| サイトマップ | |
||
温泉、地下水、沢水、湧水の水質研究、
|
|
国立大学法人弘前大学地域戦略研究所 地球熱利用総合工学研究室 井岡聖一郎 教授 |
2024 年現在、私が在籍している青森県弘前市にある国立大学法人弘前大学地域戦略研究所の地球熱利用総合工学研究室は、その研究室の名前からイメージできるように研究内容は地熱発電や地熱直接利用 (発電ではなく地熱を熱のまま利用する:温泉も地熱直接利用の一つ) に関する研究を中心に行っています。青森県は北八甲田火山群、陸奥燧岳、岩木山など第四紀の火山が存在しており、地熱資源探査地域としてこれまで深度 1000m を超える地熱調査掘削井の掘削がなされていますが、未だ地熱蒸気発電所の建設には至っていません。これは、青森県において地熱発電に必要な三要素といわれている “熱源”、“流体”、“地下構造 (地熱流体が貯留されている構造で断層割れ目などの空隙)” のうち、どれかが未発見かどれも発見されていないということです。そのような現状で、今一度青森県内における温泉、地下水、沢水、湧水の水質研究から地熱兆候の検出や評価に関する研究を行っています。
The Geochemist’s Workbench で扱っているデータは、フィールドで採取した温泉、地下水、沢水、湧水を実験室に持ち帰り水質分析をした結果で、これらの数値を The Geochemist’s Workbench に入力して解析しています。水質分析に使用している機器は主にイオンクロマトグラフ (Thermo Fisher Scientific 社製) や紫外可視分光光度計 (HACH 社製) です。また、フィールドでは温泉、地下水、沢水、湧水の物理化学特性パラメータである水温、pH、酸化還元電位、溶存酸素濃度などの数値も計測して The Geochemist’s Workbench の入力値として用いています。
地熱発電に必要な三要素の一つである “地下構造 (地熱流体が貯留されている構造で断層割れ目などの空隙)” に存在する地熱流体の温度を推定する Geothermometry 解析に React を使用しています (図 1)。Geothermometry 解析では、分析した水質分析の結果を入力して結果を出すだけではなく、Geothermometry への CO2 の脱ガスの影響や未分析の微量元素を考慮した解析を実施しています。また、The Geochemist’s Workbench の熱力学的データベースは一つでだけではなく数種類含まれており、データベースごとの Geothermometry 解析も行ったりしています。
さらに、水質に影響を与える微生物活動の評価では微生物に関連する Available Energy の解析に Rxn (thermo.com.V8.R6+.tdat) から得た結果を利用して解析を行っています (図 2)。
私が博士号取得後、2000 年代前半にポスドクで地下水の酸化還元状態の研究に携わっているときに地下水の水質組成から Eh と pH の関係 (Pourbaix diagrams) を簡単に図化できる解析ソフトはないかと探したのがきっかけでした。その後、地下水の酸化還元状態に関する研究に加えて、温泉、地下水、沢水、湧水の地熱兆候の検出や評価にも The Geochemist’s Workbench は非常に有用であることがわかったので現在も引き続き使用しています。もちろん、地熱兆候検出においても水の酸化還元状態は関係しています。そのため、酸化還元状態の研究と地熱兆候検出の研究は互いにリンクしながら現在研究を続けています。
地下水の酸化還元状態に関する研究ではよく Eh-pH 図 (Pourbaix diagrams) を利用しますが、やはり図の作成が容易なところは個人的には魅力的です。また、The Geochemist’s Workbench の製作者である Craig M. Bethke が、Geochemical Reaction Modeling (First edition) を 1996 年、Geochemical and Biogeochemical Reaction Modeling (Second edition) を 2008 年、Geochemical and Biogeochemical Reaction Modeling (Third edition) を 2022 年にというように継続して The Geochemist’s Workbench に関する書籍を出しているところが User には非常にありがたく (特に、Geothermometry の章)、また The Geochemist’s Workbench を魅力的なものにしている一つだと個人的には思います。
水質に関連する解析ソフトは、世界中には The Geochemist’s Workbench 以外にも様々な解析ソフトが存在しています。そのような現状において、今後は異なる解析ソフト間における同じデータを用いた解析結果の比較情報の開示などがあればより The Geochemist’s Workbench の特徴が理解されると同時に The Geochemist’s Workbench の水質研究における貢献度が高まるのではと思います。
本事例作成に関し、井岡教授のご協力に感謝いたします。
(インタビュー:2024 年 8 月)
※所属・役職は取材当時のものです。