CrystalDiffract 7 チュートリアル
ようこそ!このチュートリアルは、1時間以内に CrystalDiffract 7 の主要な機能をすぐに理解できるように設計されています。理解を段階的に深めてゆくには、ステップを番号順にすすめてください。
まず、Gallery ウィンドウからデータファイルを読み込み、統合構造ライブラリから4つの結晶構造をインポートして、比較と相同定 (phase identification) をおこないます。作業の途中で、プログラムのインターフェースとパターンを操作・測定する方法を確認します。
無償の「デモ版」をご利用の場合、ファイルの保存など一部の機能に制限が設けられていますのでご注意ください。特別なユーザー・エクスペリエンスと継続的なサポートをご希望の場合は、フル機能版をご購入ください。
- 火山結晶のミステリー
- ギャラリーを一覧する
- 各パーツの名称
- 厳選された構造ライブラリ
- 構造を検索する
- パターンを表示する
- マルチタッチを使ってパターンを操作する
- マウスによるプロットのスクロール
- 拡大ツールによる選択領域のズーム
- 特別なスクロール機能
- 範囲を正確に指定する
- バックグラウンドを除去する
- カーソル機能
- 定規で距離を測定する
- ルーペで細部を調べる
- パターンを整列する
- パターンをフィルム状にして評価する
- 混合物をシミュレーションする
- 混合物を編集する
- ピークの特定
- 反射のテーブル表示
- 作業内容を保存する
- まとめ
火山結晶のミステリー
イギリスのスコットランドと北アイルランドの間に連なる古代の火山を地質学者が調査しています。溶岩流の遺物と考えられる細粒岩石から白くて大きな結晶が発見されました。この白い結晶は、地球史の初期における地殻の進化を解明する手がかりになる可能性があります。 しかし、まずはじめにその結晶が何であるかを特定する必要があります。X 線回折は既に行なわれているので、我々の役割は、地質学者が結晶を同定するのを支援することです。
我々が作業に使う観測によって得られた回折パターンは、シンプルな xy テキストファイル Observed.dat として地質学者によって提供されたものです。このデータは、ギニエ (Guinier) フィルムカメラを使って X 線回折法により測定されました。内標準物質 (internal standard) として Silicon を添加しました。
地質学者は、この地域特有の鉱物学的知識からこの白い結晶についてピンとくるものがありました。最終的に次の3つの候補に絞られました:
- Albite (NaAlSi3O8), 曹長石
- Anorthite (CaAl2Si2O8) 灰長石
- Analcime (NaAlSi2O6.H2O) 方沸石
これらはいずれもアルミノケイ酸塩鉱物であり、最初の2つは、地殻で最も一般的な鉱物である長石 Feldspar の異なる種になります。3つ目の方沸石 Analcime は非常にレアな鉱物で、火山性メルト (融体) の水質条件に関連するものになります (ただし、無機化学者にはおなじみのゼオライト構造に関連しています)。我らが地質学者は非常に興奮しています!
