災した私や研究室メンバーへ、ということで始まった募金ですが、私たちよりもサポートを必要としている漁師さん達や地元の子ども達に、漁船の修理費用や通学用自転車などを送るといったことに使いました。2011年12月から 2012年3月にかけ、国立科学博物館で企画展「バイオロギング」が開催され、私はその企画立案に関わりました。そこで、1月に大型バスをチャーターし、岩手沿岸部の子ども達 40名を 2泊3日で上野に招待するというイベントを行い、募金による支援活動を終えました。

 

研究されている内容について教えてください

私の専門は、小型記録計を動物につけて、野外環境下で行動や取り巻く環境を測定するというもので、これには「バイオロギング」という名称がつけられています。現在、魚類・爬虫類・鳥類・哺乳類を対象とした調査が世界各国から日本国内各地で進められています。それぞれの対象動物に学生や博士研究員が張り付き、知られざる生態を解明するための野外調査に明け暮れています。私自身は、そうして集まってくる行動データなどを使って種間比較を行い、体サイズによって動物の動きがどのように代わってくるかというテーマ、スケーリングに興味を持ちつつ研究を進めています。

津波で被災した大槌湾周辺海域では、2004年以降、オオミズナギドリ・ウミガメ類・マンボウ・シロザケを対象とした調査を行ってきました。津波により沿岸海域の生態系は大きな影響を受けたことが予想されます。そこで、今後も引き続き現地の調査を継続することにより、千年に一度といわれる自然災害により、野生動物がどのような影響を受けるのかを明らかにしていこうと考えています。オオミズナギドリ以外の調査も今年2012 年から徐々に再開していく予定です。

ウミガメに付けた記録計
マンボウに付けた記録計

 

研究室で IGOR Pro をどのように活用されていますか?また、どのような研究者の方に勧められる製品ですか?

私たちが使っている小型記録計は、動物に取り付け、一定期間後に回収します。それによって、深度・温度・速度・加速度・水平位置 (緯度経度) ・塩分濃度・地磁気・静止画・動画といったデータを得ることができます。いずれも長さにして数百万個にもなる時系列データなので、それを解析する主なソフトウェアとして IGOR Pro を使っています。北海道大学大学院獣医学研究科の坂本健太郎博士が開発したエソグラファーは、IGOR Pro 上で動くユーザーフレンドリーな解析マクロなので、私たちにとっては基本的なツールです。他にも各自が解析したい項目毎に IGOR Pro 上で動くマクロを自ら作りながら解析を進めています。良いマクロができると研究室のメンバーやバイオロギング研究会の会員に提供しています。

オオミズナギドリ時系列: オオミズナギドリに取り付けた加速度計から得られた時系列データ(黒線)から、 ウェーブレット変換によりスペクトログラムを作成。 赤い色の部分が、オオミズナギドリの羽ばたき周期を示す。

 

IGOR Pro の便利な機能を教えてください。どのような研究者の方に勧められる製品ですか?

まず、扱えるデータ数にソフト上の制限が無いというのが私たちにとっては非常に重要です。例えば加速度データなどは 1秒間に数十個という高頻度で数日間にわたって記録されるため、これを扱える IGOR Pro は非常に便利です。加速度波形を解析する際には IGOR Pro に標準装備されているウェーブレット変換機能が役に立ちます。動物の動きに応じた様々な周期の波形が、加速度時系列データ上には複雑に含まれていますが、ウェーブレット変換によりスペクトログラムを描くと、時々刻々どのような周期の成分が含まれていたのかを容易に見ることができます。あるいは、まだ使い始めたばかりですが、画像解析機能も備わっているので、動物搭載型カメラによって得られる数千枚に及ぶ画像データを解析することにも有用です。何らかの測器により連続記録する様な場合、しばしばデータ長が数万行以上になります。そのような時系列データを図示したり、それを使って計算を行うということを考えている人にお勧めします。

IGOR Pro 6
エンペラーペンギンの時系列データを元に計算した三次元水中移動経路図

 

これからの「夢」を教えてください

津波は沿岸にすむ人々に深刻な災いをもたらしました。しかし、私は一人の研究者としてこの津波をたまにある自然災害の一つとして淡々と受け止め、野生動物の暮らしや沿岸生態系がそれにどのように応答するのかという事を冷静に突き詰めていきたいと考えています。研究によって得られる発見を世間に伝え、それをおもしろいと思ってくれた子ども達が将来この分野に入ってきてくれる日を夢見つつ日々研究にいそしんでいます。

岩手県沿岸の子ども達を上野に招待した際、
動物園の前で記念撮影。
大きなマンボウに興味津々の小学生。
大槌町にて

(インタビュー:2012年6月)

 

関連情報

佐藤克文先生の著書

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