![]() |
| サイトマップ | |
|
CrystalMaker 11 には、エネルギーモデリング機能をはじめとするパワフルな機能が装備されました。最新バージョンでは、2025年ノーベル化学賞で世界的に注目されている有機金属構造体 (organo-metallic structures) 、特に多孔性材料のゼオライト・イミダロゼート・フレームワーク ZIF (Zeolitic imidazolate framework) や金属有機構造体 MOF (Metal Organic Framework) などのエネルギーモデリングが大幅に改善されています。 この記事では、CrystalMaker 11 の概要と主要な新機能をご紹介します。
I. エネルギーモデリング |
CrystalMaker 11 では、ユーザー様のご要望に応えて、結晶材料のエネルギー・モデリング機能が搭載されました。スーパーコンピューターを使わなくとも、高速でインタラクティブなシミュレーションをお使いのデスクトップ上で非常に手軽に実行できるようになります。
なお、分子構造については、v10 でも利用できましたが、v11 から同じ操作で結晶構造の緩和も行えるようになりました。
![]() |
エネルギーモデリングの特徴は、4つあります。
→「プログラムのアップデート等の管理も容易!」
他のソフトウェアの場合、モデリング機能とシミュレーション機能は、それぞれ個別のプログラムに分かれていることが多いですが、CrystalMaker では、これらが1パッケージに統合されています。プログラムのアップデートの管理も容易です。
![]() |
→「幅広い構造に対応!」
組み込みのライブラリでは、一般的な二元系および三元系の酸化物、ハロゲン化物、および一部の半導体材料がカバーされます。比較的大規模な系でもお使いのPC上で計算できます。
→「ボタン1つですぐに計算を実行!」
プログラムは結晶構造の結合関係からローカルな配位環境を定義し、それに基づいて適切なポテンシャルを適用します。ユーザーはボタンをクリックするだけです。
![]() |
→結晶構造の緩和をインタラクティブに実行!
これは、最小二乗法だけでは、緩和するのが困難な有機分子結晶にとっては1つの大きな利点です。モンテカルロ法のメリットは、分散力 (すなわち、ファンデルワールス結合) を処理できることです。特に大規模な分子や分子結晶の構造や挙動を取り扱う場合に重要です。最小二乗計算による精緻化プロセスでは、 Newton-Raphson 法が使用されます。
![]() |
このような特徴をもつ CrystalMaker のエネルギーモデリング機能ですが、どのような分野で有効なのでしょうか?必ずしも、すべての分野で有効というわけではありません(たとえば、タンパク質などの巨大な構造は困難な部類に属します)。開発元が推奨する分野はこのようなものです。
結晶構造の緩和にかかる計算時間の大まかな目安を紹介します。単位格子当たりのサイト数に応じて「数秒~数分」の範囲になります。ご参考にしてください。
分野 | 結晶構造 | サイト数/単位格子 | 緩和時間 |
---|---|---|---|
分子結晶 | Caoxite | 32 | 19秒 |
無機構造(バッテリー材料) | LiMn2O4 | 56 | 10秒 |
無機構造(半導体) | CdSe | 4 | 0.3秒 |
ZIF | ZIF1 (C6H6N4Zn) | 152 | 6分30秒 |
エネルギーモデリングを適用できる分野として、1つ目は分子結晶です。 分子結晶は、他の多くのソフトウェアよりもはるかにうまく処理できます。これは、DFT プログラムではうまくいかない領域です。 補正項を含まない DFT 法では困難な「分散力」、つまり分子間の弱い「ファンデルワールス」結合を取り扱えます。
![]() |
2つめは無機酸化物結晶、たとえばバッテリー材料の LiMn2O4 です。この構造はすでに緩和されていますが、[Relax] ボタンを押すと、エネルギーが上昇し 、その後再び低下することがわかります(モンテカルロアルゴリズム)。
![]() |
このような半導体材料についても有効に機能します。セレン化カドミウム、CdSe [六方晶相]セレン化カドミウムは、n 型の II-VI 半導体として分類されます。
![]() |
CrystalMaker 11 の最新のモデリングでは、ZIF (ゼオライト・イミダロゼート・フレームワーク) などの複雑な無機構造をモデル化できます。 「DFT」プログラムでは計算が困難なとても複雑な構造です! この多面体ビューでは、緑の五角形がイミダゾレート グループ (C3N2H3)、灰色の四面体が ZnN4 グループです。
![]() |
CrystalMaker 11.6 では特に金属有機構造体 MOF (Metal Organic Framework) のエネルギーモデリングが大幅に改善されています。スーパーコンピュータが必要なエネルギーモデリング計算も、デスクトップ上で実行できます。MOFのシミュレーションは簡単です。Relax ボタンをクリックするだけで、緩和構造に基づいて特性と振動を計算できます。