ギャラリーを一覧する
通常は、お使いのコンピューターのファイルシステムを使用して開きたいファイルを見つけたら、それを CrystalDifFract で開きます。ここでは、便宜上、プログラムが最初に起動したときに表示される Gallery ウィンドウを使ってファイルを読み込みたいと思います。
- CrystalDiffract を起動します。Gallery ウィンドウが表示されます。もし、表示されない場合は、メニューバーから View > Gallery を選択してください。
Gallery ウィンドウに表示されたサンプルファイル
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Gallery は、作業にとりかかる出発点としての機能を果たします。プログラムを最初に起動したら、Examples ファイルのグリッドが表示されます。それ以外にも、Video Tutorials、Documentation、Support のリンク集といったリソースを選択できます(また、通常のユーザーは、“Recent Files” 見出しのなかに作業ファイルがグループ分けされているのを確認できます)。
- ウィンドウのサイドバーから “Self-Guided Tutorial” というタイトル項目を選択します。内容は画面右側に表示されます。
- “Observed” ファイルをダブルクリックして開きます(または、このファイルをクリックして選択状態にしたら、このウィンドウの右下にある Open ボタンをクリックします)。新規ドキュメントウィンドウが開き、粉末回折パターンが以下のように表示されます:
CrystalDiffract に読み込んだ観測された回折パターン
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おめでとうございます!これでデータが揃いました。このチュートリアルの残りの部分では、これらのデータを使って作業を進めていきますが、まずは、先ほど表示したドキュメントウィンドウについて少し説明しておきましょう。
各パーツの名称
我々の仮想的 X 線検査室ともいえる CrystalDiffract のユーザーインターフェースを理解する必要があります。
- ウィンドウにサイドバーが表示されていない場合は、ウィンドウのツールバーにある Sidebar ボタンをクリックして表示します。ウィンドウは以下のようになっているはずです: -
サイドバーを開いた例
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サイドバーをご覧ください。取り込んだデータファイルは、ツールバーの下、ボトムバー(「+」と「…」アイコン)の上にある “Patterns List” 領域に表示されています。このリストを使用することで、CrystalDiffract の重要な機能の一つ、すなわち、同一ウィンドウで複数パターンの取り扱いが可能になります。
一般的なワークフローは左から右の順になります:
(a) サイドバーの Patterns List に回折パターンを読み込む
(b) 中央の Diffraction ペインで読み込んだプロファイルを確認する
(c) プロファイルの表示とシミュレーション・パラメータを Inspector で調整する
回折ウィンドウの主要な3つの部分
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次に、未知の結晶を同定するために、いくつかの参照パターンを追加する必要があります。そのために、プログラムに統合された構造ライブラリを詳しく調べます…
厳選された構造ライブラリ
CrystalDiffract には、1,000種類以上の結晶構造を収録した統合ライブラリが装備されています。これは単なるデータベースではなく、結晶世界の構成要素である主要な造岩鉱物を含む、厳選された主要マテリアルのコレクションです。
- サイドバーのボトムバーにある Add (+) ボタンに移動します。クリックして、ポップアップメニューを表示したら、Pattern from Library を選択します (又は、File > Add to Window > Pattern from Library を選択)。
サイドバーの Add ボタンを使用する
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シートウィンドウ (Mac) またはダイアログ (Windows) が表示され、ライブラリブラウザのインターフェースが以下のように表示されます:
ライブラリブラウザ
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このライブラリは、化学的性質に基づいて3つの主要セクションに分類されています:
- Hybrid Materials
(ハイブリッド材料)
- Inorganics (無機物)
- Organics (有機物)
(ハイブリッド材料は、無機材料をベースにしたフレームワーク構造の新しいクラスです。ケイ酸塩結合などの無機グループの代わりに有機分子が組み込まれています。)
現時点で私たちが興味を持っているのは、天然に存在する無機物質である鉱物、具体的には、曹長石 (Albite)、方沸石 (Analcime)、灰長石 (Anorthite)、そして、シリコンです。
