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微生物のシークエンシングでロックアートの年代を特定

ブラッドショーのロックアート

Queensland Brain InstituteJohn D. (“Jack”) Pettigrew 教授 (王立学会特別研究員) は、オーストラリアの古代のロックアートの研究に CodonCode Aligner を使用しています。ブラッドショーのロックアートは、非常に細い線 (1ミリ幅) で驚くべき絵画や、複雑な装飾品を纏った人物像が描かれています。年代や絵の制作者については判りませんが、さまざまな推測がなされています。興味深いことに、それらの絵画は 30,000 から 70,000 年前のものであるにもかかわらず、色のコントラストが非常にはっきりとしており、劣化していなかったのです。

最近の発見で、ブラッドショーのロックアートは、絵と密接に結合するさまざまな微生物を含むバイオフィルムで覆われていることがわかりました。Pettigrew 教授は言います。「絵は色素産生真菌とバクテリアの混合物と共存しています。色素産生真菌とバクテリアが補充されたことによって、岩絵は無限の生命を与えられた可能性があります。」教授は古代のロックアートの年代を測定するために、これらの微生物に含まれる進化情報を使おうとしています。Pettigrew 教授は CodonCode Aligner を使用してバイオフィルムに固有の菌を研究し、菌の DNA 系統樹を使用して岩絵の年代問題を解決できるかもしれないと考えています。

 

生きた岩絵のバイオフィルムの分析

Pettigrew 教授は岩絵を覆うバイオフィルムの微生物を特徴付ければ、それぞれの絵の年代を測定することができると考えています。教授はバイオフィルムに含まれる2つの重要な微生物に注目しました: 黒色真菌と赤いシアノバクテリアです。

ブラッドショー壁画のバイオフィルム。黄色の子実体をもつ黒い色素産生真菌 (左上隅) と赤いシアノバクテリアを含んでいます。右の顕微鏡写真は、左の画像の白い四角部分。スケール = 1 mm 画像提供: Jack Pettigrew
古代のロックアートの鮮やかな色

絵の色は赤と黒が様々に混合しており、当時のアーティストが使用したと思われる他の色は失われています。「塗料」の色と明度は、黒色真菌と赤いシアノバクテリアの量に関連し、その関係は pyrotag シークエンシングによって確認されています。

もう一つ、岩絵の非常に印象的な特徴は、バイオフィルムの境界が正確に絵の線に沿っており、絵の縁を越えて拡張していないことです。また、絵の周りの岩壁にはバイオフィルムは発生していません。このように、絵の輪郭内にバイオフィルムが閉じ込められているということは、たとえば、オリジナルの塗料にあった真菌胞子から、絵そのものと直接結びついた結果である可能性が高いのです。バイオフィルムは、金属基板、太陽放射、遊離基、水圧の変化などから微生物を保護します。多くの岩絵は砂岩の表面に刻み込まれているので、使用された塗料が岩に絵を刻み込み、それがバイオフィルムのための隙間を作り出したのかもしれません。バイオフィルムが局所的に発生していて分散していないということは、岩絵の年代を定めるのに使用できるということです。年代特定のために、系統樹を構築する 18s-ITS 遺伝子配列を使うことが目標です。有機体がそれぞれの絵に密接に結びついているとしたら、違う場所の岩絵の系統樹は互いに独立しているはずです。

 

バイオフィルムの黒色真菌

パイロットスタディは pyrotag 解析で行われ、バイオフィルム内の 100 種以上の有機体を特定しました。Pettigrew 教授は、真核生物 (ITS、SSU 等) の突然変異率についての情報が多く入手でき、絵画上で見ることができるバイオフィルムの中で真菌が優占種であると思われるため、まずバイオフィルムで発見された真菌に焦点を当てることにしました。

新たに発見された、メラニン化して岩に適応している真菌は、真菌の系統樹の基部を占めているため、特に注目に値します。その真菌のゲノムサイズはたった 4 Mb で、これまでで最小の真菌ゲノムを持ち、系統学的に Pneumocyctis (ニューモシスチス:7 Mb – 以前の最小ゲノム) より前の系統であることを示しています。真菌はユニークで、黒く、菌糸の全体に成長する球形の胞子があります。真菌の配列は、Capnodiales family (カプノディウム科) の、Dothideomyces phylum (クロイボタケ綱) に所属します。

黒色真菌は、ブラッドショー壁画が発見されたキンバリー地域でよく見られます。たとえば、「インクの縞」 (黒く染まった滝と水路) には一般的な真菌があります。残念なことに、一般的な真菌とロックアートで発見された色素性黒色真菌の関係はまだ究明されていません。オリジナルの塗料は、黒色真菌から木の樹液、ツムギアリや、バオバブの実の果肉まで何でも含まれています。有機材料が含まれているため、このようなバイオフィルムが成長したと説明することができます。

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現在、90 種の岩絵のサンプルの配列を解析しているところです。Jack Pettigrew 教授は、「18S 遺伝子の pyrotag 解析から得られる 200 bp フラグメントの予備的分析では、(突然変異率を、多くの真菌と同じく 3X10-9 置換/場所/年と仮定した場合) これらの異なる場所の絵画の推定分岐 40,000-130,000 年で、プロジェクトが正しい軌道に乗っていることを示しています。19 箇所の岩絵から採取した 90 以上のサンプルを解析することによって、他の Dothideomyces (クロイボタケ) の系統樹との比較および完新世の変化の検証による突然変異率の推定値だけでなく、これらの数字の微調整が可能になるはずです。」と話しています。