2MacTempasX の概要
3つのシミュレーションステップ
HRTEM 位相コントラスト画像のシミュレーションは、構造計算、散乱プロセス、イメージ合成の3つの計算に分割することができます。MacTempasX は、Calculate メニューコマンドを使って、それぞれの独立した計算を呼び出すことができます。
- Full Calculation
開始ポイントからイメージ合成までのすべての計算を行うコマンドです。
- Projected Potential
結晶の投影ポテンシャル、すなわち単位格子の大きさ、対称性、原子の位置や占有率、温度因子など結晶構造データから電子の分布状態を計算します。
- Exit Wavefunctions(s)
出射面における電子波動場を生成するコマンドです。電子顕微鏡の加圧電圧、試料の厚さと傾斜のデータ、投影ポテンシャルを用いて計算します。計算アルゴリズには、マルチスライス近似方式を採用しています。
- Image(s) normal calculation
電子顕微鏡像の強度を計算します。対物レンズの位相変化、分解能を制限する収差の影響を、焦点外し、球面収差、入射ビームの収束、焦点外しの範囲、対物絞りの位置とサイズなどのパラメータを使って計算します。
- Image Plane Wavefunctions(s)
電子顕微鏡像の波動関数を計算します。出射面における電子波動関数のフーリエ変換/逆フーリエ変換を、コントラスト伝達関数 (CTF) を使って評価しています。顕微鏡像の波動関数は、電子ホログラフィによって見つかった電子波動関数との比較されます。
Calculate メニューの残りのコマンドは、メニューの章で説明します。
結晶の投影ポテンシャル (Projected Potential コマンド) の計算では試料の構造のみを考慮しますが、電子波動場 (Exit
Wavefunctions(s) コマンド) の計算では試料と電子波動の相互作用を取扱い、Image(s) normal calculation コマンドでは電子顕微鏡のレンズシステムを考慮したシミュレーションを行います。一度シミュレーションを実行したら、以後のシミュレーションではすべてを再計算する必要はありません。電子顕微鏡のパラメータ (電圧を除く) を変えただけなら、投影ポテンシャルおよび出射面の波動関数の計算には何の影響もありません。結晶構造像を再描画するだけで済みます。電子顕微鏡の電圧、または試料の厚さ・傾斜を変更した場合には、投影ポテンシャルの計算には影響はありませんが、出射面の波動関数と結晶構造像は再計算する必要があります。試料の構造を変更した場合は、もちろんすべての再計算が必要となります。
生成されるファイル
MacTempasX は、シミュレーションの過程で様々なファイルを生成し、保存します。主要な 6つのファイルは以下の通りです。
- <structurename>.at
シミュレーションを実行するのに必要な結晶構造および電子顕微鏡のすべての情報を保存します。これらは、ユーザーの入力データ、使用したデータファイルが元になっています。<structurename> には、結晶構造を作成するとき入力した構造の名称が使用されます。ファイル形式はテキストファイルです。
- <structurename>.pout
<structurename>.at ファイルに保存された情報を使用した、投影ポテンシャルの計算結果が保存されます。電子ビーム方向の投影ポテンシャルが保存されています。ファイル形式は、REAL(4) 型のバイナリファイルです。最初の 80 バイトにはレコード情報、つぎにデータが保存されます。第 1行目は、結晶構造像の底辺のデータが記述されます。これは、MacTempasX の座標軸は、画像および単位格子の左下が原点になるからです。データがインポートされている場合は、画像が反転して表示されます。
- <structurename>.mout
<structurename>. pout と <structurename>.at ファイルのデータを使って、マルチスライス計算を行った結果が保存されます。1つ以上の試料の厚さで計算した出射面の波動関数が含まれます。ファイル形式は、<structurename>.pout と同じ構造のバイナリファイルですが、実数と画像のバイナリデータが含まれています。データは 80 バイト目から始まり、複数の出射面波動関数が保存できます。
- <structurename>.iout
<structurename>.at ファイルの電子顕微鏡パラメータを出射面波動関数に与えて結晶構造像を作成した結果が保存されます。1つ以上の画像が含まれています。ファイル形式は REAL(4) 型のバイナリファイルで、80 バイト目からデータが始まります。
- <structurename>.hout
シミュレーションした結晶構造像の代わりに、投影面における電子波動関数の計算結果が保存されます。ファイルには、実数と画像のバイナリデータが含まれ、80 バイト目からデータ領域となります。複数の電子波動関数を保存できます。
- <structurename>.aout
試料の各スライス面における回析波の振幅が保存されます。回析波はユーザーが選択でき、試料の厚さの関数としてプロットします。
上記のファイルに加えて、印刷に使用するためのフィアル (めったに印刷されることはありませんが) が作成されます。
- <structurename>.p_prnt
Projected Potential メニューコマンドで、<structurename>.at の設定を使って投影ポテンシャルを計算した結果の印刷データです。
- <structurename>.m_prnt
Exit Wavefunctions(s) メニューコマンドで、<structurename>.at の設定を使って <structurename>.pout のデータを計算し、出射面の波動を生成した情報が含まれます。すなたち、マルチスライス計算の印刷データです。