構造を検索する
- Library ブラウザの右上の隅にある Search フィールドに移動して、 “Albite” と入力します。入力内容に応じて関連する結晶が表示されます:
Library ブラウザの構造
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検索のデフォルトは、自動モード (Auto) で実行するよう設定されており、ファイル名だけでなく、ファイルの内容(Note、メタデータ、化学式など)に基づいて結果が表示されます。これを変更し、ファイル名のみで検索したいと思います。
- Search フィールドの下にある Scope Bar に移動して、そこにある Name オプションを選択します。検索結果には次の 2 つの構造だけが表示されるはずです。
Albite を Name で検索した例
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- “Albite [low]” 構造を選択します。周囲の条件に良く適合するからです。 “Albite [low]” の行を選択して、ライブラリの OK ボタンをクリックします。Diffraction ペインに新規の回折パターンが追加されます。
- Library ブラウザを使って Analcime, Anorthite, Silicon をドキュメントに追加します。現在のウィンドウは以下のように表示されているはずです:
全ての構造を読み込んだ例(Range ボタンで 0~80 を指定)
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パターンを表示する
パターンリストを詳しく見てみましょう。各行は個々の回折パターンを表しています。1つを除くすべてのパターンに「結晶」アイコンが表示されていることに注目してください。これらは、ライブラリブラウザから読み込んだ結晶構造に基づいてシミュレートされた回折パターンであることをあらわしています。観測されたパターンには、実際のパターンであることを強調するために、別のアイコンであらわされています。
観測されたパターン (上) と、その下に読み込まれたシミュレートされたパターン (結晶アイコン) が表示されたパターンリスト
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リストの右側には色分けされたチェックボックスがあり、それぞれ Diffraction ペインの対応するパターンのカラーに対応しています。
- シミュレーションによるパターンのチェックをすべて外し、観測されたパターンだけを選択状態にします。これで、観測されたパターンのみが表示されます。
マルチタッチを使ってパターンを操作する
以上で、観測された回折パターンを探索する準備がととのいました。ここでは、マルチタッチを使ってスクロールとズームを試してみることにしましょう。
マルチタッチ:全てのポータブル Mac と、Magic Trackpad を搭載したデスクトップコンピューターでマルチタッチを利用できます。さらに、トラックパッドは現在多くのラップトップ PC で利用できるようになっており、デスクトップ PC にも追加できるようになっています。もし、お使いのコンピューターにトラックパッドが無いか、マルチタッチに対応していない場合は、このセクションは読み飛ばしてください。 |
- ピンチしてズーム:プロットの水平方向の範囲は、標準の「ピンチ」ジェスチャーを使って縮小したり、「拡大」ジェスチャーを使って拡大することができます。
(CrystalDiffract はトラックパッド上の最初のタッチ位置を検出するので、ズームの中心はトラックパッド上で指の位置を変更することで変更できます。)
「拡大」ジェスチャー
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- スライドしてスクロール:お使いのシステムが二本指のスクロールに対応するよう設定されている場合は、トラックパッド上で二本指をスライドさせることによって回折パターンを左右にスクロールすることができます。
「スライドしてスクロール」ジェスチャー
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- スライドしてスケール:お使いのシステムが二本指のスクロールに対応するよう設定されている場合は、トラックパッド上で二本指をスライドさせることによって回折パターンをスケーリングすることができます。
「スライドしてスケール」ジェスチャー
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マウスによるプロットのスクロール
デフォルトの Scroll Tool を使用すれば、マルチタッチがなくてもマウスやキーボードで回折パターンを操作できます。
- ツールバーの下にあるツールストリップで、Scroll tool(
)がハイライト表示(つまり、青く表示)されていることを確認します。ハイライトされていない場合は、アイコンをクリックしてアクティブにします。(右側の「hkl」アイコンなどのハイライト表示は気にしないでください。これらはオーバーレイを示しており、デフォルトでアクティブになっている可能性があります。)
Scroll tool をアクティブにしたツールストリップ
