3.16 サイレント突然変異

クローニングプロジェクトで断片の操作が必要となる場合、適当な位置に制限酵素部位がないことがよくあります。このような場合、制限酵素部位を作成または削除できるように DNA 配列に変更を加えられると便利です。また、塩基配列を変更した部位がコーディング領域に残ることもあります。このケースでは、そうした広がりの DNA コードに相当するタンパク質配列に変更を加えることなく、DNA レベルで塩基配列に変更を加えることができるのが理想的です。この種の突然変異は、コード化されたタンパク質には変更を加えないのでサイレント突然変異 (silent mutation) と呼ばれます。Tutorial 6: “DNA セグメントのクローニングとサイレント突然変異” では、サイレント突然変異による部位の削除をハンズオンで説明しています。

GCK では、サイレント突然変異で新しい制限酵素部位を作成したり、サイレント突然変異で既存の制限酵素部位を削除することができます。サイレント突然変異を作成する前に、どの読み枠 (reading frame) を保持するのかプログラムには分からないので、タンパク質領域を選択する必要があります。タンパク質領域を選択しないと、メニューオプションは無効になります。

図 3.25:部位の削除 #1

 

サイレント突然変異による部位の削除

Construct > Features > Remove Sites by Silent Mutation を選択してプロセスを開始します。図 3.25 のようなダイアログが表示されます。最初のダイアログで、削除する部位の対象となる制限酵素を選択します。これは制限酵素を選択する基本的な機能です。GCK では、削除するために選択した制限酵素部位が実際に存在するかを確実にする必要があります。また、確認したければ他の制限酵素の候補を表示させることもできます。図 3.25 は、削除候補として多数の制限酵素が選択されているのを示します。OK ボタンをクリックすると、図 3.26 が表示されます。

図 3.26:部位の削除 #2

 

図 3.26 には、サイレント突然変異で削除できる可能性のある部位が3列のデータで表示されています。1列目には最初のステップで選択した制限酵素 (図 3.25 で選択したもの) を使って切断される可能性のある DNAg 内の全ての位置情報が表示されます。2列目には、1列目に示した DNA に認識部位がある制限酵素の名称がそれぞれ表示されます。3列目には、現在表示されているコンストラクト内で、その部位が実際にマークされているか否かに応じて yes または空欄が表示されます。図 3.26 に示すリストでは、サイレント突然変異を使って削除したい部位のいずれか (複数可) を指定する必要があります。図では、開始位置 375 の BamHI 認識部位が選択されています。OK をクリックすると、図 3.27 が表示されます。

g. この DNA は、ユーザーの選択領域をコードする DNA に対応する点に注意してください。

 

図 3.27:部位の削除 #3

 

この図の一番上には、考慮される認識部位の位置 (Site pos) と制限酵素 (Enzyme name) が表示されています。ウィンドウの一番上にある部位の位置は、ウィンドウに表示された制限酵素の認識配列の先頭のヌクレオチドである点に注意してください。前のダイアログと同様、このダイアログにも3つのデータ列があり、DNA の選択領域に対応するコーディング能力には変更を加えずに、認識部位 (開始位置 375) に加えられる変更内容の可能性が表示されます。1列目は、選択した制限酵素の現在の認識パターンで、変更されるヌクレオチドは小文字で表示されます。2列目は、突然変異をあらわす変更後のパターンの候補です。3列目は、変更されるヌクレオチドの実際の位置を示します。このケースでは、GGATCC から GGATtC への変更が選択されています (位置 379 にある C が T に変更されます)。この置換が実行されると、図 3.28 に示すように、このコンストラクトのシーケンスビューではその位置がハイライトで表示されます。

図 3.28:部位の削除 #4

 

サイレント突然変異による部位の導入

このプロセスは、サイレント突然変異による部位の削除で行った操作と似ています。タンパク質配列を選択したら、Construct > Features > Insert Sites by Silent Mutation を選択します。図 3.29 のようなダイアログが表示されます。このダイアログで、選択した領域に対応する DNA 部位となる可能性がある制限酵素の候補を選択することができます。このステップで、制限酵素の選択肢を実験室にある制限酵素のみに制限したり、または、クローニングプロジェクトの他の条件に一致する特定の1つか2つの制限酵素のみに制限することができます。OK をクリックすると、図 3.30 に示すような次のダイアログが表示されます。

図 3.29:部位の挿入 #1
図 3.30:部位の挿入 #2
図 3.31:部位の挿入 #3

このリストには5つの列があります。1列目 (Site Pos.) は、作成される新しい制限酵素部位の認識配列の開始位置をあらわします。2列目は、認識部位が作成される制限酵素の名称をあらわします。3列目は、変更が加えられる単一のヌクレオチドがリストされます。この事例では、認識配列と正確に一致する "exact match" が表示されています。4列目と5列目は、現行のヌクレオチドと変更後のヌクレオチドをあらわします。図 3.30 では、ヌクレオチド開始位置 120 に AfaI 認識部位が、位置 121 の C を T に変更して作成されます。OK をクリックすると変更が実行されます。図 3.31 はその結果をあらわします。変更が加えられたヌクレオチドのアルファベットは小文字で表示され、制限酵素部位がマークされている点に注意してください。