MOF 構造は適切に定義されている必要があります。
MOF のポテンシャルは3つの部分に分かれています。
例としては、ZIF(ZIF-1、2、3、3、6など)、UIO-66、HKUST-1(Cu)、MIL-53 などがあります。 以下の図は金属有機構造体 (MOF) の UIO-66(Zn) 構造を CrystalMaker で最適化したものです。
![]() |
さらに、CrystalMaker では結晶表面を緩和することができます。バルク構造に上下2つの表面を追加して「スラブ構造」を作成し、それを緩和できます。 こちらは原子数が多い分だけ計算時間もかかります。
![]() |
![]() |
II. フォノン |
固体の物理的性質は、電子状態によるものと原子の平衡位置まわりの運動によるものに分けられます。このうち熱的性質は原子の運動によって説明されます。電子に比べると、原子核の運動はその質量が遥かに大きいことから、とても遅いものとなるので、これらは分けて考えられています。 結晶は巨大なスケールで見ると周期的な物体です。結晶中の原子核の振動は分子よりも複雑なものになりますが、このような振動は「フォノン」と呼ばれる一連の進行波であらわされます。CrystalMaker 11 では、このフォノンの分散曲線を計算し、結晶の振動モードをアニメーションであらわすことができます。
![]() |
まず、画面左側で逆空間内の任意の「始点と終点」を指定します。デフォルトは逆空間の原点である Γ (ガンマ) 点 (0, 0, 0) と (0, 0, 1/2) です。このほかにも、(0, 1/2, 1/2)、 (1/2, 1/2, 1/2) を選べます。これらは通常、構造の第一ブリルアン・ゾーンの対称性の高い点になるよう選びます。
![]() |
対象とする構造の第1ブリルアンゾーン (原点と逆格子点の垂直2等分面で囲まれた多面体) の Γ 点 (0,0,0) を始点、辺、頂点、または、面の中心といった対称性の高い点を終点に選びます 。ブリルアンゾーンの領域と対称性の高い点の座標は、構造の空間群によって変わります。
※ SingleCrystal 5 でブリルアンゾーンを表示した例。
|
|
Ge の場合、(0,0,1) がブリルアンゾーンの z 方向の面の中心座標になりますので、(0,0,1) を終点に指定します。 始点と終点を選ぶと、分散曲線が作成されます:波数ベクトルに対する振動数 (frequency) のプロット(モード)です。光学フォノンと音響フォノンがこのようにあらわされます(ブランチ分枝という)。
![]() |
マウスで縦波を選択すると、波数ベクトル(伝播方向=z)と同じ方向に格子が振動します。 この場合、画面上側がフォノンが伝播する方向の z 方向になります。
![]() |
横波を選択すると、z 方向に対して垂直に振動するのを観察できます。
![]() |
フォノンを計算すると、フォノンの各モードから「状態密度」を求めることができます。
![]() |
![]() |
複雑な構造の例として、SrTiO3 があります。相転移を引き起こすといわれる「回転歪み」を観察できます。
III. 温度のシミュレーション |
CrystalMaker 11 では、結晶構造に対する「温度や圧力」の影響をシミュレーションできるようになりました。
![]() |
モンテカルロシミュレーションでは2つの統計的母集団(アンサンブル)を選択できます:
ここで、N は原子数(粒子数)、 V は体積、 T は温度、P は圧力です。NVT を選択すると、格子パラメータは固定されます。NPT を選択すると、格子パラメータが変更されます。
![]() |
温度のモンテカルロシミュレーションは、構造最適化と同様の方法で進められます。
![]() |
シミュレーションの実行中は、このようなプロットがリアルタイムに更新されます。
![]() |
IV. その他の新機能 |
CrystalMaker 11 では、この他にも役立つ新機能が追加されています。主なものをいくつか紹介します。
フォノン・モードを計算すると、フォノンの状態密度が求まりますが、これらのデータから以下の熱力学的特性を予測できます:
![]() |
また、原子間ポテンシャルに関する知識を使用して以下の物性を予測できます:
![]() |
分子構造を結晶構造に置き換える際、パッキングの「トポロジー」、すなわち、分子の位置や方位や間隔を、文献や回折実験の結果など既知の情報と照らし合わせながら手動で探索するためのツールです。
![]() |
CrystalMaker 11 の Library アイコンから CrystalViewer を呼び出して結晶ライブラリを使用できます。
![]() |
まとめ |
![]() |