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- Scroll tool をアクティブにした状態で、マウスで Diffraction ペインを左右にクリック&ドラッグして、パターンを水平方向にスクロールします。
- 垂直方向 (強度) のスケールを上げ下げするには、マウスを上または下にドラッグします (マウス ホイールがある場合は、それを使用して行うこともできます)。
拡大ツールによる選択領域のズーム
ここまで、デフォルトのスクリーンツールの Scroll ツール (
) を使用していました。これを変更して、関心領域を簡単にズームしてみましょう。
- ツールストリップから Magnify ツール (
) を選択します。
- Magnify ツールをアクティブにして、回折グラフの任意の場所をクリックします。クリックした場所のパターンが拡大表示されます。これは特に正確ではありませんが、便利な機能です。幸い、Magnify ツールは別の方法でも使えます。拡大したい特定の長方形を定義するのです。
- 回折のピークのいずれかに注目し、そのピークの周囲で拡大ツールをクリック&ドラッグして破線の四角形を定義してマウスを放すと、四角形の範囲を拡大できます。
Magnify ツールでズームする:上図:ズームしたい矩形範囲を指定。下図:ズームした結果。
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特別なスクロール機能
グラフィックプログラムのほとんどは、固定フレーム内に収まらない画像があればそれをスクロールバーを使ってスクロール表示します。CrystalDiffract には、これよりも優れた機能があります。それは、回折パターン全体を表示する “Scroller” パネルです。
- ツールストリップを使って Scroll ツール (
) に戻します。
- Scroll をアクティブにして、Diffraction ペインをクリック&ドラッグします。画面の左上に Scroller が表示されます。
Scroller の表示例
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- Scroller のサムネイルをクリック&ドラッグすることで回折パターンの位置を変更できます (サムネイルの左右どちらかの側をドラッグすれば、パターンを連続的にスクロールすることもできます)。
Scroller はマウスボタンを放してから数秒後に消えるため、従来のスクロールバーにあった「乱雑さ」は回避されます。
範囲を正確に指定する
CrystalDiffract では、マウスを使用する代わりに、x 軸の正確な範囲を数値で指定できます。
- メニューから View > Range > Set Range を選択します (ツールバーの Range アイコン
を使用しても同じです)。Plot Range シートが表示されます。
- 2つのテキストフィールドに 30 から 40 の範囲を指定します (フィールド間の移動には Tab キーを使用します)。OK ボタンをクリックして続行します。
Plot Range シート
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ここで指定した X 軸の範囲で回折パターンがプロットされます。
- プロット範囲を元の状態に戻してみましょう。ツールバーの Autoscale ボタン
をクリックします (メニューから View > Range > Autoscale を選択しても同じです)。
バックグラウンドを除去する
Observed パターンには不均一な凹凸のバックグラウンド (ベースライン) があるのににお気づきでしょうか?これは、マイラーフィルムにサンプルをマウントして透過モードで測定したことが原因です。このバックグラウンドを削除したいと思います。これによって、このパターンのピークとシミュレーションによるデータとの比較が容易になり、特性を評価しやすくなります。
- Patterns List で、Observed パターンが選択されているのを確認してください (もし選択されていない場合は、そのタイトルをクリックするだけで選択できます)。
Patterns List で Observed パターンが選択された例
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- インスペクターが表示されているのを確認して、Simulate タブをクリックして選択します。
- Background グループをクリックしてバックグラウンドに関するコントロールを表示します:
Background グループ
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- Calculate ボタンをクリックします。CrystalDiffract によりバックグラウンド曲線が計算され、その曲線が Diffraction ビューに表示されます。
自動計算されたバックグラウンド
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- Subtract background curve チェックボックスをオンにすると、バックグラウンドを除去できます。Observed データは背景が除去された状態でプロットされます。
