19.9 一元配置共分散分析 (One Way Analysis of Covariance)

ANCOVA (Analysis of Covariance:共分散分析) は、ANOVA (分散分析) に共変量 (covariates) 呼ばれる単一または複数の変数を追加した拡張モデルです。共変量とは、調査者が統制する因子の外側にある単一または複数の因子群の測定値に影響を及ぼす変数です。共分散分析を使えば以下のことができます:

 

一元配置共分散分析について

1因子の分散分析 (ANOVA) は、研究の被験者を母集団から無作為に抽出し、被験者それぞれが受ける処理の確率が等しくなるよう因子水準や処理に各被験者を無作為に割り付ける完全無作為化計画 (completely randomized design) に基づくモデルです。一般にこの計画では、被験者が等質 (homogeneous) であることが想定されます。このことは、被験者間の差が存在するとしても、処理効果と有意な違いのある変数は他に無いため、それらをモデルに含める必要がないことを意味しています。しかし、単一または複数の因子群の中の測定値に影響を及ぼす変数が調査者の統制の外に存在することもしばしばあり、それによって、多重比較を含む、群平均や、それらの誤差、変動要因、および、群効果の P 値について調整が必要となることがあります。このような変数を共変量 (covariates) と言います。これらは通常は連続変数ですが、カテゴリ型になることもあります。共変量の研究における重要性は2次的であり、上述のように調査者によっては統制することができないものであるため、それらは主効果の因子として加わることはありませんが、モデルに組み入れることによって分析結果の精度を改善することができます。共変量は、撹乱変数 (nuisance variable)、補助変数 (concomitant variable) としても知られています。

SigmaPlot のワークシートには、ANCOVA データを、ANOVA 計画におけるそれと同様に、因子群を1列であらわし、従属変数 (観測データ) を1列であらわすインデックス付きデータフォーマットで配置しますが、これに加えて、共変量ごとに1列を設けます。使用するモデルに共変量の効果を含めると、従属変数の値の変動がそれだけ多く説明されることになります。これによって一般に無作為抽出の変動に由来する説明のつかない分散が取り除かれ、共変量を使用しない同一モデル (ANOVA モデル) と比べて ANCOVA の感度が向上します。検定の感度が高いほど、有意となる処理間の平均値の差が標準的な ANOVA モデルと比較して小さくなりますので、統計的検出力がそれだけ高まることになります。

ANCOVA の簡単な使用例として、ひとつの実験を考えて見ましょう。3種類の教育手法のいずれかに学生を無作為に割り当てて、学力試験の点数を測定します。実験の最終目標は、3つの教育手法の効果をそれぞれ測定し、その中のいずれかが他と比べて統計的に有意な高い平均点をとっているか否かを判定することです。教育手法の内訳は、講義 (Lecture)、自習 (Self-paced)、協同学習 (Cooperative Learning) の3つです。この仮想的データに対して一元配置分散分析を実行して得られた結果が、以下の表の ANOVA ヘッダの列にあらわしたものです。この結果からは、教育手法の間に有意差は無いと結論付けることができます。なお、この ANOVA モデルでは、観察における無作為抽出のばらつきによって生じる説明されない分散が 35.17 と見積もられている点にも注目してください。

この研究で、学生の成績をそれぞれ前回の成績と比べてみたとすればどうでしょう。ある特定の手法で学習した方が他の手法よりも伸びている可能性があります。この研究にたとえば、国の許可を受けた Standards Based Assessment (SBA) のような先行能力を測定する何らかの量を共変量として含めて精緻化してみましょう。一元配置共分散分析 (One Way ANCOVA)をこのデータに実行した結果が以下の表の ANCOVA ヘッダの列の内容です。

表の各手法ごとに与えられた調整平均値 (Adjusted Mean) は、共変量の効果を考慮してその群の平均値を補正したものです。調整平均値であらわすと講義 (Lecture) 手法に有意な学力向上が確認できます。なお、平均値の標準誤差はいずれも約3分の1に減少していますが、無作為抽出の標本のばらつきによる分散は、約10分の1に減少している点に注目してください。共変量を組み入れて ANCOVA 分析を実行することで、通常はこのように誤差が削除されることになります。

ANCOVA の概念およびそこで使用される計算方法に関するさらに詳しい説明は、Appendix をご覧ください。Appendix の Abstract セクションには、ANCOVA モデルの数学的説明と、SigmaPlot のレポートに実行される計算の概要が記載されています。

共変量を使えば、分析結果の精度を向上させる目的で、各種処理を拡張して一元配置分散分析以外の計画構造にすることができます。例えば、多因子の ANCOVA や反復測定の ANCOVA のモデルがあります。また、ANCOVA の代わりに、乱塊法 (randomized block designs) を使用することも可能です。