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乱流現象の研究に Tecplot を活用

独立行政法人
産業技術総合研究所 (つくば市)
コンパクト化学システム研究センター
主任研究員 永翁 龍一 博士
(所属は取材当時のものです)

乱流研究における現象理解やモデリング構築に欠かすことのできない、三次元的な乱流現象の可視化で Tecplot が大いに役立っています。

 

研究されている内容について教えてください

流体力学の中でも、乱れが激しく三次元的に複雑な流れの挙動が見られる「乱流」が研究の中心になっています。この研究では、特に液体中の乱流と、気体と液体の界面 (気液界面) との相互作用や、気液界面を通した二酸化炭素等の気体の液体への移動過程、あるいはこの界面から熱が移動する際に発生する浮力の効果による液体中の乱流現象への影響、といった課題に重点的に取り組んでいます。また最近では、化学物質等の安全な取扱に関連して、可燃性気体の閉鎖空間への漏洩時における着火や火災に対する安全性の解析についても研究を実施しています。

 

tecplot で取り扱っているデータとその測定方法を教えてください

Tecplot で扱うデータは、主として Fortran 90 にて作成した自作プログラムからの、三次元的な流速場とスカラー場の出力を扱います。このデータはある一定の時間間隔毎にハードディスクに書き込み、おおよそ100 から 200 程度の瞬時データを収集します。渦度やその他の統計量や物理量は、これらの瞬時データからさらに後処理にて計算します。現在所有するデータのうち、最もサイズの大きい瞬時データは、自作プログラムから直接出力されたバイナリデータで、1 個あたりおよそ 2.8 GB 程度、Tecplot で取り扱っているデータの大きさはこれよりもやや大きく、3.5 GB 程度になります。

処理システムの写真は図1となります。Intel Core i7 M640 と NVIDIA GEFORCE GT335M を搭載したノート PC にて、三次元の渦度場構造を可視化している最中の写真を撮影したものです。右側に写っている小さな物体がデータ記録用 HDD であり、IOMEGA 製で2TB の容量があります。

図1: 乱流輸送現象の可視化シ ステムの構成例

 

tecplot をどのような用途で活用されていますか?

圧倒的な頻度で計算結果の可視化に利用しています。特に乱流の研究においては、三次元的な乱流現象の可視化が、その現象理解や乱流現象のモデリングの構築には欠かせません。また乱流現象の解析手法にはいろんな方法がありますし、いろんなパラメータを定義して数値的な処理を行うこともできますが、有効な解析手法を模索する際にも、乱流現象の可視化ツールとしての Tecplot には大いに助けられています。

例として、気液界面を有する乱流場の一つとして知られる開水路乱流場における乱流渦構造の時間発展の様子を可視化したものが図2です。[1] この乱流場では、底面が壁になっておりその上を液体が流れ気液界面が形成されますが、その底壁面近傍には青いコンター面で表示したような流速の遅い流体が発生し、この流体に対応するように乱流渦が時間発展します。このような三次元的な乱流構造も簡単に可視化でき、さながら実験室での実験結果を詳細に観察しているように錯覚することさえあります。

図2:乱流中の渦構造の時間発展の可視化例

 

tecplot を使い始めたきっかけは?

もともと 1994年に現在の職場 (当時は工業技術院資源環境技術総合研究所) に入所した際に、配属された研究室には当時はかなり高価で高性能であったグラフィックワークステーションに別の流体可視化ソフトウェアがインストールしてあり、主にそれを利用していました。ところが簡単な乱流現象の可視化ですら複雑なネットワークを作成して可視化せねばならず、その可視化の仕上がりにも少々不満がありました。その後 1998年に短期の在外研究を実施するためにヨーロッパのある国のある研究所を訪れた際に、Tecplot が大々的に導入してあったため、その存在を初めて知りました。その研究所で Tecplot を使ってみて、ユーザーインタフェースがシンプルに作られており、操作も簡単で、質的にも満足のいく可視化出力が得られることがわかったため、在外研究から帰国してすぐに本格的に Tecplot を使い始め、もう 10年以上が経過しています。

 

tecplot の便利な機能は?

もう 10年以上も他の流体可視化ソフトウェアを使った経験がないので他製品との比較の上での便利さについては不明で詳しいことはわかりません。ただ Tecplot の中での気に入っている機能としては、透明度を変化させた三次元的な等値面の作成ができることを挙げたいと思います。[2]

この機能は意外に便利で、図3のように 5段階の透明な三次元等値面を重ね合わせて、平面な紙面上に掲載される図面にいくらかでも立体感をもたせるように工夫することができます。また、432 × 512 × 271 というような比較的大きなサイズの格子点を用いた三次元的な可視化も可能です。 (図4:出典 (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aic.13773/abstract) 中の Figure 5) [3]

図3:透明度を設定した等値面を重ね合わせて作成した、乱流中に発生する渦構造の可視化例
図4:約 6,000万点の格子点データを用いた乱流構造の可視化解析例

 

可視化に使った PC の仕様は、プロセッサに Intel Core i7 M640、メインメモリ 8GB、グラフィックカードには NVIDIA GeForce GT 335M (1GB RAM) と、さしてハイスペックな構成ではないものの、十分な速度と応答性のある可視化が可能でした。また最近では、非商用の CFD パッケージとして注目が集まっている OpenFOAM と連携させた流体運動の可視化も実施しています。(図5) [4]

この図は、閉鎖された室内中に漏洩する可燃性ガスの濃度の時間変化を示したもので、やはりここでも透明度のある等値面を重ね書きして、いくつかの違った条件での可燃性濃度の分布を同時に一枚の絵に示しています。

図5:OpenFOAM と Tecplot とを連携させたデータ可視化例

 

どのような研究者の方に勧められる製品ですか?

Tecplot 360

流体解析を主な研究分野とする研究者にお勧めします。乱流を扱う研究者にも、複雑な流れや熱・物質移動を伴う現象なども、容易に三次元的に可視化することが出来ます。自作の Program を使う研究者も、また、OpenFOAM や Fluent などの CFD パッケージを使う研究者も、簡単なデータコンバート程度だけで、手持ちのデータを可視化することができます。OpenFOAM との連携が容易である点には、大いに助けられています。

(本事例作成に関し、永翁博士のご協力に感謝いたします)

  (インタビュー:2012 年5 月)

 

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