- ツールバーの Intensity ボタンをクリックし、ドロップダウンメニューから Autoscale Y (Y軸の自動スケール) を選択します(または View > Intensity > Autoscale Y を選択します)。強度の値は自動的にスケールされます。
Observed データからバックグラウンド関数を差し引いたもの。
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以上で、Observed(バックグラウンド補正された)データを測定できるようになり、それをシミュレートされた理想的な回折パターンと比較する準備が整いました。
カーソル機能
CrystalDiffract には、表示されたパターンの水平位置 (x 値) とそれに対応する強度 (intensity) 値 (y 値) を測定するのに使用できる Cursor Overlay 機能が用意されています。
- ツールストリップの Cursor Overlay ボタン (
) をクリックします。
Cursor を選択状態にしたツールストリップ
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Diffraction ペインに縦の赤いカーソルが表示されます:
グラフと縦のカーソル
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カーソルにラベルが付いていることに注目してください。グラフ上部のボックスには面間隔 d が表示されます。対応する x 軸の値(この場合は 2θ 度)はグラフ下部のボックスに表示されます。カーソル位置の y 軸の値は、グラフ上のポイントのラベルと、グラフの凡例(右上隅)の2か所に表示されます。
- マウスポインタをカーソル上に置くと、ポインタの形状がサイズ変更アイコンに変わります。カーソルをマウスでクリック&ドラッグすると、それに応じてカーソルのラベル内容が更新されるのを確認できます。
- カーソルを非表示にするには、Cursor Overlays ボタンを再度クリックして、カーソル項目の選択を解除します。
定規で距離を測定する
CrystalDiffract の Ruler overlay 機能を使えば、ピークとピークの間の距離を測定できます。
- ツールストリップで Ruler ボタン (
) をクリックします。Ruler overlay が表示されます:
- ルーラーをマウスでクリックしてドラッグすると、その位置を変更できます。Y座標が表示され、2つの垂直カーソル(ラベル付き)が表示されます。
- マウスポインタを右側(緑色)の定規カーソルの上に置きます。マウスポインタの形状がサイズ変更アイコンに変わります。Ruler をクリック&ドラッグすると定規カーソルが移動し、定規自体のサイズも変更されます。これを左側の定規カーソルでも繰り返すことで、例えば2つのピーク間の距離を測定することができます。
2つのピーク間の水平距離を測定する
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- Ruler を非表示にするには、ツールストリップの Ruler を再度クリックして選択を解除します。
ルーペで細部を調べる
ルーペは、宝石職人や時計職人が細部を観察するために使用する手持ちのレンズです。CrystalDiffractには、パターンそのものは拡大縮小せずに、特定の部分だけをより詳細なスケールで調べるために設計された仮想ルーペが搭載されています。
- ツールバーの Autoscale グループで、AutoScaleXY (
)アイコンをクリックします。プロット範囲は X 軸と Y 軸の両方向に沿って自動的に調整され、表示されているパターン全体が表示されます。
- ツールストリップの Lupe アイコン (
) を選択します。回折ペイン上にルーペ オーバーレイが表示され、高解像度のビューが表示されます。
ルーペを使用して、観測パターンの一部を拡大した例
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- ルーペをクリック&ドラッグして位置を変更します。
- ルーペのサイズを変更するには、ルーペ上にマウスポインターを移動し、マルチタッチの「ピンチ」ジェスチャを使用します。(マルチタッチに対応していない場合は、ルーペの右下隅をクリックしてドラッグすることでサイズを変更できます。)
- ルーペの拡大率を変更するには、ルーペ上にマウスポインターを移動し、マルチタッチの2本指垂直スライドジェスチャ(トラックパッド上で2本指を上下にスライド)を使用します。(マルチタッチジェスチャがない場合は、ルーペを右クリックし、コンテキストメニューから新しい拡大率を選択することで、ルーペの倍率を変更できます。)
- ルーペを非表示にするには、ツールストリップの Loupe を再度クリックして選択を解除します。
パターンを整列する
個々のパターンを操作する方法がわかったので、次は複数のパターンを同じウィンドウに整列して表示させる方法を見てみましょう。
- 回折ウィンドウの画面左側にある Patterns リストに戻ります (もし、Patterns リストが表示されていない場合は、メニューから View > Show Sidebar を選択します)。
