Mathematica には Python と比べ実用として使えるコード例がネット上に少ないと言われます。たしかに Mathematica を援用した例は https://www.wolfram.com/mathematica/ の[ソリューション]に多数紹介され、たとえばバイオインフォマティクス https://www.wolfram.com/solutions/industry/bioinformatics/ にも色々と例が紹介されていますが、どれもそれらの項目を実現する関数の紹介になっています。たしかに問題によっては単一関数を使うことで解決できるのもあるでしょうが、逆にいえば、単一関数で解決できるレベルの問題は研究とはいえません。その一方、Mathematica を使った研究は、たとえば https://arxiv.org/html/2401.09130v1 のように確実に存在します。
教育が先か研究が先かどちらが優先されるべきか論は決着をみていません。ただプログラミング言語において Python は明らかに実用が優先し、ついで研究にも使われ、教育は OJT に任されています。一方、Mathematica の場合、実用性は別して、教育用言語としての優位はその「簡明さ」においてゆるぎません。たとえば同一著者による機械学習の教科書 “Introduction to Machine Learning, fourth edition, Ethem Alpaydin” 2020/03/24 とその Mathematica ノートブック版 https://www.wolfram.com/language/introduction-machine-learning/ を比較すると、教科書のエッセンスが Mathematica コードによって「直観的に理解できるよう簡明」な形で反映されているのをみてとることができます。
Wolfram 社も何もしてこなかったわけではありません。たとえば Wolfram Demonstrations Project https://demonstrations.wolfram.com/ には 13,000 を越える膨大なサンプルコードが用意されてきました。(私を含めた)Python ユーザはもう少し大きな単位、あるいは実用レベルに近い単位で、サンプルコードをネット上で検索します。その意味で Demonstrations Project で扱われる単位は小さすぎます。それに対し Wolfram Blog https://blog.wolfram.com/ は、記事の一つ一つがテーマとなっていて、本来であればもっと活用されてしかるべきなのに案外に活用されている気配がありません。想像するに、「Mathematica を使えばこんなことができる」の紹介に終始していて、Python ユーザが計算したいテーマとはかならずしも合致してないからではないでしょうか。
ではどんな解が存在するでしょう。一つは実用を意識した教育カリキュラムを整えることです。これで Python ユーザを取り込むのは無理でしょう。しかし Mathematica ユーザを増やす起爆剤になるのは間違いありません。「急がば回れ」の精神です。そんなカリキュラムを Wolfram 社は立ち上げました:https://www.wolfram.com/wolfram-u/courses/catalog/ 。
全部は紹介できないのでテーマごとに1つとりあげ紹介させていただきます。