錠剤の付着問題を解消に導く実験計画

ユタ州ソルトレイクシティに本社を置くシフ・ニュートリション・インターナショナル社 (Schiff Nutrition International) は、ビタミン、栄養補助食品、スポーツ栄養食品の開発、製造、マーケティング、流通および販売を行っている会社です。この会社は最近、ある断続的に発生している問題の解決を目指す技術プロジェクトを立ち上げました。それは、マルチミネラル錠が高速回転するタブレットプレス機の金型の内側に付着するという問題です。同時に、錠剤の硬度を強化し、梱包や出荷の負荷に対する耐久性も向上させたいと考えています。

製造スタッフは、プレス機のパラメータを変えてみましたが思うように上手くいきません。そこで、統計的に計画された実験を開発することにしました。それは、個々の成分に対して一定の制約条件を考慮に入れる混合計画 (mixture design) でした。この実験結果で示されたのは、マルチミネラル錠の特性は標準的な配合でほぼ最適であるということでした。「錠剤の配合成分の違いそれ自体は、この問題とは無関係であるであることは明らかでした。」と、シフ・ニュートリション社の研究開発部門の科学者 Jarom Webster 氏は語ります。「従って、それ以外の役割を果たす可能性のある因子を探すことにしました。そして、プレス機の運用を片面から両面に変えたときにこの問題が解決することを見出しました。」

 

製品の背景

Joe Weider がスポーツ栄養食品事業を始めたのは 1940年のことです。シフ・ニュートリション社は、ウィーダー・ヘルスアンドフィットネス社 (当時の社名はウィーダー・ニュートリション) の栄養製品部門として発足しました。シフ社の主力製品には、Schiff®、Tiger's Milk®、Fi-Bar 等があります。 1997年には本社のあるソルトレイクシティに高度に制御された最新鋭の製造施設を建設し、こうした栄養食品を製造しています。シフ社は、全米最大の栄養補助食品事業者協会である全米栄養食品協会 (NNFA) の作成した栄養補助食品の製造品質管理基準 (GMP: Good Manufacturing Practices ) に準拠しています。

シフ社のマルチミネラル錠は、次に示す工程を経て製造されます。まずはじめに、様々な種類の粉末の混合物の目方を計り、ブレンドし、大型の袋に流し込みします。次に、その袋を別の工程エリアに移動します。ブレンドされた材料はそこからタブレット製造工程に送るためのホッパーに入れられます。

 

因子と応答

タブレットに含まれる主な有効成分はマグネシウムとキレート態の亜鉛です。タブレットには3種類の接合剤が必要で、その組成のおよそ半分 (正確には重量の 49.3 パーセント) になるよう調合されます。これ以外の含有物としては、潤滑剤、流動促進剤、崩壊剤があります。Webster 氏が実験した4種類の成分は以下のとおりです:

この実験の応答に含まれるのは、タブレットプレス機の圧縮レベルを3種類に分けて製造した場合の各タブレットの硬度で、これは Dr. Schleuniger 社製 6D 型硬度テスターによって計測されます。Webster 氏は、また、タブレットが 37℃ の水槽中で分解するのにかかる時間についても評価しました。更に、型抜き耐性 (punch tightness) についても試験しました。これは、タブレットを金型から抜き出す目的で下向きに加えられるパンチ力を計測するものです。これは、粉末がある特定の状況の下で金型の壁に貼り付き、その結果プレス機を停止させる可能性があるという観点から重要な計測になります。

以上、応答の全リストは以下の通りとなります:

実験の計画

Webster 氏は、因子と応答が特定した後、Design-Expert を使って実験の計画を行いました。

図1:臨界強度応答の応答曲面

Design-Expert には、3種類の原料を常に指定された合計内に収めるための特別なツールが装備されています。プログラムが配置した調合実験の数は 20 です。この中には、実験誤差を見積もるための反復実験も含まれています。この試験マトリックスでは、すべての因子が同時に評価され、次数の高い複数成分の交互作用効果が調査されます。

 

統計解析

図2:色分けされたグラフ。
配合の選択に関する相対的な望ましさの度合い (desirability) をあらわす。

 

Webster 氏は、実験結果を分析するためにそのデータを Design-Expert に入力し、各応答を説明する統計学的に有効な予測モデルと、その解析結果を可視化するグラフを作成しました。例えば、図1は圧縮力 45 kN の条件下で製造されたタブレットの硬度に関する応答曲面を示すものです。Webster 氏自身が目的とする内容を指定すると、その相対的重量がタブレットの各製造特性に配置されます。その後、このソフトウェアは、最終的な望ましさの度合い (desirability) を最大化する配合の組成を特定し、その結果を予測します。図2に示すフラッグは、この理想的な組成の位置を指し示したものです。

 

問題の解決

「この実験に基づいて最適化された混合物は、結局、我々が既に実行していた内容に非常に近いものであることが明らかになりました。」と Webster 氏は語ります。「また、この実験では考慮されていない変動 (variability) が非常に多く存在することも、この結果から分かりました。従って、我々は、当初の実験計画では考慮しなかった別の因子を全く別の角度から探してみようと考えました。」

Webster 氏は、形式から外れた実験ではあるけれども、タブレットの圧縮を片面または両面でおこなったときの違いを追跡し、その結果を記録してみてはどうかと製造担当に相談しました。この問題は、両面圧縮を使用したとたんに解決しました。「形式的に見ればこの問題は実験計画で解決されたことにはなりませんが、我々が外部因子と考えていたものが問題の原因であることを最終的に判断することによって、結果として解決に導いてくれたといえます。」と語ります。

「シフ社の DOE を成功に導いた重要な因子は、Stat-Ease によって提供される卓越したテクニカルサポートでした 」と Webster 氏は続けます。「彼らは、私が問題にぶつかる度に高度な専門知識で即座に回答してくれました。例えば、これとは別の DOE 研究ですが、私が試行数 35 の実験に着手しようとしたとき、その計画について Stat-Ease 社の統計コンサルタントのスタッフにメールで相談し、意見を求めたところ、彼らは 24時間以内に信頼に値するフィードバックを返してくれました。」