- プロットされていない残りのパターン、すなわち、Albite, Analcime, Anorthite, Silicon のチェックボックスをオンにします。シミュレーションによるこれらの相の回折パターンは、Graphics ペインのプロファイルとして色分けして表示されます。
- メニューから View > Intensity > Stacked を選択します (ツールバーの Stack ボタン
をクリックしても同じです)。パターンがきれいに積み重なりました。
積み重なった回折グラフ
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- Patterns リストの Silicon エントリーをクリックして Silicon パターンを選択します。凡例に表示される内容が更新され、Silicon パターンが選択されたことが表示されます。
- インスペクターの上部にある Display タブをクリックして、Display コントロールを表示します。
- Position & Scale グループを開き、Y Offset のスライダーとテキストコントロールに移動します。テキストフィールドに 100 と入力して、Return または Enter キーを押すと、パターンが更新されます。
シリコンの Y オフセットを変更
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- 選択したパターン(Silicon)を最前面に移動して、他のパターンの上にプロットします。これを行うには、メニューから Pattern > Arrange > Bring to Front を選択します。回折パターンの順序が変更されたことに注目してください。この変更は Patterns にも反映されています。
- メニューから View > Intensity > Collapsed を選択して、プロットの積み重ねを解除します (ツールバーの Unstack ボタン
を押しても同じです)。
パターンをフィルム状にして評価する
異なるパターンを比較する最も簡単な方法は、仮想フィルムの帯として並べることです。こうすることで、ピークの高さの違いによる複雑さがなく、どのピークが一致するかがわかりやすくなります。(もちろん、ピークの強度も重要ですが、線の相対的な濃さから判断できます。)
- メニューから View > Film を選択します。パターンがフィルム状に表示され、現在のプロット順で積み重なります。
- フィルムの種類がグレースケールの「ネガ」に似ていることを確認してください。必要に応じて、View > Plot > Film Type > Greyscale を選択してフィルムスタイルを変更します。
- パターンの位置を並べ替えます。Patterns List で Analcime を選択し、Observed のすぐ上にドラッグします。同様に、Silicon を Observed のすぐ下にドラッグします。
これで、観測パターンにどの相があらわされているかを適切に評価できるはずです:
回折「フィルム」の比較。分かりやすくするために、Inspector は非表示にしています。
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分かりましたか?Observed パターンには内標準物質として Silicon を添加したことを覚えているでしょう。Silicon のラインは Observed と見事に一致しています。残りのラインも… Analcime と非常によく一致しています!
強度に微妙な違いが見られます。これは、観測された回折パターンを記録するために写真フィルムを使用したこと、およびフィルムがわずかに露出オーバーだったこと(強度の高いピークがフィルムを飽和させている)によるものです。
Albite と Anorthite の回折ピークは Observed パターンと一致しません。特に、Albite と Anorthite にある 22° 付近の低角度ピークは Observed パターンには存在しません。
- Patterns リストで、Albite と Anorthite のチェックボックスをオフにします。Graphics ペインには、2つのシミュレーションパターン(Analcime と Silicon)と、観測されたパターン(バックグラウンドを除外)が表示されます。
混合物をシミュレーションする
次に、観測されたパターンを再現するために、Analcime と Silicon の2相の混合物をシミュレーションします。
- Silicon と Analcime のパターンを選択状態にします:Patterns リストで Analcime をクリックしたら、command キー (Mac) 又は control キー (Windows) を押したまま Silicon をクリックします。
- Patterns リストで右クリックして、New Mixture with Selection を選択します。新たに "mixture" というパターンがプロットに追加されます。これは選択した2つの成分 Silicon と Analcime を同じ比率で混合したものをあらわします。
混合パターンのアイコン
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- Analcime と Silicon のチェックボックスを解除して、混合物のシミュレーションと観測されたパターンだけが表示されるようにします。:
観測されたパターンとシミュレートされた 2 相混合物の比較。
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- View > Graph アイコンをクリックして、フィルム表示をグラフ表示に切り替えます。
混合物を編集する
混合物を作成したので、今度はその組成を編集します。3 つの成分の相対的な割合を変更し、これが複合回折パターンにどのように影響するかを確認します。
- メニューから View > Intensity > Stack を選択してパターンを積み重ねます (ツールバーの Stack ボタン
をクリックしても同じです)。
- Patterns リストで Mixture エントリをクリックして、シミュレーションによる混合物を選択します。
- Inspector が表示されていることを確認し、Simulate タブをクリックします。
- Mixture 開示ボタンをクリックして Mixture の各種コントロールを表示します。シミュレーションによる2つの相が同じ割合 (0.5) で表示されます。
- Mixture リストにある Analcime アイテムを選択状態にします (このリストでいずれかの相を選択することは、プログラムの他の場所の選択とは独立している点に注意してください)。
- スライダーを調整して、Analcime の割合を変更します。このとき、Silicon の割合も変化することに注意してください。Lock mixture total チェックボックスが混合物全体の合計を一定に保つよう示しているからです。
Tip: この Lock チェックボックスを解除すると、混合物の成分を個別に調整できるようになります。ただし、大きな注意点が1つあります:CrystalDiffract では混合物全体の合計は 1.0 を超えることはできませんので、もしある成分の割合に大きい値を入力すると、他の成分の割合が自動的に再設定されます。
- 制御をより厳密に行なうには、スライダーの右側にある数字をクリックして表示される編集用テキストボックスに 0.4 と入力してください。キーボードの return キーを押すとこの組成で混合物が再プロットされます。
シミュレーションによる混合物の組成を調整する例
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ピークの特定
以上で、観測された結晶 Observed の特性がよく分かったので、今度は、シミュレーションによるパターンとそのピークの測定法について注意を向けることにします。
- 回折パターンの積み重ねを解除します。ツールバーの Collapse ボタン (
) を押すか、メニューから View > Collapsed を選択してください。
- Patterns リストの Observed のチェックを外して、観測されたパターンを非表示にします。
- マウスポインタ―を Graphics ペインの各ピーク上に移動します。それぞれのピークを特定する “Peak Tips” が表示されます。Peak Tip の内側をクリックすると、枠が広がり、そのピークに関するさらに詳しい情報が表示されます:
ピークチップを展開した例
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- Mixture パターンが選択状態になっていることを確認して、Display インスペクターの Peak Labels グループを開きます。“Show Labels” チェックボックスをオンにします (※訳注:Peak Labels グループの右側にあるチェックボックスをオンにする)。シミュレーションによる混合物にピークラベルが表示されます:
混合物のパターンの各ピークに相別のラベルを付けた例。
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なお、分かりやすくするために、弱いピークにはラベルが付いていない点に注意してください。
反射のテーブル表示
ここで、Reflexions List を使用して、選択パターンの特定の反射を見つけます。
- Patterns リストの色分けされたチェックボックスを使って、Mixture パターンを非表示にして、(シミュレーションによる) Analcime を表示してください。(また、View > Range > Auto Scale を選択して、プロット範囲の自動スケールを指定してください)
- Analcime をクリックして選択状態にします。
- ツールバーの Reflexions ボタン (
) をクリックします(メニューから View > Reflexions List > Show Reflexions List を選択しても同じです)。スクロールする反射リストが表示されます。これは現在選択されているパターン(ここでは「Analcime」に設定)の反射です。
- ここで、Analcime(211)反射を見つけたいとします。反射リスト上部の検索フィールドに 211 と入力し、Enter キーまたは Return キーを押します。カーソルが表示され、ピークの位置が示されます。
Search フィールドを使用して表示されたピークを特定した例
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- Reflexions List の任意の反射をダブルクリックすると、プロットされた回折ピークが表示されます。リストを下にスクロールして 040 反射まで移動し、そのエントリをダブルクリックしてみてください。040 反射の位置は Diffraction ペインに表示されます。
Tip: Graphics ペインでピークのいずれかをダブルクリックすると、Reflexions リストの該当するエントリに直接移動できます (Reflexions リストの行をダブルクリックしても逆の操作を行うことができます)。
- Reflexions リストを非表示にするには、Search フィールドの左側にある閉じるボタン (x) をクリックします (又は、ツールバーの Reflexions ボタンを再度クリックするか、メニューから View > Reflexions List > Hide Reflexions List を選択します)。
作業内容を保存する
最後に、これまでの作業内容を単一の自己完結型の CrystalDiffract ドキュメントに保存することにしましょう。このドキュメントを使用することで、オリジナルのファイルは一切使用せずに、ウィンドウ内で行ったすべての作業内容を再構築することができます。
CrystalDiffract ドキュメントのアイコン
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CrystalDiffract 7 では、観測パラメータとシミュレーションパラメータのすべての精度を最大限に高めるために設計された、新しい 64 ビットデータ形式が採用されています。これらのドキュメントには、Note とグラフィカルな各種プレビューも含まれています。プログラム自体には、ファイルプレビューとサムネイルを生成するためのシステムプラグインが付属しているため、 “CRDX” ファイルアイコンではなく、保存した実験のプレビューが表示される場合があります。
- メニューから File > Save コマンドを選択し、作業したセッションファイルの名称と場所を指定します。
- CrystalDiffract を終了します:Mac では、CrystalDiffract > Quit コマンド、Windows では、File > Exit コマンドを使うか、または、回折ウィンドウの Close (閉じる) ボックスをクリックします。
- プログラムを再起動して前回保存したセッションファイルを開きます。前回と同じウィンドウサイズ、同じ位置、同じ表示になるはずです。
Tip: Gallery ウィンドウの Recent Files グループを使えば、最近保存したドキュメントを開くことができます。
まとめ
CrystalDiffractチュートリアルはこれで終了です。お疲れ様でした!ギャラリーウィンドウの使い方、観測データの読み込み方法、ライブラリでの構造の参照方法、画面上のパターンの操作方法、測定方法、情報に基づいた比較方法、混合物のシミュレーション方法、相の比率の編集方法などを学びました。
実験用のワークベンチとして
CrystalDiffract は、回折パターンを表示するだけではありません。構造を全くのゼロから新規作成したり、構造データを編集したり、原子散乱因子の表示や編集を行ったり、データテーブルをエクスポートしたり、個々の回折プロファイルを保存することもできます。もちろん、高解像度のベクトルグラフィックとしてコピー、保存、プリントすることも可能です。
回折プロパティの構造的制御
CrystalDiffract は、CrystalMaker と連動するよう設計されています。CrystalMaker で結晶構造を表示したら、メニューコマンドひとつで、その回折プロファイルをシミュレーションすることができます。CrystalMaker で作成した構造に変更を加えたら、それが回折プロパティにどのように影響するかを即座に確認することができます。CrystalDiffract の同一ウィンドウ内に回折パターンを複数表示できる機能は、構造と回折の関係を分析するための優れた機能と言えます。
相の識別
CrystalDiffract のもう 1 つの機能は相の識別です。プログラムは、観測されたピークの位置と強度を自動的に検出し、これらを非常に広範な内部回折ライブラリと比較して、最も一致するもの、つまり可能性のある位相を報告します。
(そして、なぜチュートリアルであれほど多くの手順を踏む手間を省いて、最初から単純に Phase ID を使用しなかったのかと疑問に思うかもしれません。それはそれほど楽しいことではなかったでしょう?もっと平凡に言えば、開始データの品質があまり高くなく、飽和したピークが多かったため、自動識別には理想的ではありませんでした。)
リートベルト法による多相構造の精密化
CrystalDiffractには、いわゆる「リートベルト」法を用いた結晶構造の精密化機能も搭載されています。これにより、観測された回折パターンと適切な初期構造を組み合わせ、後者のパラメータを観測データと一致するように精密化することができます。これは非常に強力な手法であり、プログラムのユーザーガイドで詳細をご覧いただけます。